宮城教育大学環境教育紀要 第2巻

 

「総合学習」の教育実践活動に関する日中共同研究の報告

――環境教育を事例として――

古賀 正義・陸 秀 芹**

 

1.共同研究のねらい

 周知のごとく、平成10年7月、文部大臣の諮問機関である教育課程審議会は、平成14年度から実施される教育課程の改革案を発表し、教育課程の3割削減を提案するとともに、単なる知識の詰め込みや児童一律の教え込みを改め、自ら学び自ら考えることを主眼とした新たな学習として、「総合的な学習」の導入を決定した。

 この学習では、環境問題や国際化、情報化、高齢化など現代社会に密着したテーマを選択し、小学校3年生から高校生まで、その発達課題に即して、週あたり2,3時間の学習に取り組むことが求められている。しかも、ここでは従来のような学習評価はなく、また学習内容の選択も各学校の自主裁量に任せられているため、より創造的で創意工夫の活かされた学びが成立する可能性があると期待されている。

 もちろんこうした自由度の高さは、現在教育現場にさまざまな不安や戸惑いを生じさせているが、具体的な教育実践の積み重ねによって、子どもたちの「生きる力」を育み、地域社会や学校の実態に合った学習が形成されるものと期待される。

 一方で中国でも、こうした学習の必要性自体はしだいに高まってきているという。なぜなら、近年経済発展のなかで、厳しい受験体制と学歴社会の弊害が指摘されはじめ、過度に詰め込み・暗記型の学習に対する批判がみられるようになっているからである。いわば、社会学者ドーア(Dore,R.P.)のいう「後発効果」によって、急激な近代セクターの発展による学歴偏重が顕在化し、学習の手段化すなわち「否応なし学習」の問題がみとめられているからである。

とはいえ、経済成長の秘密を日本の教育実践から学びたいと来日する研究者の多くは、当初日本の教育のさまざまな歪みと学習指導の困難さの

宮城教育大学、**中国・東北師範大学

現状に率直な驚きを示す。そして、「総合学習」に代表される新たな学習方法の模索に、本国の将来を重ね合わせつつ、興味を抱くのである。とりわけ、「環境」をテーマとした総合学習は、大気汚染や産業廃棄物などの問題が身近になりつつある中国でも、理解しやすいものとして受け止められるだろうと陸氏は指摘する。

 そこで昨年来、「環境に関する総合学習」の日中共同研究に関する基礎的な作業すなわち学習の基本原理と実践方法に関する相互理解作業に着手することにした。

 以下、その経緯と簡単な成果をご報告したい。

 

2.研究の経過

 98年10月から作業は開始されたが、当初は現在の一斉授業に代表される伝統的な日本の学習指導に関して、文献とVTR教材による理解および学校見学などによる実地学習からの理解を進めた。その後、99年4月から以下の作業を行った。

@ 総合学習に関する新聞記事の収集

 切り抜き紙である『月刊子ども論』から、95
 年以降の総合学習の記事を集め、読み合わせた。
 特に、中教審を中心に政策的展開の過程に注目
 して、ディスカッションをした。

A 総合学習に関する文献の収集

インターネットによる文献検索−例_30えば東
 北大学図書館蔵書
http://www.library.tohok
 u.ac.jp/や日本書籍出版協会検索http://www.
 books.or.jp/など−の利用により、当初、加藤
 幸次編『総合学習の実践』黎明書房、1997年
 を選び読んだが、「難解」という陸氏の指摘か
 ら、長尾彰夫『カキュラム改革としての総合学
 習1−総合学習をたのしむ』アドバンテージサ
 ーバー社、1999年に切り替え、実践の方法と
 理論に注目して読み、ディスカッションした。

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B 総合学習に関する実践の理解

インターネットでの教員によるの検索−例え
 ば教育プラン研究所
http://plaza28.mbn.or.j
 p/〜yame31/など−を入り口にした上で、仙台
 市教育研修センター
http://www2.sendai-c.e
 d.jp/〜center/で、実際の市内の実践事例を冊
 子やデータなどに基づいて首藤主事らからお話
 しいただき、聞き取り調査を行った。また、宮
 城教育大学附属中学校での実践の見学と生徒か
 らの授業体験の聞き取りを行った。その後、資
 料整理とディスカッションを行った。

 

3.研究の成果

 こうした研究作業を踏まえ、陸氏は以下の抜粋に示すような、論文「総合学習の課題と実践」をまとめ、99年9月に帰国した。

(抜粋)「総合学習」としての環境教育の取り組み

 「環境教育」とは、人間が人間らしく生きていくためにクリアすべき生活課題について、人間の生活と環境とのかかわりについての総合的な理解と認識の上に立って、その解決をはかる力を育て、生活環境への責任ある行動がとれる態度を育てる教育のことである。

 環境をテーマとした総合学習は、以下のような点に留意して具体的に実践される必要があり、また学校行事や研究発表会などを通してその成果を公開していく努力が求められる。

@ 教育課程の編成の工夫

 環境教育で育成したい能力や態度に対応した活
 動内容と活動の場・時間を設定する。

 例えば、内容として、自然体験学習や環境調査
 活動、課題研究活動など、場・時間として、学
 校の裁量時間や道徳の時間などがある。

A 指導構成の具体化

 既習の学習内容を踏まえ、環境に関する問題を
 設定し提起する。

 例えば、社会や理科、国語などの知識から、「自
 然の環境」「資源エネルギーの有限性」などを
 立ち上げる。さらに、これを「学校の周りの環
 境から調べよう」など具体化する。

B 地域素材の教材化を可能とするテーマ設定

 地域から素材を収集し、それを選択して、テー
 マ設定する。

 例えば、この地区では「ごみ集積所」「S川」「作
 家賢治の居住地」があるので、「ごみ問題」「水
 質汚染」「賢治が愛した自然」を設定し、現実
 性があるか、合科になじむか、計画的に学習で
 きるかなどの点から検討する。

C 活動形態の工夫

 課題解決学習の形態を基本に、オリエンテーシ
 ョン→課題選択による学習→発表の手順で、
 実践する。いいかえれば、資料を読んで話し合
 い課題を意識化し、各班で課題を設定し調査活
 動を実施して相互に意見交換し、公の場で発表
 する。

 例えば、この手順を日程表にまとめ、タイムス
 ケジュールを示して、9月オリエンテーション
 →10月課題選択による学習→11月発表などと
 する。岩手県立総合教育センターの事例(同紀
 要)のケースは、次頁のようである。

D 発達段階に即した指導方法

 特に、児童生徒の興味関心や生活体験などを
 踏まえて、自分に合う課題を選択させ、相談に
ものったうえで、班を構成する必要がある。

 「ポートフォリオ学習」によって、研究の進展
を児童生徒に逐次記録させ、ファイルにまとめ
て、自己確認ができるように配慮することも必
要である。

 

4.まとめ

 以上のように、今回こうした学習の意義を理解し、今後の具体的な日中研究の基盤を構成した。今後両国の現状に鑑みながら、実践事例の交換と方法の開発に取り組みたいと考えている(文責・古賀)。