体験学習を授業として成立させるために

                        センター長  青木 守弘

 多忙な中、本シンポジウムでの講演をお引き受けいただき、示唆に富んだお話 しをいただいた講師のみなさま方に厚くお礼申し上げます。本センターも設置以 来、すでに4年目を迎えました。宮城県教育委員会および仙台市教育委員会をは じめとして、センターの活動に対してご支援をいただいております関係者の皆々 様に深く感謝申し上げます。

 環境教育に求められることとして、常に強調されることは児童生徒の直接的な 体験を通した学習方式が上げられます。環境教育のめざすものは、従来の教室型授 業とは異なる野外体験型の教育活動であることはよく言われることであり、その 在り方が問われています。従来の教科書を中心とした教室授業は、いわば教師主 導による知識伝達のための収束型の教育活動である。これに対し、環境教育で求 められる野外体験活動は個々の興味と感心を引き出す児童生徒主体の学習であ り、発散型の教育活動であると言える。

 教室における課題学習については、教師による授業研究と教材研究の数かぎり ない蓄積があり、日々の授業はこうした熱意ある教師たちの闘いの系譜でもあ る。対して、推進にむけて異口同音に叫ばれている「体験学習」が、果たして学校 教育に定着させうるだけの論理と方法が構築されてきているのであろうか。単に 言葉だけが一人歩きして、肝心のところがやみくものまま実施される体験活動 は、早晩、教育活動として立ち行かなくなるのではないかと心配である。野外体 験は戸外での遊びや遠足とどこがどう違っているのであろうか。社会体験にし ろ、自然体験にしろ、学校教育で果たし得るものは何なのかを、また、教師のか かわり方はいかにあるべきかを考慮されなければならない。そうでないと、家庭 でのしつけに属する部分、地域社会で習得しうるものなど、また、行政施策とし て行うことなどが、わけ隔てなく学校教育の範疇に回され混乱の状況が生まれる ことになる。体験学習においても事前に指導内容の課題整理と学習プログラムが 成立されていなければならないし、事後において学習成果として把握されるもの でなければならない。

 体験学習の充実をうたってその体系化をめざしたところで、従来の教室授業が 旧態依然とした内容のものであれば、児童生徒の負担をいたずらに増やすことに しかならない。従って、体験学習の推進は、これまでの教室授業のありかたにつ いても、体験学習を意識したものに組み換えられる必要があろう。ただし、しばし ば陥りやすいことであるが、せっかく野外学習や体験学習の授業時間を設定して も、単に従来の知識伝達型授業の発想から、教室授業の野外翻訳版であってはな らない。現実としてはこの辺がむずかしいところであるが、体験学習にはこれま での教室での授業研究や教材研究にはらった努力以上に、授業活動として成立さ せるための理論と方法の研究が求められなければならないと切に思う。