前頁へ 目次へ 次頁へ
研究報告

都市河川を対象とした環境教育教材の開発(I)

伊沢紘生*渡辺孝男**安江正治*見上一幸*國井恵子***村松隆*
川村寿郎****西城潔****斉藤千映美*

Abstract: The first step of environmental education is to let children learn from their own field experience or facts about nature, so that they will be able to relate any matters in the surrounding nature and local community to their own lives. We conducted a basic study objecting Hirosegawa and Natorigawa rivers, which are urban rivers close to a large number of children. In addition to the field study of water quality, ion composition, river sand, microorganizm, riverside fauna and flora, human utilization of the river, and so on, we collected references related to those aspects. Using the result of the study, we aimed to develop programs of environmental education, by developing teaching materials and examining the applicability of the education through the internet.

Key Words: urban river, Hirosegawa and Natorigawa rivers, school education, environmental education, teaching material development

 

1.研究の目的

 今日環境教育の必要性が強く叫ばれていながら、学校教育に必要な教材開発の研究は非常に遅れているのが現状だろう。
 環境教育の基本は、各自の自然体験や学習体験に立脚しながら、身近な自然や地域社会のことがらを自分自身の問題として意識し、取り組むことである。このような自己体験型環境教育に適した教材は、学校教育現場の教師や児童・生徒が積極的に参加できる形で開発されることが望ましい。
 仙台市内には,規模を異にする小学校・中学校・高等学校が多数存在するが、そこでの環境教育は、専門家の作成した紋切り型の教科書や副読本に沿って行われている場合がほとんどである。ところで、仙台は大都市でありながら、広瀬川と名取川が市街地を流れ、しかも両流域の自然、とくに、自然の生態系の複雑さを今も保持し日本人の心や文化を歴史的に育んできた「水辺」と「里山」が、これまで行政を含む多方面の尽力でかなりの程度保全されている。ただ、もう一方で、両河川が水質汚染やゴミや排水など現代的環境問題を少なからず抱えていることも切実な現実である。
 本研究は、両河川に関する過去の厖大な個別的調査研究の資料を整理し、両流域の自然と文化を、「水辺」と「里山」に注目しながら、流域の小・中・高校の教師と児童・生徒参加型の環境教育教材として開発しようとするものである。そのためコンピュータを使ったリアルタイム学習のネットワークやプログラム作りも視野に入れている。
 ところで、環境教育実践研究センターでは、その発足当時から、地域を生かしたいくつかのプロジェクト研究をスタートさせているが、本研究はそのひとつ、「仙台市内・広瀬川および名取川流域でのSNC構想の実践」の一環として計画され、実施に移されたものである。研究を進めるにあたっては、財団法人・河川情報センターから、平成10年度河川情報センター研究開発助成の助成金を受けた。本報告は上記財団へ提出した平成10年度研究報告に依拠している。

 

2.研究の方法および対象地域

(1)研究の方法

 本研究は大きくわけて二つの方法で実施した。その一つは、両河川およびその流域について、学校教育における環境教育の教材ということを視野に入れた自然科学的、人文社会学的基礎研究を具体的事象に焦点を絞って実施することと、それらに関連する過去の厖大な調査資料の徹底した収集と整理である。このような地道な調査と収集努力を通してしか、実際的であり、かつ真に意味のある教材の開発はとうてい望めないからである。そのために、水質、地質、植生、水生動物、哺乳動物、社会資源等、それぞれの専門分野からの詳細な研究と資料の収集を実施した。
 もう一つは、コンピュータを使い、上記研究成果を、画像データも組み入れたホームページとして公開可能な段階までもっていき、流域にあるすべての学校とのネットワークを通して、環境教育教材のデータベース自動生成プログラム群を開発することである。
 これら二つの方法の当面の「接着剤」として、すべての学校を対象に環境教育の現状に関するアンケート調査も実施した。

(2)調査対象地域の概要

 広瀬川と名取川は、宮城・山形県境の海抜千数百m以上の奥羽背梁山脈に源を発する。両河川は東に向かって流下、海抜300〜400m以下の丘陵地に河岸段丘を形成し、広大な沖積平野を横切り、仙台市街地を通った先で合流して太平洋に注ぐ。広瀬川は流路長40km、流域面積約310km2、名取川は流路長約42km、流域面積約940km2をそれぞれ有する河川である(図1)。
 両河川を有する仙台市は、年間平均気温11.9度、平均降水量1204mm(仙台管区気象台資料)、冷温帯から暖温帯への移行地帯にあり、太平洋岸的気候を示す。流域の植生は、舟形山の山頂付近のハイマツ群落から、亜高山性落葉広葉低木林、上・中流域のブナ林を代表とする落葉広葉樹林、中・下流域の常緑広葉樹林と多様である。流れに沿っても多様な植物群が発達している1)。大都市の中心部を流れる下流部と比べ、両河川とも上流部はきわめて自然度が高い。
 以上のように、両河川は変化に富んだ自然環境や水辺空間を形成している。同時に、水道原水、農業用水、工業用水、発電用水、水産業などに広く利用され、流域住民の生活と密接な関わりを持っている2)。したがって両河川とそれらの流域の自然と文化を環境教育の教材として理解していくことの意味は非常に大きいといえる。

図1 広瀬川および名取川流域の概略図

 

3.広瀬川流域の学校での環境教育の現状

(1)はじめに

 両河川のうち今回は、広瀬川に焦点を絞り、その流域内の小・中・高等学校で広瀬川を対象に行われている環境教育の現状を調べた。

(2)方法

 1998年12月、広瀬川流域内の小学校59校、中学校32校、高等学校27校、計118校に対し、アンケート調査を実施し、結果を分析した。質問項目は主に、(1)広瀬川をフィールドや教材とする環境教育を行っているか、(2)その内容は何か、(3)どのような科目(区分)で実施しているか、(4)今後広瀬川を対象に環境教育を実施したいと思うか、の4つである。
 このアンケートに対して、小学校41校、中学校18校、高等学校21校からのべ352回答を得た。同一学校からの複数回答は、異なる学年、異なるクラブなどを単位として寄せられたものである。

(3)アンケート調査の結果
a)広瀬川に関する環境教育実施の有無
   全体のうち40%が現在または過去、広瀬川で環境教育を実施していた(表1)。高等学校における実施率が49%と最高で、中学校が14%と最も低かった。
b)題材
   環境教育の内容・題材は多岐(図2)にわたっていた。
題材には小学校と中・高校で顕著な違いが見られ、「石の観察」「植物観察」「動物の観察」「川の流れ観察」「川遊び」は小学校で、「化石・地層・地質の観察」「水質調査」は中・高校でよく行われていた。
c)実施の科目(区分)
   これらの活動が、小学校では「理科」(43%)「生活科」(23%)「総合学習」(13%)でよく行われていた。中学校では「理科」(64%)、高等学校では「クラブ・部活動」(37%)が最も多かった。
d)今後の環境教育
   全体の84%が、今後広瀬川を対象に環境教育を「ぜひ行いたい」または「できれば行いたい」と回答した。内訳は小学校の89%、中学校の79%、高等学校の80%で、いずれも高い割合であったが、とくに小学校でその希望が強いことがわかった。
e)考察
   広瀬川に関する環境教育を実施している学校の多くが、理科系科目で観察と実験を行っている。また「川遊び」「遠足」のような自然に親しむ活動は小学校で行われ、「水質測定」「ゴミ調べ」のような直接環境問題を取り扱う活動は中学校以上でよく行われる傾向があった。今後の活動を希望する学校は全体の84%であり、流域の学校では広瀬川に対する関心が高い。活動の希望に比して、現在の実施率が9%と低いのはなぜか。アンケートに添えられたコメントには、「広瀬川にどのような動植物がいるのかよくわからない」「どの場所でどんな活動ができるのか知りたい」といった、基礎資料の充実を求めるものが多かった。広瀬川という自然教材を教師の側が知るための基礎資料、それを生かした環境教育を行うためのプランが現場で不足していることが推測される。また、「(安全面などへの不安から)学校から5分以上離れたところへ行くのが難しい」など、学校教育における野外活動が認められにくい状況にあることを感じさせる結果となった。以上のことから、本研究が行おうとしている教材の開発や、実施地点の選定、及びインターネットを使った基礎資料の提供やリアルタイムでの現地情報の提供などが、今後の学校教育の中で重要性を持つものと確信できる。

表1 広瀬川に関する環境教育実施の有無

4.河川中の指標の探索と水質

図3 流域変化に伴うイオン濃度変化
(1)はじめに

 河川の環境教育への利用について、河川水は環境の現状を把握するのに指標となりうる種々の物質を含むと考えられる。そこで、環境保全を目的とした環境教育の立場から、仙台市周辺にある代表的な河川である広瀬川、名取川、及び七北田川の河川水について、環境指標となるイオン成分の探索と各河川の水質の特徴を検討した。

(2)イオン分析

 広瀬川、名取川、及び七北田川より河川水を採取し、イオンクロマトグラフィーにより含有イオン成分の定量を試みた。測定したイオン種は、Li+、Na+、K+、 Mg2+、 Ca2+、及びNH4+の6種類の陽イオンと、F-、Cl、NO2、Br、NO3、PO43−、及びSO42−の7種類の陰イオンである。また、各河川の上流域、中流域、及び下流域より採水し、河川によって運ばれる溶解性物質の組成変化も調べた。

(3)河川水中のイオン成分

 いずれの河川水も流域にかかわらず、Na+、Ca2+、Mg+、K+の陽イオンと、Cl、SO42−、NO3の陰イオンの存在が確かめられた。図3a、bは、それぞれの河川の上流域と中流域、及び下流域における主要な陽イオン濃度と陰イオン濃度の変化を示したものである。図1から、河川に共通して、河川水が上流から下流に移るにつれてNa+とCa+の濃度が著しく増加することが分かる。また、Cl-とSO42-の濃度も、Na+とCa2+の濃度増加に対応して増加していくことがわかる。これらのイオン成分の顕著な濃度変化は、主に、大気を通じた海塩の循環(Na+)と鉱物の溶解(Na+、Ca2+)に由来したものと理解される。特に、SO42-については、人為的起源による溶解も無視できない。

(4)指標としてのNa+、Ca2+、Cl-、SO42-

 以上に述べたような河川水中のイオン種の起源を考えたとき、広瀬川、名取川、及び七北田川に含まれる主要イオンであるNa+、Ca2+、Cl-、SO42-は、河川水中の鉱物の種類や量、及び、河川をとりまく大気環境と気象状況に大きく影響を受ける。このことは、これらイオン種が、河川がおかれた地質学的な環境と山間部、市街部、及び海浜部における河川周囲の環境を理解する上で、有用な指標となることを意味している。

(5)考察

 イオンクロマトグラフィーにより、広瀬川、名取川、及び七北田川の河川水に含まれるイオン成分の定量を試み、河川水の特徴を検討した。いずれの河川も、含有する主要なイオンは、Na+、Ca2+、Cl-、SO42-の4種類で、いずれも、河川のおかれた環境に敏感に感応した濃度変化を示すことが明らかとなった。このことは、これら4種のイオン成分が,河川の特質を理解するのに重要な化学種となるばかりでなく、河川を取り巻く周囲の環境を把握するのに適した指標となることを意味している。今後、河川水質の時期的変化を詳細に調べ、さらに、採水箇所を増やし、指標と環境実態との関係を詳しく検討し、仙台市周辺の河川をフィールドとした環境の実態把握と保全に向けた環境教育教材の開発をして行きたいと考えている。


 

5.広瀬川上流域における水中微量元素濃度調査

(1)はじめに

 仙台市は都市化が進行し、生活圏の郊外への拡大による自然環境への悪影響が予測される。仙台市による昭和37年からの広瀬川水質調査報告では水質が良好に推移されているとしているが、その観察は中・下流域を主としたもので、上流域については非常に少ない。2)〜9)
 本研究は水の循環ないし物質循環の視点から微量元素に注目し、これまで検討されることの少なかった広瀬川上流域を対象に環境中微量元素の季節、流域別変動を調査する。そして、各微量元素の動態から環境汚染モニタリング指標としての有用性を検討し、環境教育に具体的教材を提供することを目的とする。

(2)方法

 調査採水地点は広瀬川源流に近い地点を起点にその下流約15.5kmまでの上流域の4地点である。採水第1と第2点の途中には仙台市郊外の有名な温泉、作並温泉があり、第2と第3点の間にはウィスキー工場がある。採水調査は降雪・積雪前の12月と積雪後の1月の2回実施した。1月には同地点の積雪を採取し融雪水も測定した。pHと水温は現場で測定した。微量元素の測定は検体を湿式灰化したもので行った。測定元素はAs、Ba、Be、Ca、Co、Cr、Cs、Cu、Fe、Ga、K、Li、Mg、Mn、Mo、Na、Pb、Rb、Se、Si、Sr、V、Znでマイクロ波プラズマ質量元素分析装置等で内部標準添加・検量線法により定量した。

(3)結果と考察
a)上流域の水中元素濃度レベル
   2時期、4採水地点別の水および雪(融雪水)中のAs、Ba、Be、Co、Cr、Cs、Cu、Fe、Ga、Li、Mn、Mo、Pb、Rb、Se、Sr、V、Znの濃度レベルはppb〜pptで、水・雪ともに最高濃度の元素はFeで他の元素の10〜30倍値である。次がSrとTiでほぼ同レベルである。1桁台の元素では高値順にZn、Mn、Ba、Cu、Li、Asで、他はpptレベルである。測定装置の検出下限は元素により異なるが、Seは定量下限以下の含有量である。ppmレベル含有のCa、Mg、Si、K、Naのうち、Na、Si、Caはほぼ数ppm濃度の同レベルであり、Mg、Kが2〜0.5ppmである。
 水質汚濁に係る項目で人の健康の保護に関係するCd、Pb、Cr、As、Hg等は基準値が設定されているが、本調査のPb、Cr、As値はいずれもその10分の1以下、Cdは検出限界以下である。
b)流域地点間の元素濃度の変動
   表流水中の元素濃度は流下とともに沈殿や水生生物の捕集による減少、逆に途中の支流や周辺環境からの流入による増加等による変動がある。上流から下流の地点での各元素濃度の変動を最上流の第1地点濃度を1とした時の各地点の相対濃度で見ると、As、Li、Mn、Sr、Cu等は12月および1月とも流下と共に上昇する。とくにAsとLiは第2地点での増高が顕著で、その上流2km程に所在する温泉からの流入の影響が考えられる。Pb、Si、Na、Mg等は流下と共に順次低下し、水中の動態が他の元素と相違することが推測される。
c)時期別の元素濃度の変動
   12月と1月の地点別元素濃度の比較では、1月は多くの元素は上流地点ほど高値となっている。積雪および低温凍結にる流水量の減少等の影響も考えられるが、1月のpH値が12月に比してかなり低下していることの影響も推測される。
d)雪と表流水中元素濃度の関係
   各元素について融雪水溶液(雪)中濃度に対する表流水中濃度比で見るとPbの比が最小でFe、V、Co、Ga、Mn、Cr、Zn、Cu、Csの順でほぼ各地点とも1より小さい。Tiはいずれの地点でも1よりかなり大きい。雪中濃度が増大している元素は大気中の元素濃度を反映していることによると推測される。かつこのような結果は微量の大気中元素濃度変動(ないし汚染)を鋭敏に示唆するものと考えられる。今後、それらの元素の大気中濃度の調査を含め、環境汚染モニタリング指標としての有効性をさらに検討していく予定である。

 

6.自然環境教材としての川砂の検討

(1)はじめに

 川における自然環境教育を推進するにあたって、まず川について正しく知ることが基本であろう。川には本来、水の循環、物質の移動、流域の生態系などの主要な機能があるが、これらをバランスよく教えてゆくことが必要である。川の動態と物質移動を調べる内容として、河床堆積物の観察や計測は、これまでの学校教育の授業実践例の中にもよくみられる。しかし、それらは河床礫を対象とすることが多く、全流域にわたる普遍的な堆積物である川砂については、観察や計測が難しいこともあって、採り上げられることはきわめて少なかった。そこで、ここでは、小中学校における自然環境教育授業での素材として川砂を導入してゆくことを前提として、授業の中での調査や分析手法の開発、流域の川砂の特徴の把握とその成因の究明、およびそれらをもとにした授業の展開や実施方法の設定について行うことを目的として検討を進めた。

(2)方法

 教材の開発に先だって、実際の川砂粒子の鉱物・岩石片の構成を把握するために、現地で堆砂状況を確認しながら試料採集を行った。採取した試料は、広瀬川の最上流・上流・中流・下流の各流域の計43地点の河床堆積物中の川砂であり、その多くが1998年初秋の洪水時に運搬・堆積したものである。また、1986〜1989年に広瀬川・名取川・七北田川の各中流域の12地点から採取された既存試料も比較検討した。加工技術を改良しながら、樹脂で封入した川砂の薄片を作成し、それを顕微鏡下で鉱物種・岩石片種を判別して計数した。データ整理の後、流域ごとの川砂の鉱物組成を比較するとともに、各流域に分布する地質との対応を調べた。また、同じ内容で行った大学の学生実験の実践例について、手法、成果、問題点などについて検証した。これらを基にして、流域の小中学校において、今後、特に自然環境教育の教材として導入するにあたっての目的、調査手法、授業方法について検討した。

(3)結果と考察

 検討した川砂は、河川の各流域でそれぞれ特徴ある鉱物組成や岩石種構成を示すことが明らかとなった。すなわち、広瀬川では、最上流域で酸性または中性火山岩類の岩石片、上流域では中性または塩基性火山岩類や泥岩の岩石片、中流域では酸性または塩基性火山岩類の岩石片と石英、下流域では石英と変質した堆積岩類または酸性火山岩類の岩石片がそれぞれ粒子として卓越する。また、名取川中流域では火山岩類の岩石片が圧倒的に多く、七北田川中流域では石英と堆積岩類が卓越する。これらの特徴と各流域に分布する地質とを比較すると、川砂の鉱物組成が明らかに流域の地質構成を強く反映していることがわかった。これは特に最上流〜中流域で明瞭であり、これらの流域では洪水による長距離の運搬作用よりはむしろ基盤地質の侵食作用が進行して川砂が増産されていることを暗示する。一方、中流域の一部や下流域では、供給源の地質に加えて風化作用による淘汰が川砂の鉱物組成に現れている。
 大学の学生実験として行った川砂の鉱物組成の分析は、試料の採取や加工方法、時間配分、学生の砂粒の判別などにおいて実施上の問題がいくつかあった。しかし、得られたデータと流域の地質との対応や風化作用などには、各学生がレポートとして十分に考察をおこなっており、川の機能を理解する上で一定の成果があったとみることができる。
 仙台市内の流域の小中学校において、自然環境教育の中で川砂を取りあげることは、川の侵食による生産および運搬・沈積などを全体として理解する上で特に有効であろう。川砂の鉱物組成を調査するには、現地でできる限り簡便な手法で調べることが必要である。特に、砂の粒度と量を調整し、鉱物を判別する点で工夫が求められる。合わせて、大学などからの学習支援として、実際に分析した結果の資料とともに、砂粒の薄片の顕微鏡写真画像などをインターネットを通じて提供することが考えられる。この点は現在整備を進めている。

 

7.広瀬川・名取川流域の哺乳類相と教材化への検討

(1)はじめに

 仙台の市街地域の中央部を流れて太平洋に注ぐ広瀬川と名取川だが、背梁山脈の東斜面に端を発する両河川の源流域は、落葉広葉樹林が広域をおおい、そこには多くの野生動物が生息する。だが、それらを子供たちが、とくに学校教育の学外授業として観察する機会はない。アプローチが遠く、地形が急峻で、出会える保証も全くないからである。
 一方、環境教育の中での自然観察は、年齢が低ければ低いほど重要であることは言を待たない。真の野生に接した時の心震える感動の積み重ねこそ、彼らが将来さまざまな環境問題へ立ち向かう最大の動機たりうるからである。その意味で哺乳類は最もすぐれた教材といえる。
 本調査の目的は相矛盾するこれら二点を融合させ学校教育に生かす方策をさぐることにある。

(2)方法

 調査は以下の手順に従って実施した。(1)両水系でより豊かな自然が保護されていると考えられる法規制地域(国や県や市)のリストアップとマッピングと、過去の生態調査資料の収集、(2)全地域の生態学的考察、(3)小・中・高校のリストアップとマッピングと、環境教育の実際(3章参照)、(4)各学校からアプローチ可能な地域(歩きやすさ、安全性、観察の確実性等)の選定、(5)選定された地域での哺乳相の調査である。このうち(1)〜(4)は、諸情報のコンピュータへの入力も完了し、すでに学校へ発信できる状態になっている。(5)については、昨秋から今春を中心に大量の調査員を動員してデータ収集に努めた。

(3)結果と考察

 ここでは、(5)の方法による調査結果をまとめる。
a)両水系の源流域と上・中流域の動物相の比較
   両水系の源流域について、動物相の調査がこれまで数多くなされている。筆者も哺乳類や鳥類について20年近いフィールド調査の集積がある。しかし、子供たちへの自然観察会を春から秋に、宮城のサル調査会と共同して何回も実施したが、木々が茂り野生動物を直接観察できたことはけっして多くない。本調査では積雪期(晩秋から早春)に源流部の足跡調査を繰り返し実施したが、その期間はどの動物も個体数が上・中流域に比べ少ないことが判明した。
 上流域の調査では、川辺と尾根との比較も試みた。その結果、カモシカとウサギは両方で大差なかったが、キツネ、テン、サル、イタチ、リス、ネズミ類、タヌキ、ハクビシンの足跡は上流域の川辺でしか観察されなかった。それらすべての足跡は中流域でも確認された。このことから、多くの動物が春から秋にかけては源流部の「奥山」で生活し、積雪期にはより下流の「里山」や「里」に下りることが明らかになった。したがって、晩秋から早春にかけて自然教育を実施する有効性が結論づけられる。
b)動物種ごとの調査結果
   上記哺乳類のうち、昼行性で群れで生活する種はサルのみである。この2つの特性が自然教育にきわめて有利なことは金華山での自然教育で実証済みである10),11)。そこで、サルの群れの数、頭数、積雪期の遊動域を調査した。その結果、9群の生息と群れごとの頭数、利用地域、人への馴れ具合等の詳細が明らかになり、子供たちをサルに簡単に出会わせる目途も立ったので、サルの直接観察を中心とした教育プログラムを作成中である。
 サル以外の哺乳類は基本的に単独行動者で、主に日中に活動するカモシカは冬期に子供が観察可能な11個体を追跡調査をした。リスの観察地点は13箇所選定した。主に夜行性の動物は、足跡調査のほか、夜間に林道を車で走り、直接観察の可能性をさぐったが、この手法による夜間調査(計12回)で、ハクビシン7頭、キツネ3頭、タヌキ5頭、テン3頭、ウサギ11頭、イタチ2頭を目撃できた。すなわち、意外と出会えることが明らかになったので、強力なライトを使用した観察方法を目下検討中である。
 生態系としての水辺の持つ重要さが、とくに都市河川で指摘されているが、以上の調査結果から、インターネットを使った事前学習と、野生動物の直接観察を通して、子供たちが川の持つ意味を深く考える道が確実に開けていくものと確信できる。

 

8.広瀬川中上流域における明治末期以降の土地利用の変遷と水文地形環境の変化

(1)はじめに

 過去数十年間、わが国では経済成長や産業構造の変化に伴い、土地利用形態が劇的に変化してきた。こうした土地利用形態の変化は、さまざまな水文学的プロセスを通じて、河川への水および土砂の供給形態、流域内での生物活動等に大きな影響を与えてきたと考えられる。したがって、河川を中心に地域の自然環境や人間生活の特徴を理解し、その結果を環境教育分野に展開しようとする場合、流域内の土地利用形態の特徴やその経年的変化に関するデータを整備しておくことは、不可欠な作業の一つといえよう。

 本章では、広瀬川中上流域を例として、明治末期以降の土地利用形態とその経年的変化の概要を復元した結果について述べる。またその結果から、土地利用変化が広瀬川の水文地形環境に与えてきた影響について、予察的に検討した。

(2)方法

 用いた資料は、明治末期以降に発行された5万分の1地形図で、明治43(1910)年頃、昭和21(1946)年頃、平成4(1992)年頃の三つの時期のものを対象と した。地形図の図式記号をもとに各年次の土地利用図を作成し、その結果から各時代における土地利用形態とその経年的変化の概要を明らかにした。

(3)結果と考察

 広瀬川中上流域における、明治43年頃および昭和21年頃の土地利用は、ほとんどが森林であり、特に広葉樹林の占める面積が圧倒的である。森林、特に広葉樹からなる自然林には、水を貯留して洪水を軽減したり、侵食を防止したりする働きがあると考えられている。こうした点を考慮すると、この二つの時期には、流域内の大部分では、かなりの降水がみられた直後でも、河川へ水が集中的に流出したり、表面侵食や崩壊などの土砂移動が頻発したりという現象は、発生しにくかったと推測される。
 ただしこれらの時期においても、流域内の一部には、樹木を伴わない「荒地」が存在していた。こうした場所では、上記のような森林の機能が働かないため、表面流出や表面侵食が発生していた可能性はある。それらが広瀬川全体の水文地形環境に及ぼしていた影響の程度については、「荒地」の具体的な植生景観を何らかの方法で復元した上で評価する必要があろう。樹木を伴わなくとも、草本植生が密に地表面を覆う状態であったとすれば、その程度は小さかったと考えられる。しかし草本すらみられないハゲ山的景観であったとするなら、面積的には狭い範囲であっても、河川への流出や土砂供給に対してかなりの影響があった可能性も高い。この点は、今後の検討課題としたい。
 現在(平成4年頃)の土地利用形態は、明治43年頃、昭和21年頃と比べて、大きく変化している。特に針葉樹林・畑・居住地の拡大が顕著であり、逆に広葉樹林が大幅に減少している。畑は土が剥出しになった景観であり、地表面はきわめて侵食を受け易い状態に置かれている。また居住地では地表面はアスファルトで覆われていることが多く、降水は地中に浸透することなく短時間のうちに直接河川に流れ込み、流量増加を招く。針葉樹林の場合には、森林である以上、多少とも保水や侵食防止の機能を有していると考えられる。しかし戦後急速に拡大した針葉樹林は、ほとんどが拡大造林によって作られたスギ・カラマツなどの人工林である。こうした森林の場合、自然林に比べてそうした機能は必ずしも高くない。したがって、終戦直後から現在にかけてみられた、いずれの土地利用変化も、河川への流出や土砂供給を増大させる方向に作用したと考えられる。広瀬川では、1980年代頃よりたびたび水の濁りが認められてきた。また濁りの原因として、上流域でのブナ林伐採・搬出が関係しているとの見解がしばしば出されている。本章で展開した推論は、こうした指摘からも裏付けられよう。
 また、本調査で使用したような地形図を簡略化した形でコンピューター画像処理し、インターネットにつなぐことで、学校の子供たちが日常的に目にする現在の広瀬川とその過去とを生き生きと学習することが可能になるはずである。

 

9.微小生物を観察するための補助教材開発

(1)はじめに

 川の浄化作用を考えるには、一般的に行われているプランクトンネットによる調査だけでは不十分で、ネットを通過してしまうようなより小さな微小生物の観察が重要である。しかし、そのために学校で使える水中微小生物検索のための適当な資料がない。そこで、すでに水田の微小生物を観察するために作成されたCD-ROM「微小生物図鑑」を、川の微小生物にも活用できるようにするため、広瀬川で採集された微小生物の画像および映像を加えて、新たなものを作成した。

(2)方法

 本調査では、(1)河川を中心とした「水の中の小型生物」の画像および映像のファイルを作成し、開発ソフト「グリーン」Green1.042を用いて、データベース化する。(2)広瀬川および名取川流域の中から、水中の小型生物に関心を持つ学校の協力を得て、観察された小型生物のサイバー図鑑への登録を行うなど、学校間の連携が図れるシステムの開発を試みた。

(3)結果と考察
a)CD-ROM「微小生物図鑑」設計の基本的な考え方と構成
 このCD-ROMには、河川および水田の50種を超える水中の微小生物種について、動画を含むマルチメディア型画像ファイルを収め、データベース化した。第1画面(メイン)には、「水中微小生物図鑑」、「代表的な微小生物」、「微小生物の飼育」、「簡単な観察・実験」、「顕微鏡の使い方」、の5項目の選択画面を入れた。
 「水中微小生物図鑑」は、マウスでパソコンの画面上の絵を選択すると、生徒たちが野外から採った水を検鏡したときに見つけるであろう代表的な50種の生物の画像が現われる。これらの中から、形や色などから自分の観察しているものに最も近いと思う種の写真をマウスで選択する。すると、その仲間の写真が数枚載った次の画面が表示される。ここには、図鑑画面の50種の生物の内、同じグループに属する生物種がまとめられている。例えば、ツリガネムシの項目をマウスで選択すると、「ゾウリムシとその仲間」ということで、図鑑画面の生物の中の繊毛虫だけが集められたグループ画面が現われる。ここで生徒は図鑑画面の中のどれがゾウリムシの仲間であるかを知る。このグループ画面の中からさらに近いと思われる種の画像をマウスで選択すると、ここではじめてどういう生きものかの説明が現われる。説明画面での生物の動きは検索上で重要であるとともに、遊泳行動や捕食行動などは、水中の生命の姿を知る上で生徒の学習意欲を高める動機づけにもなる。これは従来型の書籍教材にはない利点である。
b)教材の不足を補完するための教材としての有効性
 今回、水中微小生物のCDを作る上では、特に動画が重要であった。動画情報を入手することによって、水中の生命の姿を知ることができるはずである。微小生物の動きは検索上で重要であるとともに、遊泳行動や捕食行動などは、生徒の、とくに自然に関わる学習意欲を高める動機づけになる、従来の書籍教材では、生物の動きを示すことは不可能であり、ビデオでは頭出しが難しく操作性が悪い。この点、CD-ROMを使ったマルッチメディア型教材は両者の欠点をカバーしてくれる。
 現在、生きた生物を通して教えることの大切さが、いろいろな意味で増している。ビデオなど視覚教材が発達した時代に「生きた生物を使って教える」ことがますます重要になってきている。コンピュータ画面での疑似体験をもって実体験に替えるのではなく、このCDを補助教材としての図鑑とし、そのあと実際に広瀬川に行って「生きている場での生物の観察」をすれば、環境教育上の効果も著しいと考えられる。今後はさらに情報量を増やし、学校からインターネットで検索できる時代に備えて一層のデータファイルの充実を図るとともに、教師が教材作成に必要なデータベースの構築も視野にいれている。

 

10.環境教育のための河川利用に関する考察

(1)はじめに

 県内に流れる河川(おもに広瀬川)を対象とした環境教育教材の開発のために、水質、生息する魚類と水生昆虫及び河川周辺の大気環境について現地調査・資料収集を行い、河川環境データベース構築を目指した。

(2)方法
a)広瀬川の上流域から下流域の範囲で児童生徒を安全に引率できる場所を選定する.
b)各選定ポイントにおける水質データ,生息する魚類と水生昆虫および河川周辺の大気環境について調査し,調査結果のデータ化を計る.
c)河川を利用した環境データベース構築のため各種情報の収集をする.
(3)結果及び考察

 表2に示すように、広瀬川に生息する魚類と水生昆虫の種類は、上流から下流にかけて大きく変化する。このことは、生物と水との関係を理解する上で、広瀬川が環境教材に適していることを示している。
 広瀬川は上流域、中流域、下流域と流れ下るにつれて、河川周辺の景観、水質や二酸化窒素濃度が大きく変化する(表3)。このことは河川水と植生との関係、液性と地質との関係を学習するのに都合が良く、多くの情報を整理し提供することによって、総合的な環境教材として利用価値の高い河川情報データベースになると考えられる。
 今後、河川関連項目をいかに系統的に分類し、構造化していくかを検討し、利用価値の高い河川情報データベースを構築していく予定である。

表2 広瀬川に生息する魚類と水生昆虫
表3 広瀬川の水質と空気中の二酸化窒素濃度(12月18日測定)

 

11.利用者参加型の環境情報データベース管理ソフトウェアの開発

(1)はじめに

 本研究で行った「環境」に関するさまざまな成果は、当初から地域の小・中・高校の環境教育教材として還元することをめざしてきた。そのためには、学校教育現場の教師たちが参加できる形で教材化を進めることが望ましいのは当然である。幸い、仙台の小・中学校の情報システムはインターネットに接続されており、研究成果の教材化をインターネット上で実現し、授業へ活用できることが、教育現場からも切望されている。このような新しい形の環境教育を支援することを目的に、初心者にも使いやすいネットワーク対応型のデータベースを構築するための管理ソフトウェアを開発した。
 学校教育における情報ネットワークシステムの設備面での整備は進んでいるが、ネットワークを実際に学校教育において活用しようとすると、ソフトウェア面の機能整備はまだ不充分であるというのが現状である。教師たちがネットワーク対応型のデータベースを構築し運用するのは、人手を要し、技術的にも熟練を必要としている。このような現状を解決するため、初心者にも使いやすいパーソナルコンピュータのウインドーズ環境のメニュー画面から、学校教育に有用な環境教育教材を現場教師たちも登録し公開できるネットワーク対応のデータベース管理ソフトウェアを開発することは、地域の教育界からも強く切望されている。

(2)方法

 開発ソフトウェアは、教育情報データベースで、コンピュータ上に実現された仮想図書館であり、仮想教室として運用することを基本機能としている。このソフトウェアの開発のための要求分析と設計仕様を終え、現在は作成・評価段階に入っている。プログラムは、階層化されたモジュール構造をとっており、使用言語は、cgiスクリプト言語である。プロトタイプの製品を本学のWebサーバコンピュータ上に実装し、いくつかの教育情報リンク集の作成に応用した(リンク集の投稿画面例を図4に示す)。
 また、本ソフトウェアの機能を各学校で利用するには、各学校に設置されている各種サーバシステムの最適化を学校教育現場のネットワーク管理者と協同で行うことが望ましいわけで、この協同作業を支援するための現場教師たちとの電子メールを用いたメーリングリストを運用した。

(3)結果と考察

 上記メーリングリストを介した支援活動によって、仙台地域の小中学校において、環境教育教材の活用とネットワーク運用のための講習会を開催し、実際に校内ネットワークの敷設とその運用を支援することができた。教育現場にインターネットの便利な機能を根付かせるには、業者任せのシステム導入ではなく、大学などの研究機関のスタッフと教育現場の教師とによる、新しい学習形態の実現という共通テーマで協調作業を行うことの大切さが判明した12)。また、開発した管理ソフトウェアは、教育情報リンク集作成に応用され、子どもたちの発達段階を考慮した新しい教育教材として、内外の注目を集めている。これらの学習教材は、単なる知識伝達ではなく、能動的な学習をめざしたものであり、今後、学校教育における環境教育の学習教材として具体化されることが切望されている。

図4 河川情報データベース入力画面

 

12.全体のまとめ

 環境教育の必要性が強く叫ばれて久しいが、学校教育現場では、他のすべての教科と同様に、従来型の一方的な知識(ないし情報)の詰め込み教育という枠からなかなか抜け出せないでいるというのがいつわらざる現状であろう。環境教育に必要な、地域に密着した、生きた教材開発の研究が非常に立ち遅れているからと考えられる。
 ところで、環境教育の出発点は、子供たちがそれぞれの自然体験や学習体験に立脚しながら、身近な自然や地域社会のことがらを、自分自身の問題として取り組むことである。その意味で、大都市に生活する多くの子供たちのごく「身近に存在する」都市河川ほど、環境教育の生きた教材として優れたものはないだろう。水および水辺こそ、その地域の自然と歴史と文化を育んできた源だからである。そしてもし、都市河川がそこに住むすべての子供たちにとって真に「身近な存在」になったとき、はじめて我々は環境教育の未来を確かに展望することが可能になるはずである。
 本研究では、政令指定都市仙台市の中央部を流れる広瀬川と名取川およびその流域を、環境教育のための教材開発の研究対象とした。そして、環境水という視点から両河川の水質やイオンについて経年変化の調査を行った。同時に、それらに関するいくつもの研究機関の個別の調査結果も収集し整理した。水中にすむ微小生物や水生動物について調査し、一方でその調査結果のCD化を試みた。両河川の水辺の生態系の調査を実施し、これまでの厖大な資料を収集・整理し、水辺という多様性に富んだ自然を学校教育の中の学外授業の教材およびフィールドとして、いかに活用したら良いかの検討も行った。その際、環境教育のうち、とくに対象とする学年が低学年であればあるほど、実物教育の効果は絶大であり、かつ昆虫類や鳥類より哺乳類をじかに観察させることの効果は大きいので、その実現の可能性を探った。調査結果からは、これまで学外授業は春と秋に重点的に行われてきたが、積雪期に焦点を絞ることで新たな展開ができることの確証を得た。また、水辺はこれまで日本人の文化を育み支えてきた最重要な自然であり、人が水辺と関わってきた諸々のことの中で、何を環境教育の教材として選んだら良いかについて、古地形図を使用することの有効性を明らかにすることができた。
 以上のような諸種の調査結果にもとづいた実物教育という視点とは別に、都市河川を対象とした環境教育を学校教育の中で実施する場合、もう一方で、現在学校現場で普及しつつあるコンピュータをいかに効果的に使用するのも重要である。インターネットを通じて、それぞれの学校で、子供たちが好きな時間に好きなだけ河川に関する情報を入手できるデータベースを整備することが必要だし、個々の学外授業の事前指導として、十分な情報を的確に提供できる、各研究分野ごとのテーマを絞った環境教育教材化やプログラム化も必要になってくる。本研究では、単にフィールドに子供たちを案内しての直接的な環境教育にとどまらず、それをいかに教室の中の授業と密接に連結させることができるかという点にも、鋭意取り組んだ。そして、すでにその試作段階へと入っている。
 都市河川を対象にした環境教育を考えるとき、とくに学校教育のための教材化という視点に立ったとき、自然と文化とを問わず、多くの学問分野において現在強い注目を集めている「水辺」と、その延長線上にある「里山」という2つの生態学的概念を、環境教育の主要概念として、常に念頭に置きながら取り組んでいく必要があるだろう。我々の今回の研究は、時間的制約もあってまだ個別的すぎるきらいはあるし、学校現場への教材としての還元も試行段階までしか行きつかなかったことはいささか残念である。ただ、本研究を通して確実に言えることは、子供たちのごく身近にある水辺と里山を、子供たちのごく身近な存在へと転換させる確かな一歩を踏み出せたということである。
 今後は、両河川の流域に選定された複数のフィールドでの自然教育の実践と、その積み重ねを通しての教材化とを進めていく予定である。

 

謝 辞

 本研究は財団法人・河川情報センターからの研究助成金を得て実施された。深く感謝する。
 また、本研究のような、多くの学問分野に関わる基礎的な調査研究を実施し、かつ、とくに小学校・中学校の学校教育における総合的な学習としての環境教育に資する教材開発を試作したり実践するとき、じつに多くの関係研究機関の研究者や関係教育機関の教育者からの御支援や御協力を必要とする、本研究でも、あまりにも多くの方々にお世話になった。ここで御芳名をあげるのは省かせていただくが、それらすべての方々に深甚なる感謝の意を表する次第である。
 さらに、本研究では、宮城教育大学の多くの学生諸氏からの多方面にわたる御協力も受けた。あわせて心からの謝意を表したい。

 

参考文献

1)仙台市史編さん委員会;仙台市史 特別編1 自然,pp.520,仙台市,1994.
2)仙台市環境局環境部:平成9年度 仙台市の環境,pp.105,仙台市環境局,1998.
3)仙台市衛生局環境公害部:昭和46年版仙台市の公害,pp.36-46,仙台市衛生局,1985.
4)仙台市衛生局環境公害部:昭和63年版 公害関係資料集,pp.66,仙台市衛生局,1988.
5)仙台市環境局環境部:平成5年版 仙台市の環境,pp.33−54,仙台市環境局,1993.
6)仙台市下水道局建設部計画課:仙台市公共下水道基本計画,pp.1-22,仙台市下水道局建設部計画課,1994.
7)仙台市環境局環境部環境対策課:仙台市水環境保全計画策定のための調査報告書,pp.31-77,仙台市環境局,1997.
8)宮城県環境生活部環境政策課:宮城県環境基本計画,pp.50-59,宮城県環境生活部環境政策課,1997.
9)宮城県環境生活部環境政策課:平成9年度 宮城県環境白書資料編,pp.132-161,宮城県環境生活部,1998.
10)宮城教育大学フィールドワーク合同研究室(編):金華山SNC論集Vol.3,pp.33,宮城のサル調査会,1999.
11)宮城教育大学フィールドワーク合同研究室(編):金華山SNC論集Vol.4,pp.39,宮城のサル調査会,1999.
12)安江正治(1998)「ヒューマンインターフェースからみた情報教育システム」 平成10年度情報処理教育研究集会論文集 p.127-129

 

* 宮城教育大学 環境教育実践研究センター
** 宮城教育大学 生活系教育講座
*** 宮城県仙台市科学館
**** 宮城教育大学 理科教育講座
***** 宮城教育大学 社会科教育講座

 

前頁へ 先頭へ 目次へ 次頁へ