宮城教育大学環境教育研究紀要 第2巻

 

環境教育における情報通信メディアの活用と課題

安江 正治*。鵜川 義弘*。脇山俊一郎**。阿部  勲***。壹岐 壽彦***

 

要旨:情報通信網の整備と機能の向上によって、動画・音声を含めた多様な形式の情報のデータベース化が試みられてきている。このような情報通信の新たな機能を環境教育の分野に活用する場合の課題について、国内のいくつかの実践事例を取りあげて考察する。

 

キーワード:環境教育、サーバ、情報通信メディア、情報リテラシー

 


1.はじめに

 環境教育は、子どもたちの学習への動機付け、さらには社会のコモンセンスの形成に重要な役割を担っている。環境教育の在り方として、環境情報学的な視点の大切さを文献1で著者たちは提案した。環境情報学は、情報学の一分野ではあるが、「人と外界との関係を多面的、統合的にみる」、いわば知の統合化を目指している。(文献2参照)この統合的な観点から環境教育を社会に開かれた形で推進してゆくことが望まれる。そのための方法の一つとして、最近の情報通信メディアを活用することが挙げられる。教育分野における情報メディアの活用事例を概観し、教育効果のある事例となるために必要な条件を考察する。さらに、その考察をもとに、本学における情報通信メディアの活用実践事例を報告する。

 

2.事例紹介

 教育分野の情報基盤の整備については、地域教育ネットワークや校内ネットワークの構築が各地で進んでいる。それにともなって、ネットワークの教育分野への活用が先進的なグループにおいて始まっている。一つは地域教育ネットワークを中心としたものであり、そのような代表例として柏インターネットユニオン[3]があげられる。もう一方は、Wideプロジェクトの中で進展しているVirtual University,School of Internet[4]の活動である。前者においては、大学、研究所のグループが中核になって地域の教育ネットワーク運用への利用者支援および教育活動を行っており、社会に開かれた大学や研究教育機関の一つのモデルとして注目されている。後者も開かれた大学像および能動型の学習形態をネットワーク上の様々な機能を活用して展開していくことを目指しており、ネットワークの教育利用の在り方の一つとして高い評価を得ている。このVirtual Universityの運用形態は、授業内容を慶応藤沢キャンパス内だけでなく学外にもビデオ画像、OHP画像を取り入れたVOD(Video On Demand)サービスとして公開し、学生たちがいつでも聴講し、課題学習できるようになっている。VODサービスは、映像データを予めデータベースとしてビデオサーバ上に登録しておき、ユーザの要求に応じてネットワークを介して配信するサービスで、登録の仕方に工夫することで、必要な箇所のみの閲覧や説明文書・画像との同期が可能になる。

 本学においても、キャンパスネットワークが高速化(幹線1Gbps,支線100Mbps)され、上位サイトの東北地域のネットワーク(東北学術研究インターネットコミュニティ、TOPIC)にATMメガリンク接続(3Mbps)している。この学内ネットワーク網のデータ通信の能力は実質2Gbps(Gbps:Giga bit per second)程度あ


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             宮城教育大学環境教育実践研究センター、**仙台電波工業高等専門学校情報工学科

***宮城教育大学大学院教育研究科(修士課程)教科教育専攻


り、研究や教育への応用が期待されてきた。[文献5参照]

このような時期に、仙台電波工業高等専門学校において平成11年度の公開講座が開かれた。

その講座タイトルは、「PC UNIXによるネットワーク環境構築法」で、内容としてビデオサーバの構築とネットワーク配信、およびビデオコンテンツの作り方を含むもので、最新のネットワーク技術を受講生に伝える優れたものであった。その特徴は、この講座で修得した技術は、パソコンにVODサーバ機能を搭載することで、各学校の校内ネットワークをはじめネットワークが整備されているLANで実現できる汎用性と運用のしやすさを備えていることにある。この講座に参加した共著者の1人(阿部)は、その成果を、本学の附属校と遠隔地の学校(山梨大学附属小学校)と総合学習(「自然・環境」の学習)を共同で行ったときの授業風景をVOD化することに生かした。更にその後、学内で行われた協議会やコロキュームをはじめ、衛星通信のスペースコラボレーションシステムを使った遠隔授業のビデオ画像などもVODサーバ上にデータベース化することに成功している。[文献6参照]このようにして、大学のネットワークの整備が各種ビデオ教材のデータベース化へと応用され始めたと評価される。

 ビデオ教材をネットワーク上で活用することは、ある意味で学校教育への新しい情報リテラシーの導入とも言える。その際大切なことは、ネットワークなどの基盤整備やデータベースの構築という技術面だけでなく、これらの資源をいかに学習に役立てるかという、いわば情報リテラシーが求められる。本学のような教育学部においては将来教職の道に進む学生達に新しいメディアを取り入れた情報リテラシー教育の大切さが共著者脇山から指摘された。単に指摘するだけでなく、脇山の担当する情報ネットワーク演習の授業において以下のような試みが実践されている。

 上記公開講座のときに行ったRealVideoの環境を実際に構築し(ノートPC4台、ビデオ撮影機材などを授業の行われる教室(224番教室)に持ちこみ、プライベートネットワークを構築)、VODシステムの概要やコンテンツ作成法、ライブ中継などを実際に体験させた。この学習体験によってメディアの特性を理解しておくことが、後の教育現場での実践に生かされるとの考えからである。

 誠に、新しい情報リテラシーを学校教育に導入するには、学生時代にこのような体験学習は大切なことといえる。

 

3.環境教育におけるVODデータベースの有効さ

 環境教育は、文献7に伊澤が提案したように「自然のもつ豊かな教育力を積極的に発掘し、知的感動に満ちた体験を学校教育や社会教育、生涯学習に生かしていく」ことが一つの柱と言える。それは単なる知識の習得や体験に終わるのではなく、自ら知と感性を鍛え、まわりの仲間に伝えてゆくという積極的な行動となって社会に還元することが求められる。環境教育における体験型・能動型学習の大切さとは、このことを指している。このような体験型・能動型学習を個人や少人数の関係者の中に閉じこめておくのではなく、社会のコンセンサスとなってゆくように働きかけることが環境教育として求められている。このようなニーズを満たす手法として、最近の画像処理と情報通信技術の進展により、情報通信のメディアを活用することができるようになってきた。前節における柏インターネットユニオンやWideプロジェクトのSchool of Internetの活動は、広い意味での教育分野への情報技術の有効利用という性格を有している。ただ、手段として、柏インターネットユニオンにおいては、ダイアルアップ接続などの低速回線の利用にも配慮した活動であるのに対して、後者は、より高速な回線(VODデータ配信の48Kbps程度の帯域を保障する回線)を利用する場合を想定している。

 情報基盤の観点からは、校内ネットワークは100Mbps回線をスイッチングで分配する手法が主流になってゆくことが考えられる。実際、本学の附属校のネットワークもこのスイッチングの機能を有している。[5]このような回線が整備されているとき、同時に多数の端末から48Kないし220Kbpsの帯域を利用することも許されるので、ビデオデータを活用したデータベースの作成を試みることができる。映像情報をVODデータとして登録する際の動画・音声データ圧縮の方式MPEG(Moving Picture Experts Group,文献8参照)が利用できるようになり、またVODデータをネットワークを介して各端末で表示するためのアプリケーション(例えば、Real Player G2など)が教育分野にはフリーウェアとして公開されている。これらの状況から、VODデータは、教育教材として活用できる段階になったと言える。このようなVODデータ作成システムとして本学に導入されたシステム構成を補足に示す。

 ビデオデータは、ネットワークにそれなりの負荷をかけるが、情報の伝達という観点から着目される。文字や静止画像で表現できない様子―――授業の際の教師が子どもたちに語りかける語調や仕草、それに応える子どもたちの理解や関心の程度―――これらの様子を伝えるには、映像として映し出すことがより適している。前述の遠隔地の学校間との共同授業によって「自然・環境」の学習を展開してゆく様子を授業教材として残す場合、VODデータベースとすることが望ましい。但し、注意しなければならないことは、子どもたちの個別の姿がそのまま不特定多数の人が閲覧するかも知れないインターネット上に公開しないようにする配慮が必要である。対策として、URLやコンテンツを学内からだけ閲覧できる領域に置く、および、配信速度を学内向けの高速(220Kbps程度)にしておくなどの処置がとられている。

 

4.おわりに

 学校教育は、文化の伝承と発展という面から学校の中に閉じないで、広く社会とのかかわりの中から、子どもたちの健全な発育に資することが期待されている。そのための教育活動として、環境教育を取りあげ、人と自然や社会とのかかわり、その関わりの時代的な変化を見通して、自分たちの行動の指針としてゆくことが望まれる。教育現場においても情報通信基盤が整備されてきている現状は、これらの基盤整備が環境教育の学習活動に有効に生かされるには、授業事例を広く公開するとともに、情報メディアを利用しその構築に参画するグループの育成が不可欠である。このようなグループの育成が仙台地域において、大学や高等専門学校をはじめ市や県の教育機関を中心にして始まっており、情報通信の整備がこのような活動に役立っている。今後、教育関係者間の協調的な活動が教育現場にさらに広まってゆくことが展望される。

 

参考文献

1) 安江正治:環境教育のめざすもの

宮城教育大学環境教育研究紀要Vol.1

p.1(1998)

2) 藤 信男:知の再編とディジタルメディア

http://www.coe.keio.ac.jp/report/html96/NS/ns-9.html

3) 柏インターネットユニオン

http://www.kiu.ad.jp/

4) WIDE School of Internet

http://www.sfc.wide.ad.jp/soi/class/

5) 安江正治・鵜川義弘・阿部 勲・眞壁 豊・今野幸典:教育機関(初・中等および大学)における利用者にやさしいネットワークの運用の在り方

情報処理学会「分散システム/インターネット運用技術」研究会(19999)99-DSM-16-11

6) 阿部 勲:研究報告のページ

http://swan.ipc.miyakyo-u.ac.jp/isao/index1.html

7) 伊沢紘生:EECプロジェクト研究

宮城教育大学環境教育研究紀要Vol.1

p.57(1998)

8) 市川明彦:MPEGの説明

http://funada11.denshi.numazu-ct.ac.jp/ichikawa/mpeg/mpeg.html

 

補足:VODデータベースシステム

本システムは、キャンパスネットワーク高速化計画の一環として本学に導入され、[コンテンツ編集端末]、[VODサーバ]、[ファイルサーバ]からなる。

 

[コンテンツ編集端末]は、

HP Vectra/Kayakシステム

CPU Pentium6400MHz、メモリ128MB、ディスク9GB

ディスプレイ17"1280x1024、フルカラー

・ビデオデッキ(Sony WV-D9000)

・インターフェースボード:MPEG-1ボード、

またはReal Video専用エンコードボードで構成され、編集ソフトMPEG-1のエンコーダやReal Producer G2などを搭載している。

 

VODサーバ]は、同時に100台の端末へのデータ配信を行うためのツールIP/TVのスライドキャスト機能を有している。

パソコンなどのUNIXのOS上で構築可。文献6)では、Vine LinuxのもとでRealG2 Serverを使ってVODサーバを構築している。

 

[ファイルサーバ]として、本学の情報処理センターのファイルサーバシステムを指定することも可。このファイルサーバ上の個人領域またはグループ領域にコンテンツを登録することで、グループウェア的な作業が可能になる。また、コンテンツの編集および試作段階では、VODサーバの増設ディスク(9GB)を使うこともできる。