宮城教育大学環境教育紀要 第1巻

 

   EEC プロジェクト研究

「仙台市内広瀬川及び名取川流域でのSNC 構想の実践」           活動報告

 

伊   沢   紘   生

 

 キーワード:広瀬川、SNC 構想、環境教育、自然科学分野の調査、人文社会科学分野の調査

 

1.はじめに

 

 宮城教育大学環境教育実践研究センター(以下、EEC と略称)では、平成9年度から8つのプロジェクト研究をスタートさせている。そのうちのひとつが「仙台市内・広瀬川及び名取川流域でのスーパーネイチャリングセンター(SNC)構想の実践」(以下、広瀬川プロジェクトと略称)である。

SNC 構想とは、継続的な野生動植物の生態調査や気候、水、地質といった無機環境の調査を基盤に、自然のもつ豊かな教育力を積極的に発掘し、知的感動(sense of wonder)に満ちた体験を学校教育や社会教育、生涯学習に充分に生かしながら、トータルな自然を私たち人類のかけがえのない財産として護っていこうという構想である。そして、筆者らはすでに、 生物多様性に富んだ牡鹿町金華山の落葉広葉樹林と南米コロンビア国マカレナ地域の熱帯雨林の二つの地域を実践のモデルとして選定し、本構想をそれぞれ過去10数年にわたって実践的に研究してきた。 両地域での野生動植物の生態調査の

成果は、 雑誌「宮城県のニホンザル」 1号〜9号および英文雑誌 「Field  Studies  of Fauna and Flora, La Macarena, Colombia」1号〜13号を中心に、関係する学会誌や一般科学雑誌等で公表してきた。また両地域の自然保護に関してもさまざまな提言をこれまで行ってきた。

しかし、環境教育、とくに学校教育の総合学習の中での環境教育という視点に立てば、残念ながら、多様性豊かな自然のみを対象にするだけでは現実的対応が困難になる。学外活動の学習フィールドとして、このような良質な自然と日常的に接することが無理だからである。そこで、多様性に富んだ自然の中での観察学習(自然を対象にした環境教育)を“イベント型環境教育”と位置づけて年に1〜数回実施するとともに、それと補完し合う形で、地域に密着した持続的な環境教育(“地域密着型環境教育")を実践する具体的なプログラムが必要になってくるわけである。一方で、地域に密着すればするほど、その中に人間の諸活動が含まれてくるのは当然で、こ

 

 

 

 

 

 

 

 

図1. 広瀬川三態  写真左から上流、中流、下流

* 宮城教育大学環境教育実践研究センター

の人間の諸活動をも積極的に環境教育の対象にするという意味において、SNC 構想の新たな展開ないし応用といえる。

 筆者らの広瀬川プロジェクトは、スタートする時点でとりあえず、脊梁山脈東斜面に端を発し、大都市仙台の中心部を流れて、仙台市民にさまざまな影響を与えつつ太平洋に注ぐ広瀬川(図1)に的を絞った。広瀬川流域には規模を異にするいくつもの小、中、高校が存在し、作成された環境教育プログラムについてその妥当性や有効性を検討するのに適しているからである。そして、河川環境管理財団からの研究費の助成も得て、本プロジェクトは現在進行中である。

 本プロジェクトを推進しているメンバーは、筆者のほか、安江正治、見上一幸、村松隆、斉藤千映美(以上、EEC 専任)、渡辺孝男、川村寿郎、西城潔(以上、EEC 兼務)壷岐寿夫、國井恵子(以上、仙台市科学館、EEC 客員)、遠藤和秀(宮城県教育研修センター、EEC 客員)である。

 以下に報告するのは、本プロジェクトの研究成果のうち、主に河川環境管理財団による河川美化・緑化調査研究助成金(平成10年1月〜12月)で実施された成果の概要である。なお、当財団からの研究助成は平成11年度以降も継続して受けられることが決定しており、本報告はこれまでの中間報告書として1999年1月31日に財団へ提出したものに依拠している。

 

2.目 的

 

 本プロジェクトの広瀬川プロジェクトは、大きく二つの柱から成り立っている。一つは、広瀬川流域の水質や地質、動植物の生息状況や分布の実態といった自然科学的分野からの調査、それらに関するこれまでの多くの文献資料やデータの収集と分析、および資源という観点や土地利用形態の現状と歴史的変遷といった人文社会科学的分野からの調査と過去のデータや文献資料の収集と分析を、それぞれを専門とする研究者が中心になって行うものである。そして、これらの調査成果を総合することによって、広瀬川の自然及び人間生活との関わりの全体像を把握することである。

 もう一つは、それらの調査成果を教育という視点からアレインジし、有機的に関連づけ、それに基づいた環境教育プログラムを作成し、流域の小・中・高校の授業教材として積極的に提供していくとともに、広瀬川という河川を中心としたオープン・フィールド・ミュージアムを創出しようとするものである。すなわち、このオープン・フィールド・ミュージアム構想(SNC 構想)を通して、環境教育を、環境問題に関するたくさんの情報を一方的に詰め込む教室の授業という狭い枠から脱皮させ、小・中・高校の児童・生徒たちに教室と野外とを生き生きと連結させる実践の場とすることである。

 またそうすることで、美化や緑化を含め、市民の財産として広瀬川を最もいい形で将来にわたって護っていこうとするものである。

 

3.これまでに行った研究の成果

 

 上記した二つの柱のうち、専門分野ごとの調査や資料収集・整理等は順調に進展していっている(後述)。また、その成果を検討する代表者・分担者・協力者会議もすでに4回実施した。

 もう一方の環境教育プログラム作り、とくにインターネットの使用を前提としたプログラム作りも、試作の段階に入っている。ただ、それを実用化するためには、流域全小・中・高校の各学年ごとに実施されている総合学習としての環境教育や、それに関連する授業(生活科、理科、社会科、クラブ活動、ボランティア活動等)の実態を詳しく把握するとともに、現場の教師たちの環境教育に対する意識調査も必要になってくる。その点に関してはアンケート調査をすでに実施し、目下分析中である。

 

4. 各研究分野ごとの基礎的調査及び環境
   教育的調査の進捗状況 

 

1.主として広瀬川の水質に関して

a.基礎的調査

1)広瀬川流域の水質に関する過去のデータの収   
  集が終わり、目下整理中である。 

2)今年度の広瀬川の水質調査データを収集中。調
  査項目はイオン分析、BOD、pH、水温、気温な
  どである(図2)。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



図2. 広瀬川の水質を調査する(村松隆 撮影)

 

3)広瀬川との比較のため、隣接する都市河川で  

  ある七北田川や名取川の水質データも収集した。

  また日本の他地域の都市河川についてもデータ

  を収集し、比較の幅を広げるつもりである。 

4)広瀬川の上流域から下流域までの水質の違いと

  生活活動との関わりや植生の違いと生活活動と

  の関わりの調査を実施している。 

5)河川を取り巻く環境からの水質への影響調査

  (NOx調査、酸性雨調査)を実施している。ま

  た季節による変化なども調べている。NOx は長

  期暴露法で測定中である。 

b.環境教育的調査

1)小・中学校で行える簡単な水質調査方法の実験

  マニュアル作りを以下の各点から行っている。 

  下水処理場などの見学を取り入れている学校も

  あるので、下水処理場の仕組みや、活性汚泥の

  生物相の変化についてのマニュアル作り、COD

  の簡易測定法のマニュアル作り、面活性剤の簡

  易測定法のマニュアル作り、窒素化合物の簡易

  測定法のマニュアル作り。 

2)水質データの意味をわかりやすく検索できるよ

  うな資料作りを行っている。 @水質項目につ

  いて、どのような意味があるのかを小・中学校

  の先生方に理解してもらえるような資料作りを

  行っている。A数字のもつ意味を正確に把握で
  きるよう工夫している。 

3)各学校で利用しやすいように資料の再整理を実
  施中である。 

4)収集したデータをインターネットに載せられる

  ようにソフト開発を行っている。 

 

2.主として広瀬川流域の地質に関して

a.基礎的調査

1)広瀬川の上流・中流・下流の各流域に分布する

  地質について、資料の収集と整理を実施中であ
  る。これまでの調査からは、広瀬川流域の地質
  は、分布する地層系統の違いから、最上流域(作
  並〜新川以西)・上流域(熊ヶ根〜下愛子)・中 
  流域(郷六〜長町)・下流域(長町〜郡山〜閖
  上)に大きく四分されることが明らかになった。 

2)これまでの研究で検討が不十分であった現河床

  堆積物(突州・中州)の分布と内容物(礫・砂)

  について調査を行っている。そして、これまで

  に空中写真及び地形図類の判読及び現地調査に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3. 広瀬川中流における増水時(写真)と渇水時
    (写真下)の河床の比較。(川村寿郎撮影)

  よって、現河床堆積物の分布を解明した。また、

  中流域の3地点において、礫種と砂粒の鉱物組

  成を分析した。その結果、多くは河岸に露出す

  る地層(とくに硬岩)に由来することが判明し

  た。 

3)現河床堆積物の内容物の組成を分析して、それ

  が由来する地質および運搬過程との関連を調査

  中である。現河床堆積物は、とくに洪水時に形

  成されることから、平成10年9月に起こった

  二度の増水について、河床氾濫の程度を撮影し

  記録した(図3)。 

b.環境教育的調査

1)礫や砂粒の薄片の顕微鏡写真は、ごく見慣れた
  ものでありながら、従来ほとんど示されたこと 
  がない。 それを積極的に使うことで、とくに自
  然環境教育の素材として有効に活用できる見通
  しが立った。 

2)現河床堆積物の内容物の分析について、検討地
  点を全流域に拡大するとともに、顕微鏡画像を
  パソコン上で収集整理を行っている。 

3)すでに収集した流域の地質分布と河床の砂粒(お
  よび礫)の関連について、学校教育ですぐに使
  用可能な形での教材化を試みている。 

4)現河床堆積物を生かした環境教育プログラムの
開発を検討している。 

 

3.主として広瀬川の水生生物や水中微生物に関して

a.基礎的調査

1)広瀬川及び比較のため名取川と七北田川につい










 図4. 広瀬川プランクトンを調査する

               (見上一幸撮影)
  て、これまでに実施されてきた水生生物及び水
  中微小生物の全資料を収集、整理した。水生昆
  虫の調査は1991年に仙台市によって大規模な
  調査が行われているので、それをベースに調査
  を行う予定である。 

2)資料の不足しているプランクトンについての調
  査を現在実施中である(図4)。 

3)広瀬川を中心とした「水の中の小型生物」の画
  像および映像のファイルを作成しデータベース
  化を進めている。 

b.環境教育的調査

1)水生生物および水中微小生物について、広瀬川
  を中心とする河川について、高等学校の科学研
  究部の部活動としてこれまでに実施された成果
  について調査し、まとめた。 

2)水質調査を生物の視点から継続実施している高
  等学校と情報交換し、地理的にもより広い視野
  から水質環境について考える機会の提供を計っ
  ている。 

3)中学校で実際に探険やウオッチング等の活動を
  行い、河川への関心を高め理解を深めるため、
  水生昆虫調査を試験的に実施している(図5)。 









 

 図5.

 

4)学校の児童・生徒がインターネットを利用して
  検索するための、小型生物の画像および映像の
  ファイル化を開始している。水生昆虫について
  は環境庁からすでにコンパクトなマニュアルが
  できているため、それを利用しての、子どもた
  ち自身の調査とはどうあるべきかの試行を行っ
  ている。 

5)河川の有機汚濁と浄化を考えるための実験教材
  の開発を検討中である。 

6)広瀬川および名取川流域の中から、水中の小型
  生物に関心を持つ学校(小学校から高等学校ま
  で)の協力を得て、観察された小型生物のサイ
  バー図鑑などへの登録を行うなど、学校間の連
  携が図れるシステムを開発中である。また河川
  観察会などの実施を、フレンドシップ事業(将
  来教師を目指す学生と子どもとの触れ合い事
  業)などを活用して展開を計っている。 

7)地質、植性、動物、人間生活との関わりから水
  の中の生きものを考えるという教材を試作中で
  ある。 

 

4.主として動植物の分布や生息密度に関して

a.基礎的調査

1)広瀬川流域に生息する全哺乳類についてのリス
  トアップを完了した。 

2)その分布と生息密度について降雪直後を選び、
  多数の調査員を動員して雪上の足跡調査(図
  6)を4回実施した。それによって分布や密度
  のおおよそが把握できた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  図6. 作並近くの林道の雪上に

          印されたウサギの足跡 

 

3)中型・大型昼行性哺乳類ニホンザルとニホンカ
  モシカについて、生息状況の調査を実施した。
  同時に観察の可能な数地点のプロットも終了し
  た。とくにニホンザルに関しては、広瀬川及び
  名取川流域に生息する野生群の数、各群れの頭
  数、冬季の食物、各群れの冬期間の遊動域など、
  その詳細を明らかにすることができた。 

4)広瀬川流域の自然について、保護・保全に関係
  するすべての法令を調べ、それらがカバーする
  すべての地域を白地図に落とし、それらと上記
  動物の生息密度との比較を行った。 

5)野鳥の資料についての整理を行い、同時に3地
  点で継続観察を行った。その結果、広瀬川流域
  の鳥類についてはカワセミ、キジ、ヤマドリ3
  種の生息状況がきわめて特異的であることがわ
  かった。現在それらの3種について、さらに追
  跡調査中である。 

6)広瀬川流域の植性について、これまでの調査研
  究データの収集と整理を行った。 

7)環境指標植物としてセイヨウタンポポとセイタ
  カアワダチソウを選び、その分布状況に関する
  調査を実施した。 

b.環境教育的調査

1)動物の足跡調査教材化を検討中であり、そのた
  めの資料収集は完了している。 

2)ニホンザル(図7)とニホンカモシカの観察地
  点の選定と、そこでの、年間を通しての、子ど
  もたちへの自然観察会を計画中である。地点選
  定はすでに終了している。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   図7。 広瀬川の支流、青下川流域をおもに
   遊動するニホンザル、「奥新川A群」のサル。

 

3)流域小・中・高校と連携して、動物ではカワセ
  ミとキジ・ヤマドリ、植物ではセイヨウタンポ
  ポとセイタカアワダチソウの分布と生息密度の
  調査を、インターネット上で行うことを検討中
  である。それによって流域の奥山・里山・集落
  (里)・農耕地・市街地といった、地域ごとの
  自然のもつ意味やそのありようについて、実物
  をとおしての学習が可能になるだろう。 

 

5.主として資源という観点からの調査について

a.基礎的調査

1)広瀬川の水質と生活環境に関する調査:1970
  年以降、水質汚濁の防止という視点から、行政
  では各種の環境調査を継続的に実施しているが、
  広瀬川についても仙台市および建設省河川局管
  轄下で、流域各点での水質調査が行われている。
  現在これらの調査データのうち、仙台市から印
  刷物として公表されている「仙台市公害白書」、
  「仙台市の環境」および「仙台市衛生研究所報
  年報」、さらに宮城県土木事務所管理の「調査
  成績月報」等について調査資料を収集している。
  この資料を用い、生活環境の保全に関する項目、
  および人の健康の保護に関する項目のそれぞれ
  について、各流域での水質の経年的および季節
  的な変動を解析している。 

2)水質検査各項目は、濃度で見る限り、調査地点
  および季節的変動が大きいが、水流(量)の影
  響が大で、環境との関連性を検討するにあたっ
  ては、その補正の必要性が明らかになった。 

3)行政の調査成績を参考にして、水質データの中
  で十分でない重金属等の微量元素について、広
  瀬川の水源から下流に沿って定点を決め、水流
  が安定する11月にサンプリングを実施し、機
  器分析を行い周辺環境との関係を解析し、生活
  に伴う環境負荷を検討予定である。 

4)水資源としての役割について:行政から公表さ
  れている資料に基づいて、飲料水および生活用
  水としての利用性、農業用灌漑用水としての利
  用状況、洪水対策、商業資源としての利用状況、
  公園資源としての利用状況について整理してい
  る。 

5)広瀬川の水質の変遷と生活環境の変遷の関係:
  下水道整備と水質の変遷、上流地域の開発と水
  質の変遷について考察し、これからの広瀬川の
  あり方について検討を行っている。 

 

b.環境教育的調査

1)民間の各種団体が刊行している広瀬川について
  の各種の報告書を収集し、文献情報として整理
  する一方環境教育教材資料ともすべく、目下整
  理を進めている。 

2)環境衛生学的視点からの環境教育教材のあり方
  について検討を行っている。 

 

6.主として土地利用という観点からの調査について

a.基礎的調査

1)広瀬川流域の土地利用、およびその歴史的変遷
  の概要を、明治末期以降の作成年代の異なる
  1/5 万地形図を用いて復元した。ただ、過去の
  土地利用については、地形図に記載された記号
  のみから、詳細な復元を行うことは必ずしも容
  易ではないが、流域全体の流出特性への影響を
  選定するのに必要な程度の情報はすでに得られ
  た。 

2)実際には広瀬川の流域をカバーする 1/5 万地
  形図のうちから、作成年次の異なるものを用い
  て、各年次の土地利用の概要を復元した。すな
  わち「関山峠」、「川崎」、「仙台」の3図幅を対
  象に作業を進めた。 

3)その結果は、たとえば大倉川流域の土地利用変
  化について、以下のような傾向が認められた。
  @昭和40年代以降、広葉樹林の伐採および植
  林によるとみられる、針葉樹林面積の拡大が顕
  著である。A定義付近の山地斜面の一部には、
  明治末期から「荒地」が存在しており、その分
  布に昭和20年代までは大きな変化が認められ
  ない。潜在的自然植生からは広葉樹林が成立す
  ると考えられる場所であり、何らかの人為的作
  用によって維持されていた景観であろう。こう
  した「荒地」の一部では、昭和40年代以降に
  なって広葉樹林が回復してきている。 

b.環境教育的研究

1)上記調査に利用した地図を組み合わせることで、
  土地利用に関する歴史的変遷を教材化すること
  が可能なように目下検討中である。 

 

7.仙台市民の広瀬川利用の現状について

 仙台市を中心とした一般市民は、さまざまな形で広瀬川を利用している。その利用形態や利用状況を正確に把握しておくことも、本プロジェクトとして重要なので(とくにオープン・フィールド・ミュージアム構想を推進するためには)、以下のような調査を現在実施中である。

1)仙台市民にとってきわめて重要なレクリエーシ
  ョンの一つ“いも煮会”が、広瀬川の河原を利
  用して、どこで、どのようになされているか、
  その時期や人数、また、いも煮会(図8)が広
  瀬川の環境に及ぼすプラスとマイナスの影響は
  どのような点か、などを調査している。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図8. 牛越橋の近くの広い河原はいも煮会の

    メッカの一つである。 

2)広瀬川は子どもたちを中心に釣り場(図9)と
  しても利用されている。漁業権の問題、入漁料、
  放流、子どもたちが実際に釣った魚の処置方法
  等について調査している。 

3)河川敷が散策路としてどの程度利用されている
  か、遊歩道の設置場所、利用の内容や目的、利
  用者の類別等の調査を行っている。 














 

 

 図9.


4)その他の利用について、野鳥観察や植物観察等
  はどこでどのようになされているかの調査を行
  っている。 

5)子どものスポーツ的遊び場としてどのように利
  用されているか、施設を含め調査を行っている。 

6)流域の社寺仏閣の配置と社寺林のあり方の実態
  調査を実施している。 

7)市及び県が自然保護の観点から、どのような法
  律的な網をどの場所にどのくらいの広さについ
  てかぶせているか、またそれらの場所の、とく
  に子どもの利用の実際はどうなっているか、な
  どについての調査を行っている。 

 

5. コンピューターを利用した環境教育の実践に関する研究 

 

 前章(4章)で、各専門分野における個別の環境教育的調査の現状を列記したが、同時にそれらを総合し、流域の小・中・高校の環境教育、ないしそれに関連する授業の教材として提供するにはどうしたらいいかについても、鋭意研究を進めている。3章で記した学校教育現場へのアンケート調査もその一環として実施されたわけである。

 現在具体的に行っている研究は以下の通りである。

1)環境教育の視点から「森と川」を題材にしたオ
  ンライン環境情報データーベースを構築するた
  めの管理ソフトウェアを開発中である。このデ
  ータベースの特徴は、コンテンツの登録更新を
  利用者参加型で行うことも可能としていること
  で、自分たちの調査収集した内容を登録できる
  だけでなく、登録内容に関して相互に評価し、
  関連教材の追加などが行える機能を含んでいる
  ことである。この環境情報の内容をネットワー
  ク上に公開することで、自律協調型の共同作業
  を通して、データベースを自己発展的に構築す
  ることが可能になる。 

2)広瀬川流域の学校の教師と児童・生徒たちが、
  本データベースの内容を閲覧するだけでなく、
  閲覧内容を評価したり考察したりして、自分た
  ちの調査の指針を再検討し、その調査結果を登
  録することも可能になる工夫を現在行っている。 

3)広瀬川流域の各学校から本データベースにアク
  セスできるように、学校の情報システムのネッ
  トワーク整備、およびその効率的な運用を支援
  するための研修会やセミナーを実施している。 

 

6.まとめ

 

 このプロジェクトが基礎的調査と環境教育的調査の二つの柱をもち、そのいずれの研究もきわめて多岐にわたるため、これまでは、とりあえず個別の調査研究を可能な限り進捗させることに重点を置いてきた。したがって、本活動報告はプロジェクト・メンバー各々の研究成果の羅列に近い形を取らざるを得なかった。

 しかし、ここで整理されたように、それらすべての調査は軌道に乗っている。これからは、それらの研究の継続とともに、各成果の検討会やより大きな規模のフォーラムやシンポジウムを頻繁に開催することを通して、連動させ、総合化していくプロセスを踏むことになるであろう。

 そうすることを通して、日本を代表する都市河川の一つ、広瀬川全域のオープン・フィールド・ミュージアム化が可能になるだろうし、結果として広瀬川が健全な姿で将来にわたって維持管理されていくことにつながっていくと確信できる。