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研究報告

広瀬川水系を構成する支流群の流出特性

西城 潔*・丸井陽子**

要旨: 広瀬川水系を構成する4本の4次水流河川(新川川・広瀬川本流・青下川・芋沢川)において流量観測を行い、降水条件や土地条件との関係を検討した。各支流の流量は、先行する数日間の降水量に強く影響されて変動する。また各河川は、それぞれの流域の地形的条件や土地利用に応じて、異なる流出特性を示すことがわかった。

キーワード:広瀬川、流出特性、比流量、降水条件、土地条件、

 

1. はじめに

 一般に河川を流れる水やそれによって運搬される物質は、流域(または集水域)と呼ばれる空間的範囲から集まってくる。したがって河川水の性質や、河川水との関わりの上に成立しているさまざまな自然現象を理解するには、河道とその周辺だけでなく、流域全体を視野に入れておく必要がある。またひとつの水系を構成する支流域が、それぞれどのような特性をもっているかを把握することも重要であろう。
 仙台市を貫流する広瀬川については、田村ほか(1994)が流域という観点から、その地形環境特性を明らかにしている。その結果、例えば支流の水が本流に到達しやすい構造をもっていること、中流部的な区間が長いことなどの特徴が指摘されている。しかし支流域毎の性格やその相違、それらに関わる要因などが充分に解明されているとはいえない。  本稿では、広瀬川水系を構成する主要な支流について行った、数回の流量観測の結果を報告する。現段階では充分な考察ができるだけのデータが揃っているとは言えないが、降水条件や土地条件(主に地形と土地利用)も考慮に入れつつ、各支流域のもつ流出特性について、ごく予察的な考察を試みたい。

 

2. 研究対象地域の概要と研究方法

(1)広瀬川流域の概要と調査対象支流域

 奥羽脊梁山脈、関山峠付近に発する広瀬川は、ほぼ南東方向へ流下し、海岸線から6kmほど内陸側の地点で名取川に合流する、流域面積約311km2、主流長46kmの河川である(図1)。流域内最高点は支流大倉川の源流部に位置する船形山(1500m)、最低点は名取川との合流点(約2m)である。
 広瀬川水系を構成する主要な支流としては、新川川・青下川・大倉川・芋沢川などがある。この4河川は、いずれもStrahler方式による水流次数区分では、4次水流に相当する1)。そこで広瀬川水系に属する4次水流を取り上げ、それぞれの流出特性について調査を行うこととした。新川川との合流点より上流側の広瀬川本流(以下、「広瀬川」とする)も4次水流であるため、調査対象流域に含めた。ただし大倉川については、その流量が大倉ダムからの放水量による影響を受けているため、他の支流と同様の流出特性を検出することは困難と判断し、考察対象から除外した2)。また芋沢川の流入地点から約900mほど下流側で合流する山鳥川もかつては4次の水流であったが、現在は宅地開発による人工地形改変で流域上部の水系が破壊されている。そのため水流次数・流域界ともに認定が困難であり、調査対象には加えなかった。
 結局本研究で調査対象とした河川は、新川川・広瀬川・青下川・芋沢川の4河川である。地形的には、新川川・広瀬川流域のほとんどが山地、青下川流域が主に丘陵地で構成されている。もっとも下流側で流入する芋沢川は、丘陵地と台地(谷底低地を含む)からなる。土地利用をみると、新川川・広瀬川・青下川流域は大部分森林(伐採地を含む)で占められ、人為的土地利用は、河川沿いの段丘面上などにわずかに認められる程度である。しかし芋沢川流域では、大規模な住宅団地のほか水田などの農地も広く、他の3流域に比べて人為的土地利用が進んでいるのが特徴的である。

図1 広瀬川水系と研究対象流域
数値地図200000「日本−II」(国土地理院発行)をもとに作成
(2)研究方法

 上記の調査対象河川について流量の簡易観測を行った。観測地点の分布は図1に示してある。原則として4次水流区間の最下流部を観測地点としたが、広瀬川本流については、新川川との合流点(4次水流区間の最下流部に相当)より3.4kmほど上流の地点(図1のH)で観測を行った3)。流量観測の方法としてはウキ流し法(新井,1994)を採用した。これは、河道にほぼ直交する測線に沿って求めた河川の断面積と、ウキを用いて計測した表面流速とから流量を見積もる観測法である。観測値にもとづき各観測地点の流量を算出した4)。その結果をさらに各支流域の流域面積(表1)で除し、比流量を求めた。値は100km2当たりの数字に換算した。観測は、2000年6月10日、同9月15日、同10月22日、同11月18日の計4回実施した(以下、これらの観測日を日付け順に観測日(1)〜(4)と表記する)。
 一般に河川の流出特性は、降水などの気象的条件と、流域内の地表面の状態(以下、「土地条件」とする)とを反映していると考えられるため、本研究で得られた観測結果も、これらの条件を考慮に入れた上で解釈する必要がある。
 気象的条件については、流量観測に先立ち、どれだけの降水量が流域内にもたらされたかが特に重要と考えられる。そこで各河川流域内もしくはその近傍で記録された日降水量データ5)を利用し、流量観測日の4日前から観測当日までの計5日間における日降水量の合計(以下、「先行降水量」とする)を求めることとした。その結果得られた、各観測日に対応する流域毎の先行降水量は表2の通りである。
 土地条件には地質・地形・土壌・土地利用(ここでは植生も含む)などさまざまな要素があるが、流出過程への影響という観点から考えると、流域内の斜面傾斜と植生の状態(特に森林の有無)が大きな意味をもつ可能性が高い。すなわち流域内の斜面が急であるほど降水は速やかに河川へ流出すると考えられる。また一般に森林を伐採した場所では、遮断(降水の地表への到達を阻止する過程)の効果が失われたり浸透能が低下したりするため、伐採前に比べて地表流が発生し易くなる。そこでさまざまな土地条件のうちから、流域全体の平均傾斜の指標となる起伏比と、全流域面積に占める伐採地の面積率(伐採地率)を、各流域について求めた。起伏比は、5万分の1地形図から流域内最高点と最低点間の比高、流路長を読み取り、算出した。伐採地は、1994(平成6)年4月に撮影された縮尺1:16000のモノクロ空中写真から判読・認定した。判読にあたっては、高木層が面的に欠けていること、周囲の森林との境界線がきわめて明瞭(かつ、しばしば直線的)であることなどの点を、認定の基準とした。各河川流域の起伏比・伐採地率は、流域面積とともに表1にまとめた。また伐採地の分布は図2に示した。

表1 研究対象流域の流域面積、起伏比、伐採地率 表2 研究対象流域における先行降水量
図2 研究対象地域における伐採地の分布

 

3. 調査結果の概要および考察

 表3には各観測日における4河川それぞれの流量・比流量およびそれぞれの平均値を示した。比流量とは流域面積の異なる河川間で流量を比較するために用いられる指標で、河川のある地点における流量をその地点より上流の流域面積で除した値、すなわち単位流域面積当たりの河川への水の供給量である。以下、この比流量をもとに各河川の流出特性を検討する。
 比流量は、世界の主要な河川では0.1〜1.0m3/秒/100km2程度であるが、日本では2.0m3/秒/100km2以上の値を示す河川が多い(阪口ほか、1995)。単純に日本の諸河川と比較する限り、本研究で取り上げた4河川の比流量は決して大きい方ではない。ただし観測値がどの程度の誤差を伴っているかが不明であり、観測事例・期間ともに限定されている現段階では、そのように言い切ってよいかどうかは判断できない。
 4河川の間で比流量平均値を比較すると、青下川のみやや他の3河川より小さい。流量観測値自体のもつ誤差が定かでないが、いずれの観測日においても青下川の値が小さめである傾向は共通している。個々の比流量値の変動をみると、それぞれの河川の平均値に対して−71.4%(観測日(3)における広瀬川)から+113.3%(観測日(2)における青下川)の範囲で変動している。河川毎に、比流量平均値に対する変動幅の比率を計算すると、大きい順に青下川(173.3%)・広瀬川(142.9%)・新川川(126.1%)・芋沢川(90.5%)となる。
 次に、こうした河川間での比流量の違いや、同一河川における比流量の時間変動に関係する要因を探るため、比流量と先行降水量・起伏比・伐採地率それぞれとの関係を検討してみた。
 図3には先行降水量と比流量との関係を示した。かなりのばらつきはあるものの、全体的に両者の間には正の相関が認められる。比流量を河川毎に分類し、それぞれについて回帰直線およびR2値を求めると、芋沢川を除いてほぼ同じ傾きをもつ直線に近似できることがわかった。すなわちこの3河川の比流量は、過去5日間(観測当日も含む)の総降水量と高い相関を示す。ただし観測例が圧倒的に不足しているので、今後さらにデータを集積し、検討を進めていく必要がある。芋沢川について明瞭な相関が認められないのは、先行降水量の算出に流域外でのデータを用いたこと、先行降水量の定義上、観測日の5日前に記録された57mmという降水が考慮に入れられなかったことなどの理由によるのかもしれない。また流域内の人為的土地利用が進んでいるという特徴が流出過程に影響を与え、気象条件と比流量との間に単純ではない関係を生じさせている可能性もある。
 図4には各流域の起伏比と比流量との関係を示した。全体的に両者の間にはあまり明瞭な関係は読み取れない。観測日(1)・(4)では青下川を除く3河川の比流量はかなり近い値を示しており、基本的には比流量は起伏比の影響をほとんど受けていないようである。ただし観測日(2)のみ傾向が異なり、起伏比と比流量との間に正の相関が認められる。この結果は、観測日(2)に先立ってみられた降水の影響を反映したものと考えられる。すなわち急斜面が卓越する流域ほど速やかに河川へ水を集めると考えられるので、まとまった先行降水があった観測日(2)の直後には、起伏比と比流量との間に一時的に正の相関が成立したのではなかろうか。
 図5に示したのは、各流域の伐採地率と比流量との関係である。観測日毎に回帰直線とR2値を求めると、観測日(2)については無相関であるが、他の観測日では負の相関を示すようである。すなわち流域の伐採地率が大きいほど比流量は小さくなる傾向がある。
 以上のことをもとに、河川流域毎に流出特性を考察してみる。4河川のうち青下川は比流量が小さめで、かつその観測日間での変動がもっとも大きい。この傾向は、青下川流域の伐採地率の高さを反映しているのかもしれない。すなわち青下川流域では植被・表土の貧弱な斜面の割合が高いため、貯水能の低下と地表流の発生し易い状況が生み出されている可能性が考えられる。観測日(1)・(3)・(4)で他流域より小さな値を示す比流量が、まとまった先行降水のあった観測日(2)に大きく跳ね上がっているという事実は、まさにそうした青下川の特徴を反映しているのではなかろうか。
 新川川・広瀬川・芋沢川の比流量を比べると、平均値および観測日(1)・(4)ではかなり近似した値をとるが、観測日(2)では起伏比に応じて比流量も大きくなる。この傾向に対する解釈は上述の通りで、新川川・広瀬川はその地形的条件のため、降水を速やかに河川へ集める性格をもつと言えそうである。
 芋沢川で特徴的なのは、比流量がかなり安定している点である。また比流量の値自体も他流域に比べて小さくない。土地条件を起伏比と伐採地率のみで評価すると、こうした流出特性は矛盾なく受け入れられるようにも思われる。だが芋沢川流域では、他の3流域と異なり住宅地や農地などの占める割合が高い。これらはもちろん、土地利用区分上は「伐採地」には該当しない。しかしどちらも本来存在していた植生(森林)の破壊の上に成立した土地利用形態であることは確かで、その点を考慮すれば、芋沢川で安定的に一定の比流量が維持されているのは、やや意外な結果でもある。芋沢川の流出特性と土地条件が、具体的にどんなプロセスで結ばれているかについての検討は今後の課題としたいが、土地利用面に関しては、水田や小開析谷内に分布する溜め池が流出過程に与えている影響を見積もることが重要ではなかろうか。

表3 研究対象流域における流量、比流量
 
図3 先行降水量と比流量の関係 図4 各流域の起伏比と比流量の関係
 
図5 各流域の伐採地率と比流量の関係
凡例は図4に同じ

 

4.まとめ

 広瀬川水系に属する4本の4次水流河川(新川川・広瀬川・青下川・芋沢川)を対象に、4回の流量観測を行った。また降水条件や各流域の土地条件との関係から、これらの河川の流出特性について予察的な考察を試みた。主な結果をまとめると、以下のようになる。
(1) 比流量の平均値は1.5〜2.3 m/秒/100km2という値を示す。比流量平均値は青下川においてやや小さく、他の3河川では類似した値を示す。また比流量平均値に対する個々の比流量値の変動幅は、青下川でもっとも大きく、以下広瀬川・新川川・芋沢川の順である。
(2) 新川川・広瀬川・青下川の3河川では、観測日間での比流量の変動が、観測日当日を含む過去5日間の総降水量と高い相関を示す。
(3) まとまった先行降水があった直後には、比流量と起伏比との間に正の相関が認められることがある。起伏比が大きい流域では相対的に急斜面が卓越し、より速やかに降水が河川へもたらされるため、降水直後に一時的にこのような関係が生じるものと考えられる。
(4) 特にまとまった先行降水がみられない場合、流域に占める伐採地面積の比率は比流量と負の相関を示す傾向にある。
(5) 青下川流域の斜面は貯水能が低く、地表流を発生させ易い傾向をもつことが推定される。こうした特徴は、伐採地率の高さという土地条件に起因している可能性が高い。
(6) 新川川・広瀬川流域では、急斜面が卓越するという地形条件のため、降水は速やかに河川へ集められる。
(7) 芋沢川は比較的安定的に一定の比流量を維持している。こうした流出特性と土地条件との関係についての検討は今後の課題であるが、人為的土地利用の流出過程に及ぼす影響を評価することが必要であろう。


1) 水流次数は5万分の1地形図に描いた水系図から判断した。
2) 青下川にもダムはあるが、仙台市水道局中原浄水場によれば、ここでの放流量と流入量は等しい。
3) 並行して行った水質調査との関係上、H地点で観測を行った。新川川との合流点までの間に顕著な支流の流入はみられないため、流量値にも大きな差はないと判断した。
4) 流量算出の際の係数(新井,1994)は0.7とした。
5) 新川川・広瀬川については、仙台管区気象台による新川地域気象観測所の日降水量、青下川については仙台市水道局中原浄水場による青下ダムでの日降水量、芋沢川については大倉ダム管理事務所による大倉ダムでの日降水量をそれぞれ用いた。

 

謝 辞

 本研究は、環境教育実践研究センタープロジェクト研究「広瀬川プロジェクト」の一環として行ったものであり、著者の一人丸井の卒業研究にもとづいている。研究を遂行するにあたり、大倉ダム管理事務所、仙台市水道局中原浄水場、仙台管区気象台の方々にはデータ入手の便宜をはかっていただいた。現地調査に同行していただいた環境教育実践研究センターの村松 隆教授、理科教育講座の猿渡英之助教授、宮城教育大学学生の森田衣子さん、上村 香さん、パソコンによるデータ処理についてご教示いただいた環境教育実践研究センターの目々澤紀子さん、東北電子計算センターの三浦 紳氏、宮城教育大学学生の小田隆史君に感謝いたします。

 

引用文献

新井 正(1994):水環境調査の基礎、古今書院、pp.168
阪口 豊・高橋 裕・大森博雄(1995):日本の川、岩波書店、pp265
田村俊和・小岩直人・岩船昌紀・安斎秀樹・鈴木収二・デボスリ チャタリジ・相澤裕子・堀内恒雄(1994):広瀬川流域の地形環境特性、広瀬川流域の自然環境、 仙台市環境局、 p85−127

 

* 宮城教育大学教育学部社会科教育講座
** 宮城教育大学教育学部

 

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