中国におけるゴミ処理問題と環境教育

安孫子 啓 ・ 崔 夏陽 **

要旨:中国経済の急速な発展は、諸先進諸国と同様に環境汚染、環境破壊という深刻な問題を引き起こしている。特に、まだ表面化してはいないが、都市ゴミ、廃棄物処理問題は今後大きな問題になってくると予想される。これらの問題に対応するためには、国民の環境意識を高揚させなくてはならない。特に、早急に初等中等教育に環境教育が位置づけられる必要性がある。

 

キーワード:環境汚染、都市ゴミ、環境意識、環境教育

 

1.はじめに

 近年、中国経済の急速な発展は、諸先進諸国と同様に環境汚染、環境破壊という深刻な問題を引き起こしている。特にゴミ、廃棄物処理問題を中心に考えると中国社会に、生産−消費−廃棄から再び生産に向かう閉じた循環性を持つプロセスの構築が急務といえる。また、これらの問題に対応するために、初等中等教育に環境教育が位置づけられる必要性がある。

 本研究は、現在中国の都市部におけるゴミ、廃棄物処理問題について日本の現状と比較検討し、これからの中国の小中学校に位置付けられるべき環境教育の有り様を考察するものである。

 

2.中国におけるゴミ処理問題の現状

中国における都市住民の生活レベル向上とともに、都市ゴミ量は著しく増加してきている。公害問題などから産業廃棄物に関する法的整備が進められているが、都市ゴミ処理問題の対処については極めて遅れた状況にある。図1に、中国と日本のゴミ発生量を示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図1 中国と日本のゴミ発生量

*宮城教育大学教育学部生活系講座 **焦作工学院大学

この図から分かるように、1990〜1996年における中

国の年間ゴミ発生量は右上がりでほぼ一定増加となっている。これを増加率で示すと約10%になる。一方、日本のゴミ年間発生量は微増に押さえられている。今後、中国でのゴミ処理問題は今以上に大きな問題として表面化することが予想される。

 中国の都市ゴミによる被害状況は、以下のようにまとめられる。

  @埋め立て用地の拡大

  A農地土壌の汚染

  B水質汚染

  C大気汚染

  D環境衛生への影響

これらは全て、中国が経済の発展を最優先にする政策により生まれたものである。発展途上国である中国では、経済の発展と環境保護のバランスをうまく調整していかなければならない。そのためには、従来のゴミ収集方法と処理システムについての再検討が求められ、資源リサイクル型、物質循環型のシステムの確立が急がれている。中国における都市ゴミの回収は、一般に次の2つの段階を経る。

  1. 貯留→排出:発生源により一時保管し、定期的に
  2. 排出する。

  3. 収集→輸送→処理:排出されたゴミをさまざまな

形で収集、運搬し処理を行う。

中国と日本の具体な都市ゴミ排出方法をそれぞれ図2と図3に示した。

これらから分かるように、中国の都市ゴミを貯留するときはバケツを使用しているが、日本では、ポリ袋を使用している。

 

 

 

 

図2 中国のゴミ排出方法

図3 日本のゴミ排出方法

貯留したゴミの排出についてみると、中国の都市住宅にあっては古い住宅にほとんど重力ダストシュートはなく、貯留ゴミは住民が規定の時間に、臨時ゴミ収集場所へ搬送する。新基準の集合住宅には、階段の間に重力ダストシュートが設けられており、ゴミは住民が投入日からピットに投入し、その後環境清掃員によって定期的に収集される。このような排出方法をとっているので、排出されたゴミは、中国の場合ほとんどが混合ゴミとなってしまう。中国の生活ゴミは、これまで無機質主体であった。これは周恩来の時代に徹底された「旧廃物資」の政策からくるもので、ゴミの再利用、資源回収が比較的進められ、排出ゴミの中に再利用できる資源ゴミが少なく、混合排出でも問題は少ないとされていたのである。一方、日本の場合は、貯留時に可燃ゴミ、不燃ゴミ、粗大ゴミと3種類に分けられて排出される。分別排出の中で最も一般的なものは可燃物と不燃物の2分別であるが、粗大ゴミを不燃ゴミと別にしたり、紙、ビン、金属など資源化や再利用が可能なものを資源ゴミとして分別している。

 資源ゴミ回収についてみると、日本では主に町内会、子供会などの地域団体が実施する集団回収や、資源ゴミの分別収集がリサイクルに寄与している。しかし、都市ゴミ全体の実に7割までが焼却処理されており、高速堆肥化、堆肥化、飼料などの資源化、再利用は全体の0.1%にも満たない。また、自家肥料または飼料として利用される自家処理量を合わせても全体の3%に満たない。この数字からわかるように、日本の自治体等による都市ゴミのリサイクリングの回収量は非常に少ないのが現状である。中国においては、都市ゴミの性状は上にみたように日本のそれとは異なり、リサイクル関連技術もかなり遅れている。しかし、資源のリサイクルと資源節約への熱意は非常に高くマンパワーによる資源回収活動は経済状況を背景に国家政策として持続的に展開されている。しかし、旧廃物資の管理および流通に依然問題があること、例えば、市場管理の失調、価格の上昇、回収拠点の不足、古典的経営方式、加工技術および設備の不足、中間処理設備などが近代化されていないなどの問題がある

 次に、中国と日本の具体な都市ゴミ搬送等処理方法をそれぞれ図4と図5に示す。

 中国では都市ゴミは市当局によって収集系統を通して収集され、ゴミ中継場に搬送される。そして、一部は加工処理(破砕、圧縮)が行われ、資源が回収される。そして転送または運搬によって再利用されるか堆肥原料として使用され、原料にできないものを最終処分に転送する。すなわち埋立てを行うのが現状である。

 

 

図4 中国の都市ゴミ搬送等処理方法

 

図5 日本の都市ゴミ搬送等処理方法

 

 

図6 総合再利用プラント(スターダスト’80)

 

日本においては、都市ゴミは、可燃ゴミ、不燃ゴミ、粗大ゴミの3つに分別され、可燃ゴミは焼却処理、不燃ゴミ及び粗大ゴミは直接埋立処分が行われている。可燃ゴミの焼却により、熱エネルギーが回収されるとともにゴミの減量化が達成される。また、不燃ゴミや粗大ゴミ中の直接埋立処分対象物からの有価物回収が中間処理として実施されている。こうした処理を行う施設が、1973年から10年間にわたって通産省工業技術院が推進した、スターダスト’80とよばれる総合再利用プラントである。このシステムは半湿式選択破壊分別装置を使用して、混合ゴミを厨芥、ガラス、がれき類、紙類及びプラスチックと金属類の3グループに分離するもので、それぞれ高速堆肥化装置、精製パルプ化装置および熱分解ガス化装置による再資源化を図るシステムとなっている。しかし、このプラントの公開実証試験の結果は、技術的には成功したもののコスト的には焼却処理と競合できず、普及するまでに至らなかった。資源回収のための理念や技術があっても、経済システムとしての妥当性がなければ、このようなプラントは普及せず、結局、貴重な資源を焼却処分するのが実情となっている。

 一方、図4より、中国でのゴミ処理には焼却がないことが分かる。それは、すでに述べたように中国のゴミは可燃物の含量が少なく、焼却処理が不用だからである。しかし、中国の都市ゴミでは有機物含量が増大しており、これを有効に活用するコンポスト化処理は資源回収の面で重要な意味があり、日本とは対照的であるといえる。

 また、ゴミの中継場の設置の有無においても、中国と日本は大きく違っている。中国において、ゴミの中継場の設置が必要なのは、都市の大きさや構造にあると考えられる。臨時ゴミ貯存場から直接ゴミ処理センターに運ぶ場合、距離が遠い。また収集車は都市部に入るため一般的な小型車輛を使用しなければならず、小量のゴミを遠距離に輸送することとなり経済的ではない。また牽引車で収集したゴミは圧縮されていないこともあり、中継場を設置し、小型ゴミ車輌と牽引容器から収集したゴミをいったん中継場に集め、圧縮し、体積を小さくした後ゴミ処理センターヘ搬送する。こうして運搬費用を節約することで中継場が必要となるのである。また、一部で中継場において再利用できる資源(特に金属類)を選別し、一次回収も実施している。

1989年以降中国政府は、全国的に都市環境総合的整備検査制度を実施した。1990年以降の都市ゴミ処理状況を図7に示す。

 

 

図7 都市ゴミ処理状況

 

この図から分かるように、1990年のゴミ無害化処理率の2.3%に対して、1997年のゴミ無害化処理率は55.4%に増えている。中国政府の対応が、環境問題を重視する政策に変わってきたといえる。しかし、何も処理されないゴミもかなりの量、残っているのも事実である。

 中国政府は1997年3月8日に、「計画生育及び環境保護会議」という会議を開催した。江沢民国家主席も出席し、環境保護が中国の基本国策であることをアピールした。この会議の影響は大きく、中国全土で、環境問題に対する関心が高まったと言える。また、1997年に、「中華人民共和国刑法」の中に、「破壊環境及び資源保護罪」という罰則も追加され、環境保護に対する法の整備も一層強化された。さらに、中国環境状況公報の中に、初めて都市ゴミをひとつの項目として取り上げ、中国のゴミ処理の深刻さについて述べている。また、都市ゴミ解決の方策として、従来のゴミの収集と処理システムの再検討が求められ、資源リサイクル型、物質循環型のシステムの確立を強調している。中国の従来のゴミ処理はゴミの中に無機物が多かったことから大部分を埋立て処理してきた。しかし今後の中国の発展を展望する時、マンパワーによる有価物回収の機能が低下することも考えられるので、ゴミを分けて資源化するリサイクル行政への転換を図らなければならないと思われる。

また、将来循環性社会を作り出すためにゴミの混合収集を日本のような分別収集に変える必要がある。具体的には、分別収集を徹底させ、生活ゴミに多く含まれる練炭灰を分別回収し、建築資材として再利用することでゴミの発生を抑制することなども一案といえる。なお、収集の頻度とゴミ専用収集車などを増やすこと、再利用できない物質のみを衛生埋立てする最終処分システムを作り上げることなどが重要である。

 将来的にはゴミ中の無機物含有量の減少、有機物の増加が予想されることから、有機成分のC、Nの含有率の変化の調整によって堆肥の技術を向上させ、堆肥による資源化の割合を向上することが考えられる。しかし、一部は埋立ての体積を減少することを目的に、焼却処理することも考えられる。さらに、ゴミ減量化の実現には、都市エネルギー源のガス利用率を向上させ、野菜、厨芥などの生ゴミ処理技術については日本の技術を参考にし、各家庭での排出生ゴミのコンポスト化処理なども考慮することが必要となろう。特に日本のように高価な生ゴミ処理装置を一般家庭に普及させることは困難だが、集合住宅に設置されているダストシュートごとに補助金制度を設けて設置していく方向は有効と考える。

 

3.中国の環境教育の現状

小学校における環境教育

中国の小学校段階での環境教育は、主として「自然」の中で行われている。「自然」第3冊(3年次用)の中に、「水、土、植物、人」の章があり、水、土、植物は人類の生存にとって重要な自然条件であることを子どもたちに認識させている。「自然」第4冊では、「空気の汚染と保護」の章が設けられている。特に都会での暮らしにおいて、汚染された空気が人体にどのような影響を与えるのか、子どもたちの体験を基に考えさせている。また、「自然」第5冊の「保護大自然」の章では、さらに実例をあげ、森林、草原、河川、海洋が汚染された場合の人体への影響を説明し、自然保護の重要性を認識させている。人口の80%が農業に従事している中国では、特に自然保護の意識を高めることは重要であると考えられる。「自然」第3冊には、土壌水分の保持や地力の保全などが掲載されているが、特に農村地域の小学生を意識して書かれている。また、「自然」第5冊にも、森林や植物の乱伐についてや、野生動物の大量捕獲の問題などが掲載されている。農村地域の一部の人が、初等教育しか受けられないという現実を考えると、小学校において環境保護の教育をしっかり行うことは中国にとっては、極めて重要である。

中学校における環境教育

 中国の中学校では、環境教育に関する教科として「地理」、「生理衛生」などの科目が開設されている。「地理」は、世界地理(1、2冊)と中国地理(3、4冊)で構成され、両方で環境教育が扱われている。「地理」第1冊では、「世界の自然資源」の章が設けられ、「地理」第3冊の中では、「中国の自然資源」の章が設けられている。水資源、土地資源、エネルギー資源などの内容が含まれ、そこでは、人と自然の関係、自然の合理的利用法について扱われている。「地理」第3冊の「中国の川と湖」の章では、具体的に「黄河」を例にあげて、中国成立後の「黄河整治、黄河開発」により、水害が激減し、水源の総合利用が可能になったとしている。特に1997年10月に完成した河南省の「小浪底水利工程」で、黄河の防洪能力が飛躍的に高まり、さらにこれからも、植樹などの環境保全措置を含めた黄河流域の開発利用を進めていく必要性を強調している。

「生理衛生」の中では、人口問題及び人口抑制と環境の関係について論じられている。

 

4.中国の環境教育が直面している課題

環境教育の主眼は、人間を取り巻く環境の正確な認識に立った、他の生態系を含んだ自然環境と人間との共生にある。そして、限りある資源を有効・適切に活用し地球上で人間がこれからも生存して行くために何ができるのか、何をしなければならないのかを次世代の子供たちに伝えていくことである。とすれば、中国の小中学校における環境教育は、アンバランスなものと言える。特に、都市ゴミなどによる廃棄物汚染については、全くといっていいほど扱われていない。少なくとも、循環型社会の概念やリサイクル活動の意義(素材、材料の循環性)などを義務教育の中に取り入れる必要性を感じる。

1992年1月17日の「人民日報」によると、中国逮寧省本渓市に、在校生1400人の中国初めての環境教育実験小学校が創立された。また、1997年より、中国の南昌市では、中学校に「環境保護」という教科を新設し環境教育を積極的に実践している。このような、先進的なところも出てきたが、中国従来の水資源、土地資源、エネルギー資源などの内容だけでない、環境教育のあり方について再検討する必要があると思われる。 

 現在、中国では、経済建設発展に資する人材育成を最重要課題として教育に求めている。1992年より中学校の教育課程に、日本の「技術・家庭科」に相当する「労働技術課」という教科が新設された。中国の「労働技術課」を日本の「技術・家庭科」と比較すると、「家庭生活」、「情報基礎」、「保育」などの内容が含まれていない。しかし、今後中国の持続的な発展を考えると、従来からの環境教育の枠組を改善し、既存の教科だけでなく「労働技術課」の中に、新しい内容として「家庭生活」のような領域を設け、積極的に環境教育を推し進めるべきである。主に都市環境の汚染や破壊による被害の状況が、私たちの生活に悪影響を与えていることを正しく子どもたちに認識させ、また、このような問題を解決する技術を習得させることが大切である。

 

5.おわりに

@中国は発展途上国であるが、経済の急速な発展とともに、大量の都市ゴミが発生し、この発生量は年々増大する傾向にある。そのため、従来のゴミ収集と処理システムの再検討が求められ、資源リサイクル型、物質循環型のシステムの確立が急務となっている。

A中国の人々は、生存環境に対する保護意識が非常に薄い。これは中国学校教育の中に環境教育が重視されてこなかったからである。従来の環境教育に対する見方を考え直す必要がある。生活環境の汚染や環境破壊を引き起こしている状況が、我々の日常生活と深く関わっていることを理解させ、このような問題に対処する技術を実践的・体験的に学習し、習得させることが大切と考える。

B中国は今後、国の環境教育に力を入れ、特に中等教育における「労働技術課」の中に、都市公害に対処できる新しい領域を設けていく必要がある。また、都市の諸施設の改善と住民の環境意識を高揚させ、広範囲の民衆に日常的な愛国衛生運動をおこし、住民に清潔、健全な都市環境の自覚と積極性を高めることが不可欠である。

 

参考文献

 

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