宮城教育大学環境教育研究紀要 第1巻

 

学校教育における情報システム運用の遠隔支援のありかた

―― 附属校の情報サーバを例にして ――

安  江  正  治* ・ 眞  壁   豊**

 

 要旨:コンピュータと情報ネットワークからなる情報システムの機能を利用者の視点から検討し、附属学校における同システムの改善を試みた。Windows 95 等を端末とするクライアント・サーバシステムにおいて、利用者参加型のシステム整備をおこなった結果、使いやすさと運用のしやすさを備えたシステムを実現することができた。本学の情報教育支援システムの運用事例から、初等・中等教育における情報システムにおけるネットワーク環境とネットワークサービスを活用するためのユーザインターフェースを提案する。

 

キーワード:学校教育、情報システム、ネットワーク、ファイル共有、運用支援

 

1.はじめに

 初等中等学校における教育設備の整備事業の一環として、学校へのインターネット接続や校内ネットワークの構築が文部省の指導のもとで行われている。このような整備に先立って、平成6年度に100校プロジェクト計画(文献1)が試行され、その成果報告から、インターネットというメディアは教育関係者の注目するところとなっている。インターネットというメディアは、新しい教育教材という特徴を有しているとともに、利用効果を上げるにはそれなりの利用技術を必要とする性格のものである。設備だけの整備ではなく、利用計画を実践するため手法を学ぶ研修や教育成果事例の研究報告など、充分な利用普及活動を行うことが必要である。さらに渡部、齋藤たちの報告(文献2)にあるように、利用計画をもっている学校への利用者支援活動も大切な課題である。

 この宮城県地区においても、学校間ネットワークが整備されつつあり、仙台市教育センターや宮城県教育研修センターのスタッフが中心となって、ネットワークの教育利用のための研修会や支援活動が行われてきてきている。これらのセンターには、ネットワーク運用の中枢システムという設備は整えられているが、教育現場への利用者支援を行うのに充分な人的体制は整えられていないのが現状である。学校間ネットワークという設備を教育の場に活用するための支援グループの育成が緊急の課題である。

学校教育の場に導入された情報システムは、導入業者が整備したままの形態では、授業を担当される先生がたばかりでなく、子どもたちにも使いやすいものとは言えないのが現状である。導入したシステ

*宮城教育大学環境教育実践研究センター、**宮城教育大学大学

ムで可能となるネットワークサービス機能が利用者に充分知らされていないことが多い。例えば、ネットワークファイル共有機能や、職員室の先生方の机の上の端末からのネットワーク利用、外部ネットワークへのトラフィックの負荷の減らしかた、また、それらを運用するための遠隔支援の機能などである。これらの機能は授業教材の共同利用や共同開発、研究授業のための授業設計などにおいて、先生方が校内外の先生方とネットワークを活用して共同研究を進める上で不可欠なものである。

 著者たちは、附属校のネットワーク情報システムにこのような機能を取り入れるように改善を試みた。この事例を学校教育における情報システムの構築と運用のあり方に関連して報告する。

 

2.学校教育に役立つ情報システムとは

 広域情報通信システム上に公開された学術研究や教育に関連した情報資源は、人々の知識の構築を助け、知的活動を方向付ける影響力がある。公開された情報を単に閲覧するだけでなく、学校の枠を越えて互いに教育課題を相談し合い、教育実践事例を公開し合うことも学校教育の先生方にとって可能になる。そのためには、学校教育の場に導入業者によって入れられる「一括導入のシステム」のままではなく、利用者もシステム整備に参加し改善してゆける「利用者にやさしい情報システム」が導入されることが望まれる。

このようなシステムが、学校教育の場に実現可能なことは、地域の教育ネットワーク構築と運用の活動に関連した斎藤たちの報告で言及され、実証されている。(文献2参照)

院教育学研究科(修士課程)教科教育専攻

 以下、ユーザインターフェースの視点から学校教育に役立つファイルシステム、クライアントアプリケーションと情報サーバシステムを記す。

 

2.1 ファイル共有システム

 本学の演習室システムにおいても、「利用者にやさしい情報システム」の観点から複数のファイル共有システムを併用している。それらは、UNIX 上の NFS(Network File System)、およびクライアント端末の OS に準拠した以下のファイル共有システムである(文献3)。

 

Win95 クライアント

      |

   (NetBIOS)

      |

   UNIX サーバ(samba)

 

MacOS クライアント

      |

   (Apple Talk)

      |

   UNIXサーバ(Apple Talk) 

 

のファイルシステム samba は、システム導入時には整備されていなかった。samba が運用されるようになったきっかけは、文献2にある学校教育ネットワークの支援研究の活動に参加していた学生たちや技術者たちからの協力と助言に負っている。

一方、本学の附属小学校のファイルシステムとして、先生方の使い慣れている Windows 環境で利用できるファイル共有システム:WindowsNT のファイル共有と samba を介したファイル共有の複合システムを構築した。UNIX サーバ上に Web サーバ Apache が稼働しており、ホームページのルートディレクトリは samba から参照できる。ファイル共有システムの構築により、先生方は、職員室の各自の机の上の端末の Windows 環境から UNIX を意識することなく、研究授業のための Web ページを作成し登録できるようになった。それと同時に、同じ端末から WinNT 上にある学習資源へのアクセスも可能になっている。このファイルシステムの概念を(3)に示す。

(3) Win95 クライアント

      |

   (NetBIOS)--- WindowsNT サーバ

      |

   UNIX サーバ(samba) 

 

 附属小学校の Windows95(略称 Win95)クライアント群はノート型パソコン20台程度で構成され、コンピュータ室に設置されている。このクライアント群は、研究授業などの場合は必要に応じて他の教室(例えば理科実験室)に移動して使われるなど様々な授業で活用されている。クライアント端末の多様な利用の結果、上記(3)のファイル共有システムを導入するまでは、端末の表示画面やディスク内容に不統一が生じ、子どもたちにとって分かりにくいばかりでなく、ディスク領域が少なくなるなど動作上にも支障をきたしていた。

 上記ファイル共有システムによって、クライアントのディスク上には、端末に共通のファイル資源を搭載し、授業ごとに必要になる教材ファイルは、NT サーバもしくは samba 上に置くことにした。この改良によって、Windows のメニュー画面を簡潔な階層構造にし、子どもたちに分かりやすい操作画面をデザインできるようになった。さらに、先生方は職員室の自分の机から簡単に授業のページの構築更新を行うことが可能となり、他教科の先生方とも相談しながら授業設計を試行し改善することがよりスムーズに行われるようになった。

 

2.2 アプリケーションプログラム

 附属養護学校の情報システムは、サーバマシンとして UNIX ワークステーション1台とクライアント群(MacOS と Win95)数台からなる。附属小学校のシステムに比べて、簡単な構成である。ホームページは、附属小、中のシステムと同じく、サーバコンピュータ上におかれている。養護学校においては、子どもたちへの情報教育でパソコンを使っている先生方は、クライアント群のパソコンには習熟しているが、UNIX ワークステーションには使い慣れていない。このような状況の場合は、サーバコンピュータを意識することなく、使い慣れているパソコン画面からホームページの更新作業を簡便に行える機能が必要である。この機能は、クライアントおよびサーバのソフトウェアを整備することで実現することができた。その手法は以下の1、2)である。

1) クライアントからサーバへのファイル転送を
   Windows環境のファイル操作で行う。

   (FTP Explorer(文献4)の導入で実現) 

2) 転送したファイルの属性変更を Windows 画
   面のアイコン選択操作で行う。 

 ファイルの属性変更は、ホームページを閲覧可とするために必要。

 この属性変更は、TeraTerm(文献5)のマクロ命令でサーバ上のシェルスクリプトを実行することで実現された。(補足1、2参照)

 UNIX サーバと Windows クライアントからなる系においても、アプリケーションソフトウェア群を工夫することで、利用者に使いやすいシステムにできることが今回の作業で判明した。この手法は、他の学校でも応用できるものである。

3.利用者にやさしい情報システム

 学習の場、教育の場にふさわしい情報システムは、画一的に運用されるものではなく、利用者のニーズを取り入れた柔軟な運用が望ましい。このような運用に適した学校教育の場における具体的なシステムは斎藤たちによって文献6で提示されている。単に提示するだけでなく、運用するための実践活動を地域展開ネットワーク研究会(文献3)として発展させている。前節で提示された、本学の附属校の情報システムの改善も、これらの文献で示されたネットワーク研究会に参加していた学生、院生たちの提案から始まった。この事例から、コンピュータやネットワークの運用にかかわる手法は、簡単に文書化できない面があり、手法が運用技術として人々に根付くには人的ネットワークともいうべき地域ネットワークの活動が大切であると言える。地域の教育ネットワークは、学校教育を担当する先生方ばかりでなく、地域の教育機関および地域ネットワークシステムの関係者の間に広まりつつある。このような地域ネットワークの例を文献7でも見ることができる。

 教育大学の本学の附属校において、総合学習の研究授業や教科の枠を越えた先生方の共同研究授業が行われ、その際、校内ネットワークおよびインターネットに接続した情報システムが活用されている。情報システムは、従来の教材提示の道具という段階を越え、ネットワークを介した先生たちの協調的活動という形で利用されている。今後は、授業計画の立案や実践事例報告とその評価といった先生方の教育学習活動になくてはならない教育情報システムとなることが期待される。

 

4.おわりに

 学校教育の先生方に適した「利用者にやさしい情報システム」は、自分たちの創意工夫で日々の教育活動に生かせるシステムに改善してゆけることが要請される。そのようなシステムは当事者たちだけで構築していくのではなく、今回の報告にあるように、関係者間の協調的な活動、および学生や大学院生たちの新鮮な感性にもとずく提案が不可欠である。大学や初等中等教育における情報教育のカリキュラムとそのための設備の整備が整いつつある現在、各校に導入された情報システムの有効な運用を支援する人的協力体制が大切な課題となっている。そのためには、大学における情報教育の在り方を、単に学生個人の学習のためととらえるのではなく、広域情報通信システムの建設に自分たちも参画しているとの自覚をもった指導を取り入れることが大切と指摘できる。

 

参考文献:

(1)コンピュータ教育開発センター、100校プロ
   ジェクト ホームページ

   http://p100.mgt.ipa.go.jp/100school/ 

(2)渡部昌邦、齋藤武夫:新100校プロジェクト
  “地域交流型地域展開”の試み

   http://www.abu.ne.jp/CEC98/ 

(3)宮城教育大学情報処理センター年報 Vol.4
   (1997) 

(4)FTP Explorer:Alan Chavis,Copyright(c)
   FTPx Corp. 

(5)TeraTerm:T.Teranishi Jun 7,1996 

(6)渡部昌邦,齋藤武夫:学びを支援する手作り
   ネットワーク

   http://www.katsyrao-
jhs.katsurao.fukushima.jp/SRC/masakuni/I
METS/index.htm

(7)柏インターネットユニオン、

   http://www.kiu.ad.jp/index.html 

 

 補足1)

  利用者の使っているクライアントの Window 画面からサーバに遠隔ログインして、サーバプログラムhpを実行するためのマクロ命令 kakikae.ttl のリストここでは、ホスト名、利用者名、パスワード等は別名にしてある。

 

; Sample macro for Tera Term

; ファイル名:kakikae.ttl

; open Tera Term

 

connect ‘ホスト名'

 

; set username

UsernamePrompt = ‘login:'

Username = ‘ユーザ名'

PasswordPrompt = ‘Password:'

Password = ‘パスワード'

Prompt = ‘$ '

Command = ‘hp'

Logout = ‘exit'

 

; login

wait UsernamePrompt

sendln Username

 

wait PasswordPrompt

sendln Password

 

; OK, auto login complete.

wait Prompt

sendln Command

wait Prompt

sendln Logout

 

 

補足2)

  ファイル属性を変更するためのサーバ側プログラム hp の内容

 

 #!/bin/sh

chmod -R 777 /mnt/WWW/htdocs