宮城教育大学環境教育研究紀要 第2巻

 

環境教育素材としての微小生物ときれいな水

―― 市販自然水を用いたボルボックスの培養 ――

見上 一幸*・村松  隆*・黒川 浩也*

 

Clean water and microorganisms as teaching materials for environment education: Culture of Volvox in natural mineral water on the market. Kazuyuki MIKAMI, Takashi MURAMATSU and Kouya KUROKAWA (EEC, Miyagi University of Education, Sendai, Japan)

 

Abstract: Water is one of the most important constituents of environment for life. In the class of environmental education at school, children often think about purification of the polluted water in lakes and rivers. However, children may not have enough time to consider what is clean or healthy water for life. They sometimes confuse biologically polluted water with chemically polluted one. The present paper shows that the clean water good for human being is not always good for other organisms. We investigated here the possibility of natural mineral waters on the market as teaching materials for environmental education. The result obtained are followings. (1)There are different qualitatively and quantitatively in their chemical components among the natural mineral waters those are good to drink on the market. Children can learn that the differences in chemical components reflect the geology. (2)The microorganism such as Volvox is very sensitive to the quality of the water. We cannot keep it alive for long time in distilled or ultra―pure water. The microorganism can be alive in some balanced salt solutions. Volvox lived and grew in some mineral waters but not in others provably because of the high concentration of Mg2+ and Ca2+. (3)Moreover, the relationship between growth of microorganisms and quality of water is available to learn the roles of soil, for example, source of supply of mineral required for its growth.

 

Keywords: water analysis, natural mineral water, Volvox, teaching material, environmental education

 

1.はじめに地球が水で満たされた太古の時代から現在まで、水は地球を循環し、その間に多くの物質を溶かして海に運ぶ役割を果たしてきた。生命にとってこの水は不可欠の環境要因である。水を考えるとき、これまでの環境教育教材は、美しい自然の川や湖での自然体験活動、あるいは環境汚染の問題と結びつけた水の浄化や人間生活の在り方などを扱う教材が多かった。我々はこれまでいろいろな水質環境と微小生物を環境教育教材として検討してきた。その結果、“きれいな水”とは何かを考えるための素材が少ないことに気づいた。多くの人は「きれいな水」を単
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*宮城教育大学教育学部附属環境教育実践研究センター

にきたいない水や汚れた水に対する相対的な言葉として概念的に捉え、具体的にはあまり考えようとしてこなかったように思われる。また、身の周りに汚濁の少ない、飲料として用いることのできる自然水を得る場所がきわめて少なくなってきている。そこで、化学的に言う純度の高い水ではなく、人にとってそもそも自然の「きれいな水」がどのようなものかを考える教材の必要性を感じた。現代の生活は、上水道に依存している。この水も地球上の水循環の中で雨や雪として地上に供給された水が、地表を、あるいは地中を経てきた水である。そこで、水と生物という観点から、いわゆる「きれいな水」につい
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て考えることが、地球環境の中での水と生命を理解をするのに大切であると考え、本研究では水と微小生物という観点から環境教育のための素材の検討をおこなった。

 近年、身近な場所からきれいな自然水を入手するのが難しくなる一方で、ナチュラルミネラルウォーターが広く市販されるようになった。それだけ安心して飲める水が身近な自然から消えたということでもある。この状況は、つい15年も前の日本では予想できなかった。この市販ミネラルウォータは、教材微小生物の培養にたいへん便利である。生物学における学術研究では、蒸留水や脱イオン水を用意して、それぞれの生物種に適した質と量の塩を溶かして用いる。しかし、学校現場で調整するには費用と手間がかかり、準備に困難を伴う。このような教育現場からの問い合わせに対して、曾てはきれいな川や池の水を使うことを薦めていた。しかし近年、特に環境の汚染や開発によって身近にそのような場所を得るのが難しくなってしまった。また、水道水は残留塩素のために、そのままでは使えない。こうした状況の中で、自然水が広く市販されるようになり、コンビニエンス・ストアでいつでも買えるようになったことから、教材用の微小生物の培養にはこの自然水を薦めている(見上、1993)。

 しかし、この自然水をボルボックスの培養に使用したところ、商品によってボルボックスの増殖に違いがみら、ボルボックスが外液環境にたいへん敏感であることも分かった(見上・黒川、1994;渡部、1995)。そこで、本研究では、いわゆる「汚濁」の起こる前の“きれいな水"についても、微生物によっては適不適があり、環境教育のための素材として使用できるのではないかるのではないかと考えた。ボルボックスの増殖と自然水との関係について検討を行い、人間の飲料として適した水でも溶けた物質に違いがあり、微小生物にとっては適当でないものもあることを示そうとした。なお、本論文では自然水の中でのボルボックスの成長の結果を示したが、これはあくまでもボルボックスの培養という限られた目的のための検討結果であり、人の飲料として良不良に関して言及しているものではない。

 

2.材料と方法

(1)使用した自然水

 本培養実験には、市販の自然水(ナチュラルミネラルウォーター)として、商品名「六甲のおいしい水」(採水地;兵庫県六甲)、「龍泉洞の水」(採水地;岩手県)、「仙人秘水」(採水地;岩手県)、「SPA」(採水地;ベルギーのスパ)、「Volvick」(採水地;フランスのVolvic)、「Evian」(採水地;フランスのEvian)、「南アルプス」(採水地;山梨県白州町)、「S. BERNARDO」(採水地;イタリアのSt. Bernardo)、「Vittel」(採水地;フランスのVittel)、「 Laurentians 」(採水地;カナダのLaurentians)、「Valvert」(採水地;ベルギーのAndenne)、水道水(採水地;仙台市)の計12種について調べた。多くの商品表示において自然水をナチュラルミネラルウォータとしていることから、本論文においても、そのように呼ぶことにした。対照実験用としては、脱イオン水(100ml)に赤玉土(40g)と炭酸カルシウムを少量加えてオートクレーブした後の上澄み液を用いた(見上・阿部、1992)。

(2)水質分析の方法

 ナチュラルミネラルウォータの水質分析には、ダイオネックス・イオンクロマトグラフDX-120、CS-12陽イオンカラムおよびオートサップレッサCSRS-2を使用した。

(3)使用した生物種と培養法

 本培養実験に用いたボルボックス Volvox sp. は、宮城県内で採集されたもので、ボルボックスを材料として維持するための培養は、脱イオン水(100m)に赤玉土(40g)と炭酸カルシウムを少量加えてオートクレーブし、0.1%ハイポネックスを加えたもので行った(見上・阿部、1992)。実験にあたっては、この培養を軽く遠心し、個体密度を上げて使用した。このボルボックスの液1mずつを、ナチュラルミネラルウォーター70mの入った三角フラスコ(100m)に加え、20±1°Cで、12時間明期―12時間暗期のサイクルで培養を行った。明期には、30W蛍光灯2本の下、約4,000lxの光が当てられた。

 ボルボックスを植えて1日後、3日後、1週間後、2週間後、および1月後に個体数を計測した。計測にあたっては、ボルボックスが容器内で十分に分散するよう、三角フラスコを静かに振って撹拌し、そこから1mをとり、デプレッションスライドグラス(深さ約5mmのホールグラス)に1滴ずつ分注した。実体顕微鏡下ですべての個体を数え、1mあたりの総数を計測し、個体数計測にあたっては、若い小さな個体も、娘群体を内に持つ大きな個体もそれぞれ1個体として扱った。

 

3.結果と考察

(1)市販ナチュラルミネラルウォータの組成比較

市販ナチュラルミネラルウォータの塩類等の組成は、それぞれの商品ラベルに表記されている(表1)。それらの多くは、中性あるいは弱アルカリ性で、Ca+2、Mg2+、K+、Na+ などの陽イオンの濃度は、高いものから低いものまでさまざまである。実際の組成がこれらの表示の通りであるかどうかを確認するため、イオンクロマトグラフィーにより水質の分析を行った。分析は、Ca2+、Mg2+、K+、Na+ の他に、NH4+、Li2+についても行い、その結果、Ca2+、Mg2+、K+、Na+についてはそれぞれ商品表示に近いものが得られた(表1)。これらナチュラルミネラルウォーターの中で、Ca2+

度の高いものとしては、Vittel、Evian、Andenneといずれもフランス、ベルギー地域の水で、国産の2

 

倍あるいはそれ以上の濃度であった。Mg2+濃度については、Evian、Laurentians、Vittelと、これも外国産のものが高い値を示したが、イタリア、ベルギー、フランス産のものは低い値を示したことを考えると、Mg2+はフランス、ベルギー地域だけが高いとはいえず、より限定された地域の地質と大きな関わりがあると考えられる。K+については、Volvickが高く、測定値では、Vittelや白州町もが高い値を示した。Na+にいては、六甲(Rokko)が非常に高く、つづいて、Volvick、仙台市水道水、Vittelとつづく。ベルギーのSpaは、これらのイオンの種類については、いずれも溶けている量が少ないのが特徴である。

微小生物の生存や成長との関係を調べるためには、これら以外の陽イオンや陰イオンの他、微量元素についても調べなければ十分な論議はできないのであるが、今回の結果は、ラベル表示の数値の確認という意味を持たせたので、表のような種類に限って測定した。ただ、NH4+については汚染を示す指標でもあるので測定を行った。NH4+はきれいな水には存在

 

原産地

        ラベル表示

       測定値(ppm)

pH

Ca

Mg

K

Na

その他

Ca

Mg

K

NH4

Na

Li

兵庫県Rokko

7.4

24.0

5.7

0.3

18.0

 

26.68

5.21

0.28

0.00

17.05

0.00

岩手県A

8.5-8.8

10

<1

0.4

2.6

蒸発残留物;27-40mg/l

           

岩手県B

弱アルカリ

35.2

2.2

0.3

2.3

             

フランスEvian

7.2

78

24

1

5

重炭酸塩;375mg/l,塩化物;4.5,硝酸塩;3.8,硫酸塩;10

81.72

25.93

0.85

0.00

6.03

0.02

フランスVolvick

7.0

9.9

6.1

5.7

9.4

 

10.18

7.28

6.29

0.00

11.26

0.00

ベルギーSpa

 

3.5

1.3

0.5

3

硬度14軟水

4.03

1.43

0.32

0.00

3.14

0.01

フランスVittel

7.5

91.0

19.9

 

7.3

鉱泉水; 105.0

99.37

20.71

4.81

0.00

7.99

0.09

カナダLaurentians

7.8

38

22

2

6

 

43.09

22.20

1.95

0.00

6.32

0.00

イタリアS. Bernardo

 

45.5

0.76

0.16

0.61

CO2;137.69, Cl; 0.64, S; 2.98, Si; 3.70, N; 1.75

48.51

0.69

0.19

0.00

0.95

0.00

ベルギーAndenne

7.7

67.6

2.0

0.7

1.9

 

72.45

1.83

0.39

0.10

2.53

0.00

山梨県白州町

7.0

10

1.5

2.6

4.7

 

9.64

1.52

4.47

0.06

3.79

0.00

仙台市(水道水)

           

8.36

2.03

0.69

0.00

8.03

0.00

          表1 市販ナチュラルミネラルウォータの成分

しないはずであるが、今回の我々の測定では、一部の自然水にわずかながら検出されたことが気になる。

(2)ナチュラルミネラルウォータとボルボックスの増殖

 先行研究である「水中微小生物の簡易培養法の検討」を行った際には、国内産3種と外国産3種、計6種のミネラルウォータを用い、ボルボックスの増殖に適しているかどうかの検討を行っている(見上・黒川、1994)。本研究では、新たに国内産1種と外国産3種、計4種のナチュラルミネラルウォータについて調べ、従来の結果と合わせて水質との関係を調べることとした。

 ボルボックスは水田の水の中などで見つけることができ、水に溶けた塩類と光エネルギーを使って成長する植物性の微小生物である。自然の水の中には、すでにボルボックスの成長に必要な養分は溶けているはずである。とすれば自然水の中に入れ、光を照射するだけで成長するのではないかと考えられる。そこで、市販ナチュラルミネラルウォーターについて調べてみた。対照実験用としては、すでに知られているボルボックスの培養に良好な液(脱イオン水100mlに赤玉土40gと炭酸カルシウムを少量加えてオートクレーブした後の上澄み液)を用いた。この上澄み液を70ml、2個の三角フラスコ(100ml)に入れ、ボルボックスの培養1mlを加え、個対数の変化を調べた。この赤玉土抽出液では、個体数は3日間でほぼ倍化し、1週間増加の傾向を示した。2週間後もやや増加かまたは同じであったが、4週間後に減少した。六甲、岩手A、岩手B、Volvick、Spaは、土抽出液とほぼ同じ傾向を示した。すなわち、1週間後には倍化し、その後1〜2週間もわずかに増加したが、4週間後には減少傾向に転じた。しかし、調べた6種類の市販水の中で、Evianだけはほとんど増加がみられなかった。したがって、これら6種の中で、Evianを除く他のナチュラルミネラルウォーターが、少なくとも2週間はボルボックス培養維持に用いることができるといえる。これらと同様の結果はすでに報告されている(見上・黒川、1994)。

 ではなぜEvianだけがVolvoxの培養に適していないのであろうか。そこで、Evian, Spa, Volvic以外のヨーロッパ産の自然水についても調べてみることにした(図1)。St. Bernardoは対照実験(赤玉土抽出液)とほぼ同じ増殖が見られたが、VittelやLaurentiansでは、Evianの結果と同じように、顕著な増殖は認められずに個体数の減少が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

図1 ナチュラルミネラルウォータに

    ボルボックスを入れたときの個体数変化

 

(3)市販水にハイポネックスを加えた場合

 ミカヅキモやクンショウモを六甲やVolvicに入れた場合、ミネラルウォータだけよりもハイポネックスを入れた場合の方が個体数の増加が顕著であった(見上・湯元、1995)。そこで、ボルボックスについても、栄養分の追加により、増殖が促進されるかどうかの検討を行った(図2)。(2)で良好と考えられたVolvicとRokko、あまり良好と言えなかったVittelとEvianにハイポネックス(0.05%)を加えたものを用いた。対照実験である赤玉土抽出液に同濃度のハイポネックスを加えた場合には、ボルボックスの順調な増殖が見られた。しかし、VittelとEvianだけでなく、VolvicとRokkoの場合にも、間もなく減少傾向を示し、対照実験とは大きな違いが見られた。このことは、ボルボックスがミカヅキモやクンショウモとは異なり、ハイポネックスを加えても増殖が促進されるわけではなく、逆に抑制されるということを示している。対照実験液で良好な増殖が見られたことは、赤玉土には、ハイポネックスだけを加えた場合の増殖抑制を打ち消す効果があると考えられる。

もっともEvianを用いたときは、ミカヅキモやクンショウモでも、ハイポネックスを加えても加えなくても増殖しない。Evianには、ボルボックスに限らず、増殖を抑える要因のあることが示唆される。

(4)ボルボックスの生存・成長とナチュラルミネラルウォータの組成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図2 市販水にハイポネックスを

      加えたときの個体数変化

 では、ナチュラルミネラルウォータの中にVolvoxの培養に適しているものと適さないものがあることの原因は何であろうか。この問題を調べるために、ボルボックスの増殖に不適であったVittel、Laurentians、Evianの3種と、良好な結果の得られたVolvick、Spa、Rokko、Bernardの4種のミネラルウォータについて、その成分の組成を比較した(図3)。ボルボックスの成長が不良であるEvian、Laurentians、Vittel (図3−A〜C)は、Mg2+とCa2+の濃度が高く、良好であるVolvick、Spa、Rokko、Bernard(図3−D〜G)はMg2+とCa2+の濃度が低い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        図3 ボルボックスの生存・成長とナチュラルミネラルウォータの組成

(5)ナチュラルミネラルウォータにCa2+とMg+を入れた場合の個体数変化 上記の結果から、Mg+、Ca2+の濃度が高い液は、ボルボックスには適さないと考えられることからRokkoにMgCl2とCaCl2を加えて培養液とした(図4)。ミネラルウォータ(Rokko)に何も加えない場合(図4-Cont)に対して、MgCl2を5mg/l (図4,5-Mg)加えても影響は認められなかったが、それ以外の場合は増殖の低下が認められた。これらの結果が図2で得られた結果を十分説明できるとは言い難いが、Mg2+、Ca2+濃度が高い液は増殖を抑制するという考え方を支持する。表1の水に含まれる塩類等の組成から考えると、Ca2+、Mg2+および重炭酸塩が多い。また、今回調べなかった陰イオン物質や微量物質による可能性も残されているが、それを明確にはできなかった。

 今回得たボルボックス増殖の実験だけでVittel、Laurentians、EvianがVolvoxの培養に適さないことの唯一の理由が、高い濃度のMg2+、Ca2であるとは結論できない。今回の実験では、一部の陽イオンだけについて調べただけであり、陰イオンや微量で有効な物質の有無が影響しているのかも知れない。いずれにしても、人が飲料としてして日常用いている水であっても、ボルボックスのような微小生物は、敏感にその化学的組成に影響を受けていることがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図4 ミネラルウォータの陽イオン濃度

   A〜C;ボルボックスの成長が不良な水.

   D〜G;ボルボックスの成長が良好な水.

   A,Evian B,Laurentians C,Vittel

D,Volvick E,Spa F,Rokkou

G,Bernard

(6)水道水はどうか

 では、我々が日頃、飲料として用いている水道水の組成は、どのようなものだろうか。殺菌のため塩素が加えられているが、それ以外のイオン組成はどうなのであろうか。一部の陽イオンについて調べたところ、仙台市の水道水は、Spaに似ており、Evianとは異なる結果を示した(図5)。したがって、Mg+やCa2+で見るかぎり仙台地域の水も日本産ミネッルウォータに似た組成であった。(7)土の役割

過去の培養実験から、脱イオン水に土を入れた培養液で、最適なハイポネックス濃度は 0.1% であった(見上・阿部、1992)。しかし、土を入れない場合は増殖せず、2週間で完全に消失した。この土の効果は、鹿沼土や赤玉土、黒土にみられ、人口のビーナスライトや軽石には見られなかった。この土の働き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図5 Ca2+とMgの影響

   ミネラルウォータ(Rokkou)に何も加えない

   場合(Cont)、CaCl2 を5mg/l(5-Ca)、

   15mg/l(15-Ca)、MgClを5mg/l(5-Mg)、

   15mg/l(15-Mg)加えた場合についてボル  
   ボックスの増殖を調べた。

として、緩衝作用や必須微量元素の補給などが考え

られる。ナチュラルミネラルウォターには、二つの作用はわずかながらあると考えられるが、長期にわたって多くの細胞を維持するには十分ではないと思われる。ナチュラルミネラルウォータだけでも増殖がみられることは、渡辺(1997)によっても報告されている。土を入れておく場合には、土から物質が長期間補給され、緩衝作用も長期間効果的であることが考えられる。今回のナチュラルミネラルウォターによる培養ではボルボックスは約2週間増殖し、その後減少したことはすでに述べたとおりである。この時の個体密度は、約300個体/mlであった。ハイポネックスと入れたままの土を用いたこれまでの培養実験では、約8週間培養を持続でき、最高密度は1,100個体/mlを越えることもあった(見上・阿部、1992)。今回、土を含まず、土の抽出液を用いた実験では、約2週間で最高密度は80個体/mlに達し、その後減少傾向を示した。Volvoxの継続培養時間を延ばすためならば、ナチュラルミネラルウォータ中の栄養塩類の量を考慮すると、培養開始時に植える個体数を少なくすることが有効かもしれない。

(8)純粋な水と自然水

 水中の微小生物の中には、ゾウリムシのように水質環境変化に強い生物と、アメーバやボルボックスなどのように水質には敏感なものもいる。アメーバを新しいガラス容器に入れると溶液中に溶出したK+によって絶えてしまったという話もきく。自然の水は、蒸気となって登り、雲になり、空気中の物質を溶かして雨となって降ってくる。これらの水は地中に染み込み、地中を流れ、地中の物質を溶かして川となり、やがて海に注ぐ。生命は純水にいろいろな物質が溶けた水に依存して生活している。純水の中に生物は長くは生きていられない。ボルボックスにしても純水に移すと数日で死んで無くなる。例え環境変化に強いゾウリムシであっても純水の中には長くは生きられない。純水はきれいな水と呼べるが、生物によっては非常に過酷な環境水である。学校における水環境素材としては、ここで述べたナチュラルミネラルウォータ、活性炭などを用いたろ過装置を通した水、水道水、煮沸水道水など、いろいろな“きれいな水”がある。これらについて、アメーバやボルボックスなどの生存や増殖を調べるなど、環境教育教材として発展させることもできよう。

 学校の実験設備では、イオン組成を分析することは難しい。そこで、自然水の組成等、化学的な性質がどのようになっているのかを知るにはラベルに表示されたもので指導するしかない。表示は法にしたがっているので、もちろん信頼に値するわけであるが、表示されたものをすべて鵜呑みにしないよう、これらの表示が常に正しいかどうかに留意することは消費者教育の視点からも、環境教育の視点からも大切である。

 自然水については、軟水と硬水ということで学ぶ。地域のきれいな水は、大地を流れる過程で、さまざまな成分を溶かし込み、地域の地質環境を反映している。そして湧水や地下を流れる水は、化学的につくった純水とも、また雨水とも異なることも理解できよう。さらに、以上述べた素材を通して、人の飲料用として適した水であっても、生物にとっては適、不適があることを学であろう。ボルボックスが水質環境に敏感で、水質環境を知る上で有用な教材生物である一方、ミカヅキモやクンショウモ、ミドリムシなど、ボルボックスに比べれば水質に敏感でない生き物もおり、生物種は多様であること、なども学ぶことができる。

 

謝  辞

 本研究をまとめるにあたり、地質についての多くのご助言を戴いた宮城教育大学環境教育実践研究センター長青木守弘氏に感謝する。また、実験を補助をお願いした山田貴之氏にも感謝したい。本研究は、平成9〜10年度文部省科学研究費補助金課題番号09558005の補助を得ている。

 

引用文献

猪狩 嗣元 1993 ゾウリムシの簡単な新しい培養法生物教育 32, 267-270.

見上 一幸 1993 学校における生物および環境教育素材としての原生生物の確保 宮城教育大学理科教育研究施設年報 29, 53-57.

見上 一幸・阿部 倫子 1992 生命科学教育教材としての「水田の微小生物」(U)ボルボックスの簡単な培養法の検討 宮城教育大学理科教育研究施設年報 28, 15-23.

見上 一幸・黒川 浩也 1994 水中微小生物の簡易培養法の検討−ボルボックス培養への市販水の利用−宮城教育大学理科教育研究施設年報30: 49-54.

見上 一幸・小泉 貞明 1977 ゾウリムシの研究−その基礎と応用− 採集と飼育(教材生物ニュース)39(7)、331ー346.

見上 一幸・湯元真里子 1995 クンショウモの簡易培養と自然環境教育教材としての利用 −水環境を知るための環境教育素材(T)− 宮城教育大学理科教育研究施設年報,31: 31-39.

渡部  正 1995 ミネラルウォーターによるボルボックスの培養 全理セ 山形大会

渡部  正 1997 家庭でもできるボルボックス(Volvox globator)の培養法 生物教育37, 47.