宮城教育大学環境教育紀要 第1巻

 

環境教育への技術教育の関わり方

 

津川 昭良  ・ 安孫子 啓  ・ 草野 清信

 

 要旨:中学校教員(技術)養成のみに関わってきた技術教育では、環境問題を独自の形で扱い、一般に認識されている環境教育の一部をなすに過ぎない。専攻以外の学生にも開かれた『生活関連科目』を通して、技術教育固有の『もの作り』や水の位置のエネルギーから電気エネルギーを生み出す変換技術とか植物を変換器として太陽エネルギーから有用な生産物に変換する技術などを内容に盛り込んで、技術面から学部学生たちの環境教育に関わってきた。授業内容について意識調査を行うなどした反応についても言及している。

 

キーワード:学部教育、生活関連科目、環境教育の中の技術、自然エネルギーの変換技術、授業内容と授業分析

 

 1.はじめに

 環境教育は、総合学習の中心を形作っている教育内容であると考えている。技術教員を養成する技術教育専攻の立場から環境教育にどのように関わって行けばよいのかを、現在までに関わってきた授業を巡って、様々な材料を具体的に挙げながら検討したい。

 

 2.資料からみる環境教育での学習内容

 環境教育指導資料(文部省、平成7年)には、学校教育における環境教育の学習内容の項目が挙げられており比較することができる。その中から技術・家庭に関連が深いと考えられる理科および社会の学習項目をエネルギーと資源、自然環境、人の生活とに関わりのある人工的環境の3つの事項に分けて比較してみるが、教科により学習項目数が異なるので要点のみを示す。

@ エネルギー・資源

社会 資源の開発と利用、公害防止、環境保全、   
   資源エネルギーの有効な開発利用
   資源の重要性の認識など

理科 エネルギー資源の活用、天然資源・原子力、

   エネルギー資源の有用性、循環とエネルギ

   の流れ

技術・家庭 エネルギー資源の利用、新エネルギ
   ーの追求、省エネルギーの推進、省資源、

   効果的な電気の利用 

  1. 自然環境
    ―――――――――――――――――――――

*宮城教育大学教育学部生活系教育講座
 社会 地球規模の環境問題、自然との調和、地球の
    自然条件、環境保全、世界の環境の多様性

 理科 食物連鎖、自然界における物質、放射線

 技術・家庭 木材の空気浄化作用、自然環境と生活、
    環境調節機能、緑化、植林・育林(山林育成) 

B 人工的な環境・生活環境

 社会 環境の重要性の認識、公害の発生防止、地域
    の生活環境、都市化と生活の変容、都市問題

 理科 放射線、食物生産、人間活動と環境の破壊、
    人間活動と環境の汚染

技術・家庭 木材と人間生活、環境破壊と治山・治
    水、建築材、家具用材、紙パルプ、排ガス、
    騒音・電波、作物の栽培、栽培技術、種改良      

教科により重視する学習内容は、視点が異な   っているように見えるのは当然であるが、その中でも3教科で類似に扱っているのは、エネルギーと資源の事項で、それに関連する内容であることが分かる。

 

3.環境教育教材の研究から

3−1 技術・家庭(技術系列)の学習領域から

技術・家庭(技術系列)は、A木材加工、B金属加工、C電気、D機械、E栽培、F情報基礎の6つの領域から構成されている。各領域の学習内容として木材加工領域では、家具・調度品、建築物、楽器、木質の物性、森林資源など、金属加工では、金属材料、金属の物性加工方法など、電気では、電気器具、電気部品、

――――――――――――――――――――――

 

電気の発送電、電気エネルギーの利用など、機械領域では、エネルギー変換、力の伝達機構、工具・機械部品など、栽培領域では、蔬菜・花作り、生命現象、栽培技術、環境制御などを題材として扱っている。

 技術・家庭の教科書の索引の中には、『環境生活』の項目があり、木材に関連する選択の視点、森林資源と森林のはたらきに加えて、内容と電気製品の選び方、高度情報通信網の2項目が提示されていて、その外には、環境を大切にする食生活など家庭系列の各領域に関する事項が記載されており、欄外には総合的に理解するようにと教科書の利用について触れている。

 生産活動や工業製品の利用に伴う環境問題がある。

例えば、機械を使うとき消音することが基本であるが、その仕組みを学ぶ題材の一つとして消音器も取り上げられている。家庭用電化製品では実現しているものの、最近の交通機関のそれに逆らう利用法による騒音問題とか電磁環境問題は、技術系列の環境問題として起こっていると思うが、騒音問題は、家庭系列の住環境の中に位置づけられている。

 

3−2 資源のリサイクル

 資源の再利用の形態として、清涼飲料のガラス容器などの回収した物をそのまま同じ目的のために使用する「リ・ユース」、清涼飲料などの金属容器やペットボトルを再び元の原料のペレットとして戻し、再利用できるようにする「リ・ニュー」、回収した油を石鹸に再生して、新しい製品にするなど物品の性質や形を変える「リフォーム」などがある。技術教育の中では生産に係る加工「リ・ニュウ」と「リフォーム」とが技術学習の対象になるであろうと考えている。しかし、資源や物品の有効な利用とか再利用については、技術系列の学習内容と言うより家庭系列の学習内容に関連することがらで、前述の資料には含まれていないことからもわかる。これも領域の共通部分を組み合わせて授業を行うときには、『プラスチックの利用』などについての生産に関連した部分を担うことで係わることができる。

 

3−3 技術教育研究から

 技術教育研究者の専門誌として『日本産業技術教育学会誌』が発行されており、これらを技術教育研究のより所にしている。過去十年ほどの期間に発行された雑誌の中から環境教育に関する論文を検索したところ、16編ほど掲載されていて、内容は、『栽培』領域を新しい領域『生物生産資源』へ転換を呼びかけるもの、『環境の認識を高める農業学習実践』、『栽培領域での環境学習の展開』など栽培領域に関するもの、技術教育での新領域『エネルギー領域』の創設を提案する論文、『エネルギー教育の在り方』、『我が国や外国でのエネルギー教育の現状分析』、『太陽エネルギーの電力変換や変換装置』に関する論文、『自然環境を認識させる教材開発』とか、容器内に密閉された空気を部分的に加熱・冷却することにより運動を生み出す『スターリングエンジン』に関する研究論文、『環境用語に関する意識調査』など概念に対する現状分析、『アルミニウム空き缶を利用した資源のリサイクルを学ぶ授業の実践』など金属加工領域に関する研究報告がなされている。技術教育では、学習領域の幅が広いためと思われるが、環境教育に関する論文数が占める比率はそれほど高くない。

 また、技術教育のためのネットワークを検索すると教材研究に関する情報が発信されており、金属材料に関する研究が多く見られる。検索されたホームページの中には専用のソフトが必要なものもあるなど多様であるが、実践報告が幾つか発信されている。環境教育に関する教材について発信されたものは、それほど多くない。

 

3−4 社会活動から見る環境教育

 社会活動としては、地域集団の環境保全活動や資源のリサイクル活動などの体を動かすタイプと個人的に呼びかけたり参加するインターネットレベルの活動が考えられるが、できるだけ深い関わりを避ける傾向が強い若者に対してはインターネットの利用による個別的技術学習の推進を図ることは可能であるように思う。

 たとえば、日本の環境のホームページを検索するといろいろな側面から扱った内容が公開されているが、内容は核融合問題から太陽エネルギー問題まで幅広く発信者も学術研究者、企業人、学生から一般の人まで階層の幅も広く、また内容も技術的なものから趣味に属するものまで扱いも幅が広い。すなわち、

・動力炉・核燃料開発事業団の紹介(もんじゅ事件の
 前に公開されたホームページ) 

・原発バイバーイの「チロリン村」だよ

・核融合反応

・「ITER がやってくる」国際熱核融合

・おかんでもわかる核融合(阪大大学院生の HP )

・太陽地球環境研究所(名大学太陽研究所の HP 太陽
 からのエネルギによる環境変化) 

・Japan Electlic Vehicle(ソーラーカー、電気自
 動車の研究グループの HP ) 

・太陽電池は地球を救う(慶応大小林さんの HP で、
 太陽電池の長所を紹介) 

・太陽光・風力発電トラストのホームページ

・ソーラーシステム(シロキ工業の HP )

・NTT マルチメディア クリーエネルギーの HP(太
 陽光発電) 

・天然ガス自動車

・Shikoku EV ― Rellay HP(1997年から4年間
 開催予定の四国自動車ラリー) 

・電気自動車 IZA

・千葉工大山口研(草炭利用研究)

・廃食油でディーゼル車が走る(染谷商店の HP )

・Welcome to ALTEC HP(徳島適性技術研究所の
 HP ) 

・ハウステンボス(長崎ハウステンボス住空間の創
 造) 

・山崎智嘉さんのホームページ

・THE PORESTAR HOME( ITER の情報リンク) 

・アルミ缶リサイクルの Home Page(赤池勝彦氏の
 リサイクル理念と方法) 

・名古屋市愛岐処分場のページ

・日の出の森が消えていく(東京日の出町の山と森の
 伐採から→ゴミ処分地へ) 

・市原ごみ裁判を進める会(京都市左京区の焼却場問
 題 出来たばかりの HP) 

 このように公開されたものの中から選んで、適確に利用することで、個別的な環境学習を促すことは可能かもしれない。技術教育の中には情報基礎領域があり情報の活用や情報収集、情報の適正な扱い方に関する基礎的な知識や技能を育成することが求められているので、目的を持った利用方法を学習する手段のひとつとして位置づけられるのではないかと思う。

 

3−5 公開研究会・模擬授業から

 本学附属中学校では特別な場合を除いて公開研究会を開いて授業提案をし、本学学生に対する教育実習の指導をしているが、筆者らが共同研究者として行った研究会や実習の中には、実験や体験を通して理科に親しむ啓蒙活動『青少年のための科学の祭典』において紹介されている総合学習的題材を取り入れて技術学習を実践する試みをしてきた。フイルムまたは清涼飲料の容器を使って電池作り、手作りの電池でモーターを回す、電気メッキ、ヘロンの蒸気機関、大気圧による空き缶つぶし、道具の違いによる火起こしを体験して道具の発達を学習など電気領域や機械領域での基本を学ぶ授業は、代表的なものとして挙げられる。さらに、プラスチックの再利用について学ぶ、『プラスチックにせまろう!』と題する授業をティームティーチングにより提案もしてきた。メッキやプラスチックを題材とする授業の中では廃品や薬品を使用するので、環境教育に関する内容を扱うことは可能であり、学習者への意識づけにも役立つと言える。

 

4.教員養成の中での環境教育

 本学教育課程改革前の技術専攻は、小学校教員養成課程の授業科目、「生活」と「生活科教材研究法」とを出講してきたが、卒業要件ではなかったので、協力をする形での出講であったが、改革後の技術教育専攻が小学校教員免許2種の取得が必要になったため、技術教育専攻の受講生が、幾分増えることは考えられる。

技術教育専攻は、「生活d」と「生活科教材研究法a」との2つの講義題目を出講してきた。

 

4−1 受講者数の推移

小学校専門科目の『生活』では45名、教職科目の『生活科教材研究法』では50名を受講者数の限度とするような、人数制限を設けて、受講数のばらつきを調整してきたが、旧課程における技術教育専攻が出講している2つの講義題目『生活d』および『生活科教材研究法a』の年度別受講者数の当初からの推移は、表1に示す通りである。

 

表1 2つの講義題目の年度別受講者数

平成年度

合計

生 活 d

45

48

48

51

47

239

生活科教材研究法a

50

52

50

54

206

 

一方、転換期にあたる平成8年度から10年度まで3年間の受講者数の推移は、『生活d』が52、30、46名で合計128名となっており、『生活科教材研究法a』では59、54、51名の合計164名で、この期間には受講者数の変動が大きくなっている。これは、小学校教員養成課程の学生の中に中学校教員養成課程が一部含まれていた初期と全ての専攻の学生が受講するようになったことによる影響である。年次進行により安定してくればクラス毎の人数のばらつきも解消されるものと思う。平成9年度は時間割の都合で『生活d』受講する技術教育専攻の学生は、皆無に等しかったが、平成10年度にはほぼ全員が受講した。

 

4−2 授業「生活d」における環境教育

 生活は、平成3年度から新設されたが、出講母体がないために関連する専攻の共同により出講することになった小学校教員養成課程の専門科目の一つで、7つの講義題目(a〜g)が2年次学生に対して開講されており、技術専攻は、『生活d』を出講してきた。

 当初、教科の会議では、現場の先生を招いて講話をして戴くなど現状分析して、教科教育と専門とを組み合わせることにして、教科教育担当の教員と専門に係る教員1〜2名との分担による授業を出講することになった。その内容構成と出講の方法は、今も変わらずに続けられているが、授業を分担する教員は固定する性格が強くなっている。その内容は教科教育に関する事項とエネルギーを中心にした技術の専門的な事項とから構成されている。すなわち、教科教育の部と専門教育の部である。「生活」は、先の学習指導要領改訂に提案実践された合科学習や総合学習を出発点にしていると考えて、科目「生活」が新設されるまでの経過をいれることにした。その理由は、現在の受講生達が、年代的に「生活」を履修していないので、その謂れを紹介することは、教員養成の立場からも意義があると考えたからであり、3年次に「生活科教材研究法a」を出講するけれども、同じ受講者がそのまま受講することがないのと早い内に教科教育的な内容を組み入れておくのは教育的にも効果があるように思う。年を重ねるに従い内容が追加されながら現在に至っている。

現在の授業の内容構成はその後の生活科の教科教育に関する内容も参考にしながら以下のように充実させてきたが、授業概要に加えて授業計画も記載する詳しい講義要目を発行するようになった、平成7年度からの最近の授業の項目を振り返ってみるとき、担当者数が変わっていても項目を見ると基本的に同じ内容で構成されていることが分かる。すなわち、

 平成7年度・平成8年度(3名で分担)

  生活科の歴史と意義

  技術科教育の立場からの生活科

  生活と技術

  自然とヒトと技術の関係

  太陽エネルギーと地球

  エネルギーと生産

  エネルギーの流れとその利用

  植物による生産とエネルギー・物質の流れ

  土と水と空気と動・植物

  生物生産における投入エネルギーと

  地球・生物・ヒトの持続的共生

 

 平成9年度(2名で分担)

  生活科の歴史と意義

  生活科が新設されるまで

  総合学習と合科学習

  技術科教育の立場からの生活科

  技術科教育の内容と生活科とのかかわり

  生活科としての技術

  地域の環境を探るマップづくり

  地球の熱収支と炭素の循環

  太陽エネルギー

  地球

  実用的エネルギー(火力・水力・原子力)

  人間環境とその破壊

  エントロピーの流れと自然界の汚れ

  エネルギーの有効活用

 

 平成10年度(単独で出講)

  生活科の歴史と意義

  ・生活科が新設されるまで

  ・合科・総合学習教育

  ・諸外国との比較教育的検討

  技術科教育の立場から見た生活科

  技術科教育の内容と生活科とのかかわり

  生活科としての技術

  ・地域の環境を探るマップづくり

  ・地球の熱収支と炭素の循環

  太陽エネルギー

  地球

  実用的エネルギー(火力・水力・原子力)

  人間環境とその破壊

  エントロピーの流れと自然界の汚れ

  エネルギーの有効活用

 

4−3 生活科教材研究法aにおける環境教育

 生活科教材研究法は、実践経験豊かな現職の先生方との分担による出講が基本になっており受講者たちが教育実習を履修する3年次学生対象の授業である。

 技術教育専攻は平成4年度から生活科教材研究法aを出講してきたが、平成4年度から平成6年度までは3名で分担し、それ以降は2名により分担して出講をしてきた。生活科教材研究法aにおいても授業内容は現場の先生による豊富な実践経験を主体にした教科教育的内容と『もの書き』や『もの作り』作業を通して生活科を理解するための課題の実践による実習的内容とを組み合わせた2部構成にして続けてきた。最近の講義ガイドから、授業の内容と流れをみるとき、

 生活dの復習

 生活科の題材に関する課題の実践

  1)生活科の題材探し

  2)手紙を巡って授業つくり

  3)工作を中心に教材研究の実践

  4)受講生の受け止め方

 現場での実践を通して授業分析

  1)授業記録と授業づくり

  2)「私が大きくなるまで」など

  3)生活科の評価と学力 

のようになっており、この場合の後半には教科教育に関する内容と現場での実践紹介を行うことが分かる。

 生活科の教育目標は他人や事物への思いやりの気持ちを子どもたちに育む、すなわち自分と他との関わりについて意識させることと自立の心を育成することであるとしている。受講生に対しても教育目標を認識を新たにさせるために復習をして、教材研究法では題材を通して自ら体験することが必要と考えた。たとえば、自然と関わること人と調和しながら社会に関わることを学んで行くこととはどんなことかを体験するために、前年度に受講した『生活』を復習することにより題材を思い出すこと、文字や絵により表現することにより他に伝えることの重要さを受講生に認識して貰うなど生活科の実際と意味とを把握して貰いたいものと思う。

 『もの作りを通して知識と技能を学ぶ』ことを基本にしている技術教育は手を使って学ぶ側面を担うことができる部分であると考えて、『題材』は、個人で行う学習(題材探しと手紙を巡って)、共同して制作作業をする内容など関わりをもつ(絵本づくり)学習内容を適度に組み合わせ、さらに教育実習も考慮に入れて指導書や指導案を作成するなど多面的に学習するように工夫してある。これらの題材のうち『絵本づくり』は環境教育に適しているいるように思う。はじめに、物語の内容や教育目標を立て、用具類をリストアップするなど制作設計をしてから計画書を提出し、それにしたがい作品づくりを始めて、最終回に作品の発表会を行って成果を共有することにしている。試行の当初から配布する資料を除き、この授業で使用する用具類と消耗品の大部分を自費で賄い、成果を買い取る形にして実施してきた。題材の中身を指定している訳ではないが、環境に関する内容を扱った作品が幾つか提出されてきたことからも、この授業の中での環境教育の実現は可能であると推測できる。

 当初からこれまでに121点の作品が提出されたが、それらのうちの約1割が、ゴミ問題、木の春夏秋冬、地球はないてるよ、しずくの大冒険、田植えバンザイ、大きな木などの汚染に関する問題や自然保護に関する題材をテーマにした作品である。従って、課題を技術や生産に関連する環境問題に絞ることによって、望む題材に係わる環境教育について教員養成の一端を担うことができる。

 

5.「生活d」受講生の反応

 ほとんどの授業において、講義の前か終わりに授業について意見を求めるなどの意向調査を行っており、生活dについても教科教育関連の簡単な項目について意見も聞くなど調査をしてきた。環境教育を意図して授業を行った訳ではないので、特に環境に関する内容を含めてはいない。平成7年度以降の入学者からは、大学の大綱化や本学の教育課程の改革により履修状況が変わっている。これからの授業を作る上で比較するには向かないとは思うが、履修の条件などが異なる、平成7年度以前の受講者に向けて授業後に行った意識調査の結果も含めて紹介しながら簡単な説明を加えるなどの検討をしたい。

 はじめに、意向調査への回答の集計結果を示して、次いで、記述式により回答をしたことに対する理由を説明した文も示す。

 

5−1 意向調査の集計結果

 調査した年度      91  93  94  95  計 

生活科が新設された理由が

 @ 分かった      4  2  4  4  14

 A 少し分かった   18  26  25  26  95

 B 分からなかった   3  1  1  0   5

 C 何とも言えない  9   4  4  5  22 

 

生活科が新設されるまでの経緯が

 @ 理解できた     5  7  3 4   19

 A 少しは理解できた  25  22  31  29 107

 B 説明が不足である  1  1  3  1  6

 C 分からなかった   3  2  9  1  15

 D 無回答       0  1  0  0  1 

 

合科・総合学習について

 @ 理解できた      2  4  4  8  18

 A 少しは理解できた  29  24  31  22  106

 B 説明が不足である  0  1  2  4   7

 C 分からない     3  3  6  1  13

 D 無回答       0  2  1  1   3 

 

生活科がどんな教科かが

 @ よく分かった    4  4  4  4  16

 A 分かった      18  25  28  26  97

 B 説明が不足である  4  1  8  5  18

 C 分からない     7  2  3  2  14

 D 無回答       1  1  3  1   6 

 

技術科と生活科との関連が

 @ よく分かった    1  1  1  2   5

 A 分かった      15  13  10  9  47

 B 何とも言えない   18  17  21  18  74

 C 分からない     1  2  13  5  21

 D 無回答       0  0  1  0   1 

 

  調査した年度     91 93 94 95  計 

技術など理系科目の講義での教育論は

 @ 必要と思う    17 21 25 16  79

 A 役に立つ     14 10 17 16  57

 B 役に立たない   1 2  0  1   4

 C 無回答      2  0  4  2   8 

 

理系教員が理科実験に加えて文化的実習をするのは

 @ よいと思う    33 32 41 35 191

 A よくない      0 0  0  0  0

 B その必要はない  1  1  5  0  7

 C とんでもない    0  0  0  0  0 

 

技術科の学習領域で聞きたいと思うのは

  @ 木材加工     8  3  7  9  27

  A 金属加工     1  3  1  2   7

  B 電  気     7  3  2  8  20

  C 機  械     3  7  4  5  19

  D 栽  培     17  20  20  18  75

  E 情報基礎     −  9  2  2  13

  F 無回答      0  0  0  3   3 

 

行ってみたい実験または実習

  @ 理科実験    6  4  6  3  19

  A 植物栽培    17  19  11  13  60

  B 動物飼育     7  12  19  11  49

  C 工  作    11  8  7  13  39

  D 調  査    3  2  6  5  16

  E その他     0  0  0  1   1 

 

 調査で回答を求めるときは、単に理解したかどうかの数字をみるだけでなく、その理由を聞くことは大切なことである。内容が明確でない質問も含まれていたように考えられるときにどう受け止めたかが分かる。そのようなことも含めて、記述式で理由をそれぞれの事項について回答を求めた。各々の回答の理由として挙げたことがらは、以下のようなものである。

 

5−2 教科教育に係る質問に答えたときの理由

 1).生活科が新設された理由として挙げた内容

 生活の意図から、低学年教育の在り方、答申の内容、報告書、歴史を通して(2)、生活の内容から、生活科の目標から、「生活科」の試行と実践から、色々あってかき切れない、体験学習の重視、より子供たちに密着した観点から、詰め込み教育への批判と言う点、現在の注入型教育への批判、現状教育への批判、報告書、テスト、小学校低学年と高学年の相違(2)、学習意欲を取り戻す、人間性の重視、目的意識を持たせることから、初期教育・親業教育の充実

 2).生活科が新設されるまでの経緯理解の中身

 流れがつかめなかった、必要性を叫ぶ声の高まり、現場の声に基づいている、時代背景的に、歴史的に、歴史から、子供達の問題点から、大まかな程度、報告書類、時間経過的に、少し忘れた部分がある、何年に施行されたか忘れた、詰め込みだけではだめだ、授業中に見たビデオなどで、評価の問題など、授業で知ったところまで、途中必要だと思われつつその難しさからあまり広まらなかった時期があること

 3).合科・総合学習を理解した内容

 人間性の育成、必要性、生徒の生きる力をつけると言う点、必要とされできたものである、分科しないことの意義、教科を合わせることで子供たちに合わせることが、学習内容(2)、手段の再用例の多さ、実体験重視(2)、成立の経緯について、子供が楽しく学習できる、小学校について、4つの形態(2)、自立を目標にしている点、必要性と実施状況など、外国での総合学習、人間を育成する点

 4).生活科がどんな教科かを理解した内容

 生活科の意図・内容、体験学習、新設の経緯、配布された印刷物、実践例のビデオ、ビデオを見て ・、具体的に体験する、体験を通して学ぶこと、実体験重視、教科書から、講義から、いろんな事をやってみる教科、総合学習、実際の授業を見たことがなくイメージが湧かない、目標・教材・活動・評価から、饋還、体験学習・地図学習から

 5).技術科と生活科との関連を理解した内容

 エネルギー(2)、エネルギー問題(2)、エネルギー関連(2)、エネルギー等の学習共通点、様々なエネルギー、エネルギーの例から、エネルギーや栽培的分野、エネルギーとの関わりが分かった、配布した印刷物から、印刷物など、生活に密着している点、何れも体験して学ぶこと、特に活動内容は技術科に関わるということ、体験するということ、説明が少なめに思う、よく分からない

 6).技術担当の科目での教育論は必要と思うか

 どの教育にも必要だと思う、どのような科目でも教える内容や方法についての議論は教育の発展につながる、実践だけではうまくいかない、生活に密着した部分が多いから、生活上必要だから、物理的に考えることが多いから、広い知識を身につけた方がよい、講義での内容とは関係しなくても見た方がよい、我々の生活との関係の重要さを学ぶため、どの科目も教育するためのものだから必要ないことはない、子供たちが実験や工作などが好きだから、教養はどの方向に対しても必要なものであると思う、どのような場においても講義である以上コンセプトなる教育論は必要、理系の先生も教師ですから、生活科もそうですが身近なことが多いので、理系科目・文系科目に関係なく必要だから、自然科学的な揺るぎのない事実から理論的に物事を考えることも必要だから、自分がどれだけ自然を傷つけているか、教育者の立場から考えなければならないから、どこかに通じることがあるから、生活に根差した科目であるから、技術科だから必要な人には必要だと思う、生きることに直接結び付くから

 7).実験だけでなく実習も必要と思う理由

 教育の一環として必要、小学校教員は片寄ったりするのはよくないと思う、理系教員だからといってそれにこだわることはない、広い知識をもつことが必要、広い知識を身につけた方がよい、広く見聞をもつことはよいことだと思う、広い範囲のことを知っていた方が教える内容も理解しやすいものになると思う、幅広い知識があればどんなことにも対応できるため、幅広い知識を持つため、広い範囲の知識が必要だと思う、幅広く知識を深めてほしいから、何事もチャレンジ、違う分野を多く学ぶことはよいと思う、教養は深めればその分だけよいと思う、狭い範囲で物事を考えるよりはよいと思うから、現場が大事だから、何事も経験、悪いという概念があるのですか、豊かな教養はどのような職業でもあった方がよい、全く関係ないとは思えないから、理系教員も理科的なものだけでなく文系的なものを必要だから、何でもそうだが物事を多角的な視野から見ることは大切だと思う、それが教師だから、片寄っていてはよくない、理系だけで人は生活していないので、両方がどう関わっているのかを知ることができるから、専門的なものだけでいい、一つの方向に片寄りすぎてはいけないと思うから、関連づけることができればよいと思う、文化的実習がより理解できる、教員としての人間性も成長したいから、分からない

 

5−3 授業と実習の内容に対して希望した理由

 1).聞きたい技術系列の領域とその理由

 領域名の後の[ ]内には平成8年度以降3年間の受講者数を、理由内容文末の(  )内には、同じ内容の回答をした回答者数を示した。

 電気[22]:よく分からない難しい分野だから、好きだから、奥が深そうだから、今いち難しくて分からないから、ハイテクのエネルギー源は多く電力でありこの分野はとかくブラックボックス化してしまい易いので、分かりにくいため、興味がある、中学校で経験して楽しかったから

 栽培[45]:身近でこれから重要、今まではあまりやったことがないから、庭づくりをしたいので、栽培に興味があるから(2)、実行にすぐうつせるから、自分でもやれそうな気がする、奥が深そうだから、成長過程を見るのが楽しみだから、楽しそう、他の4項目は理系分野で嫌いだから、生活科で一番役に立ちそうだから、北の国から98を見て、いねについて興味を持った

 機械[11]:興味がある(2)、リンクが面白いから、機械は身近にあるわりにその実体をあまり知らないから

 金属加工[6]:ナイフづくりをしているので、よく分からないから、興味関心が一番強いから、金属を硬くする焼き入れなどに興味があるから

 木材加工[10]:昔から好きな分野だった、木で何かをつくるということを学びたいから

 その他[5]:すべてに関して応用は効くと思う、全部(技術科の生徒ですから、すべてに興味がある)

 無回答[2]

 2).行って見たい実験・実習の内容とその理由

 理科実験[15]:楽しく学習できる、理科が好きだから(2)、理科専攻なので(2)、興味があるから、興味を抱いているがこの大学ではできないこと

 植物栽培[32]:好きなので(3)、植物を手塩にかけて育てて見たい、役に立ちそうだから、自分に向いているから、実際を知りたい、楽しそう、野菜を食べたいから

 動物飼育[28]:動物好き(3)、動物に触れる機会がないから、動物を飼う難しさを知っておきたいから ・、単純に感動できて面白そうだから

 工作[22]:工作が好きなので (3)、いろいろ物を作ることが好きだから・楽しそうだから

 調査[11]:生活科の中心的内容に近いから、学外でやるこことが多く面白いから、統計学に関心があるため、やったことがないから

 その他[1]

 3).生活dを履修することにした理由

 エネルギー問題に関心を抱いた、文系なので理系の内容を学ぶことが必要と思った、太陽エネルギーを内容に取り上げる所に興味を持った、太陽エネルギーに興味を持ったから(3)、エネルギーという言葉にひかれた、興味があったから、太陽について興味があったから、太陽エネルギーについて学びたかった(2)、エネルギーの話が聞きたかったから(2)、特になし(4)、理科的要素が多すぎると理解できるか不安だったから、正直に言いますと必修だったから、一番自分の生活に近いと思ったから、生活と技術の共通点・役割分担が知りたかった(2)、スケジュールの都合(3)、技術の生徒だし技術科の先生がやる生活も聞いて見たかった ・、自分は技術科なので少しでも役に立つかなと思って、自分に一番身につきよいと思うから、生活科の歴史が知りたかった、技術科側の面から見て生活という科目にどう対処して行くかが興味深かったから、技術科の先生だとは受けるまで知らなかった、一度受けて見たかったから、面白そうだった、“子ども”と離れて「生活」を見れると思ったから、無回答(5)

 

6.「生活科教材研究法a」受講生の反応

 この科目では、『教科教育』と『もの作り』の授業内容を実施する順序が前後したりして一定しないため記述式の意見や感想を求めることにしたため、数量的に分析するのは難しいとしても、傾向は把握できる。

 次ぎに、一部ではあるが、近年の受講者の回答例を紹介することにする。内容は、授業全般に関する感想や意見、課題研究についての感想や意見など、およびその他に感じていることの3項目である。

 

6−1 授業全般について思ったこと

 授業全般について思ったこと感じたことについてはいろいろな面から述べているので、共通な言葉のある部分を拾って人数を示して見ると、以下のようになる。

 生活科の内容が分かった・知ることができたと言うもの11名、楽しかった・嬉しかったと言うもの8名、興味がもてた、良い内容や教材であったというものが8名、自分で考える題材であったと思ったもの6名、ものを作ること作らせることは大切だと感じたものが6名、参考になった・ためになった・良かったと言うものが4名、充実した授業だったとか受け易かったと言うものが各1である。課題重視の授業を学生たちが求めていることは否定できないと言えそうである。一方で、生活科との関連が分からなかった・漠然としていた・難しかったなどの批判的なものが7名いた。

 

6−2 課題研究について感じたこと

 工作を中心にした課題研究について感じたことがらとして前項と同じようにして、多い順に並べると次のようになる。

 苦労した・迷った・面倒だと思った・難しかった等と悲観的に感じたもの15名、今後の参考にしたい・良い課題であったと言うもの11名、面白かったとか楽しかった・楽しさを味わった・重要だと感じたもの11名、考えさせられたとか考えたと言うもの7名、勉強に役立つ・貴重な経験をしたと言うもの3名、他の授業で前に経験していたのでやり易かったなどが2名いた。はじめはいやだと思ったとか難しいというものが全てそのままで終わった訳ではなく、その一方で楽しかったとか面白かったと答えているので、全く否定された訳ではないと理解している。

 

6−3 その他の事項

 その他の意見や提言に属するものは、前項にもありこの項目ではそれほど多くなかったが、以下のような内容であった。

 もう少し時間をかけて欲しい。

欠席したので、発表会に出られなかったのが残念だ。

欠席したときの課題もやりたかった。

教材研究は、理論より実践であると感じた。

今後とも工作を取り入れて欲しい。

作品を返して欲しかった。

小学校のとき生活科があったらナァ・・・と思った。 

 課題の実践は、楽しかったとか、できて嬉しかったとか実践を望むとの意見が多く、十分に時間をかけて欲しいとか、これからも工作を取り入れて欲しいなどの意見は受講生たちが手を使う機会に巡り会ったことに対する実感を述べたものであると受け止めている。

 

7.考 察

 環境教育は、100年ほど前に創始され、自然観察や環境保全について学ぶために行われてきた歴史の長い総合学習の典型であると言える。一方、技術教育は人間の生活の場を通して学ぶ総合学習教科と位置づけることができる。これについては、先に『技術教育の役割について』の論議を展開し、他の各教科とも密接に関連していることを例示し、提言したところである。

 これまでに述べてきたように、小学校の低学年での生活科は、総合学習を主体とする教科として見ることができ、技術教育の中での特質を生かしながら係わることができ環境教育を実現できる教科であると言える。生活科は、自分を知り自分以外の人や自然との係わり方を見出しながら自己が自立して行くことを教育目標とする教科である。自然との係わりの部分は環境教育そのものである。教師達は指導に当たるのではなくて、学習活動を支援をする側に立つことが求められている。生活科の授業を受講する学生たちが生活科の教育目標や内容を理解しておくことは、必要なことと思う。

 総合学習の実践の経験なしに『生活』の授業設計をするとか月日をかけて観察することは難しいと思うし、頭で考えていることを文字にしたり、作業を通して形に表すためには積み重ねが必要で、いろいろな道筋を辿りながらも自分の身につけるための環境教育の入口としての役割を果たす授業であるとして位置づけたい。

 中学校教員免許取得が卒業要件であった中学校教員養成課程の専攻の一つである技術専攻から小学校教員2種免許取得も卒業要件とする学校教育教員養成課程の技術教育専攻では、教養科目、基礎科目に加えて、小学校関連の科目の出講がどうしても必要である。

 それらの科目の中では、環境教育が可能なのは生活関連の科目であると思う。その外に、技術固有の学習内容なども考慮して環境教育ができるのは情報関連の領域ということができる。そのような観点に立って、現在係わっている教育活動を振り返って検討してきた。

それらは、以下のように要約できる。

@ 環境教育は、教科間の垣根を低くする総合学習
   の原点で、総合学習への入り口として位置づけ      られる。

 A 教科に共通する内容はエネルギーの技術的な考
   え方や取り扱い方および情報教育に関する事柄
   である。

 B 現場をもたない技術教育が、環境教育に係われ
   るのは総合的学習を基本とする生活科関連科目
   である。

 C 生活科受講生の期待する内容は、情操教育的内
   容も含む課題の実践または作業学習である。 

 

8.おわりに

 仙台教育事務所高橋幹三先生(当時本学附属小学校・粕川・大曲小学校)と本学附属小学校千葉信明先生には、『生活科教材研究法a』の出講の分担者として現場において実践された説得力のある経験豊かな授業の紹介と授業分析の講義をして戴いた。また、本学教育学部小住兼弘教授には、『生活科教材研究法a』の初期の授業への分担出講を戴いた。さらに、本学教育学部本田強教授には、授業設計上の助言と『生活d』への分担とを戴いた。名を記して感謝の意を表します。

 

  文 献

 安孫子、津川、菅原、高橋:技術・家庭科における

  統合化的試み、技術教育の研究第3巻(1997)

  p.39-45

 文部省:環境教育指導資料[事例編](大蔵印刷局

  発行、平成7年)

 中島篤之助:21世紀のエネルギーと環境(新日本出
  版社、1995年)

 日本太陽エネルギー学会:太陽エネルギー読本(オ

  ーム社、昭和50年)

 高橋、杵淵、三谷、大矢、安孫子:技術・家庭科に

  おける環境領域に関する教材研究 −資源リサイ 
  クル製品の製作−、日本産業技術教育学会北海道
  支部研究論文集、第10号(1997)p.16-20

 津川:領域間に関連させる金属加工学習教材の検討、

  平成 7/8 年度文部省科学研究補助金 [基
  盤研究(C)]報告書(1997)p.33-42

 津川、中屋、安孫子、小住 : 臨床教育研究F
  の報告(プラスチックにせまろう)、臨床教育研
 究、1997年度(1998)p.155-187