前頁へ 目次へ 次頁へ
環境教育シンポジウム報告(II)

ふるさとを学び ふるさとに学び ふるさとから学ぶ
浜の子ふるさと学習

佐々木 みよ子**

 

1.はじめに

 本校では、研究主題「経験や五感を働かせて生き生きとかかわり合う子どもの育成」―浜の子ふるさと学習(総合的な学習の時間)を通して―のもとに65単位時間を総合的な学習の時間として教育課程に位置づけて実践を行っている。これまで積み上げてきた教育活動をどのように生かすか、子どもたちが生き生きと取り組み深く追求できる学習素材やテーマは何か、体験を経験に結び付けさせるための具体的な活動は何か、子どもたちが調べ学習に使う資料の整備とその提供の仕方はどうすればよいか、コンピュータを活用したプレゼンテーションをどのように指導していくか、評価のあり方はどうあるべきかなど、様々な問題を一つ一つの実践を通して検討している。

 

2.地域をステージとしたふるさと活動

 今年度の浜の子ふるさと学習として実践に至った経緯を以下に述べる。
 本校が本格的に総合的な学習の時間の研究に取り組んだのは平成11年度からである。しかし、平成9年度、10年度は重点教科である算数科の研究に取り組みながら総合的な学習の時間について、校内での研修会を開始した。

1)平成9年度;理論研修と教育活動の見直し

〔本校を特徴付ける教育活動〕
 全校縦割り班によるふるさと活動
 ・荒浜カルタ作り
 ・大漁旗作り
 全校縦割り班によるウォークラリー
 荒浜大漁節(運動会での全校表現)
 地域の自然を利用した教育活動
 ・阿武隈川岸の植物や昆虫の観察
 ・阿武隈川や海での釣り(クラブ活動)
 ・荒浜港を取り上げた水産業の学習
 ・海洋スポーツ体験学習
〔地域の自然や歴史に誇りをもっている保護者・地域の人々〕
  阿武隈川舟運の要塞(荒浜港)
  はらこ飯発祥の地
  えんころ節発祥の地
  わたりふるさと夏祭り会場
 教育活動を見直すことにより、地域を生かした教育活動がたくさんあることを改めて認識するとともに、地域の人々は自然や歴史に誇りをもっていることから、地域をステージとしたふるさと活動が可能ではないかと考えた。

2)平成10年度;理論研修、ふるさと素材の検討

 平成10年度は、教育課程審議会の中間のまとめ及び審議のまとめ、新学習指導要領などを読み合わせて、総合的な学習の時間についての共通理解を図った。また、資料の収集と整理のノウハウを得ることを第一の目的にし、子どもたちや地域の人々と結び付きが深い阿武隈川について様々な資料を収集した。
 子どもたちの目は、地域のどこに向いているか、わたしたち職員との差はないか、学習素材として何を取り上げるのがベストなのかを知る目的で子どもたちを対象に調査を行い、理論研修、素材の検討、子どもたちの実態調査を受けて職員一人一人が総合的な学習の時間の単元を2つ構想した。

3)平成11年度の取り組み

 平成12年度から始まる移行期に向けて、各学級での実践、環境整備、生きる力などの調査を行い、総合的な学習の時間の全体計画と各学年の活動計画を作成した。

 

3.体験からスタート!浜の子ふるさと学習

 本校の総合的な学習の時間は、具体的な活動や体験からスタートし、気づいたこと・知りたいこと・調べてみたいことを見いださせ、いろいろなメディアを活用させながら、課題を解決させていくことである。体験のステージがふるさとであり、中心素材を荒浜に求めることで、子どもたちが経験や五感を働かせて様々なことがらや人々に生き生きとかかわり合っていけると考えた。かかわり合う対象は、地域の自然・歴史・文化・産業であり、友達・地域の人々・家族であり情報などある。かかわり合う方法は、見る(観る)・さわる・聞く話す・書く・調べる・体験するなどである。
 地域を知らなければ、地域社会に生きていくことのよさを自覚することができないし、自分の地域を知っているからこそ、他の地域が理解でき異文化に対しても共感できると考え、地域をステージにしたふるさと活動を展開することとした。
 すなわち、ふるさとの自然、文化、歴史そのものを学び(ふるさとを学ぶ)、そこに住む人々や人々の努力を学び(ふるさとに学ぶ)、環境理解や国際理解への発展をはかる(ふるさとから学ぶ)一連の学習が「浜の子ふるさと学習」である。

 

4.浜の子ふるさと学習で育てる資質や能力

 浜の子ふるさと学習で育てる資質や能力を以下の3点とした。
・5つのFを高める
・問題解決にかかわる資質や能力を高める
・粘り強く取り組む態度や協力して活動する態度を育てる
 5つのFとは、Find(発見)、Five Senses(五感)、
Foudation(基礎)、Fellowship(仲間)、Feeling(感性)である。問題解決的学習にかかわる資質や能力がFを頭文字にした英語が多いことに着目し、本校の総合的な学習の時間を特徴付けるものとして「Fの活動」と呼んでいる。

 

5.各学年の実際の活動

 各学年のテーマは次の通りある。
・第3学年;荒浜を見つめる
・第4学年;荒浜をさぐる―川―
・第5学年;荒浜をさぐる―海―
・第6学年;荒浜を伝える
 各学年65単位時間、活動計画に沿って実践をしているが、活動を進めていく中で、活動時間が予想以上かかってしまったり、予定していた体験活動が天候の都合でできなかったり、計画とは違う体験活動を取り上げたりなど変更もあった。子どもたちの追求する課題が環境問題や国際理解などの今日的な課題に発展することもある。
 各学年の具体的な活動について以下に述べる。

1)第3学年 荒浜を見つめる

 3年生は、「町探検I・II」をし、探検で得た資料に基づいて新聞を作り、授業参観や4年生、職員室の先生たちを対象に発表会を行った。子どもたちは、新聞にまとめたり発表したりすることに精一杯で内容についての気づきや発見、疑問はなかなか出なかった。自分の知識や思考を広げたり深めたりしていく意欲を喚起していく必要性を感じた2学期は、荒浜地区内にある「かまぼこ工場」を見学し、その後荒浜の伝統の食「笹かまぼこ」作りに挑戦した。この活動は昨年度から始めたが、3年生の総合的な学習の時間の代表的な体験的な活動である(写真1)。
 荒浜地区全体を学習・活動の範囲にしている3年生は、観光マップと荒浜マップを作成している。できあがったマップは、地区の公共施設や町の水産観光課などに置いてもらう予定となっている。

写真1 3年生 かまぼこづくり
2)第4学年 荒浜を見つめる―川―

 4年生は阿武隈川を中心に活動している。
 本校は阿武隈川の河口近くにあり、校舎の2,3階からは川、太平洋が見られ、川までは2,3分で行くことができる。干潮満潮によって水量の変化が現れ、干潟では野鳥がエサをついばんでいる姿も見られる。水質は海水が混じっている汽水である。

(1)阿武隈探検隊「川沿いを歩いてみよう!」
(干潮時)(6月17日)
「今日は少しのんびり川沿いをあるいてみませんか。だだし、ぼーっと歩いていればいいというわけではありません。今まで知らなかったこと、気づかなかったもの、新しい発見がきっとあるはず。キーワードはあれっ!・おやっ!・はてな?・おお!です。」と教師側からの話を聞き出発した。
 干潮時だったので干潟を歩いてじっと見つめているとカニやゴカイなどを発見し喜んでいた。干潟の泥の中を歩くという経験が初めての子が多く、その感触に歓声をあげながら楽しんでいた(写真2)。

写真2 干潟にて

(2)阿武隈川探検隊「河口から海へ」(6/21)
 2回目の探検は川沿いに歩いて海へ行った。約1kmの道のりである。途中、潮の満ち引きの関係で川、干潟の様子が違うことに気づいたり、ちょっとした丘を越えたら目の前に海が広がっているのを発見し歓声をあげていた。川から海につがっているという一見当たり前のことのようだが、実際に歩いて確かめると大発見になる。本校は河口近くの学校だが、川のそばを歩いたり川沿いに海にでたりしたことがない子も多い。子どもたちばかりでなく大人も今は川の水から離れた生活になってきている。
 歩くという一見単純な活動のように見えるが、子どもたちにとっては貴重な体験で、次の課題、やってみたいこと、見てみたいものがふくらんでくるようであった。

(3)「つりをしよう!」(7/5)
 3回目は阿武隈川での釣りである。本校ではクラブ活動でつりクラブを設定していて、釣りは毎年人気があるクラブになっている。川や海が近くにありながら釣りをした経験がない子もいる。総合的な学習の時間での釣り体験は昨年度から実施している。釣り糸を垂らすことにより水の流れなどの感触を実感することもできる。
 2、3学期の活動は国土交通省(建設省)東北地方建設局仙台工事事務所及び学水館あぶくま、ボランティアのみなさんの協力のもと「阿武隈川わんぱくクラブ」と銘打って4回の活動をした。1学期の体験のステージが学校の近くの阿武隈川を中心だったのに対して、7kmから20kmほどさかのぼった地域での活動である。

(4)「学水館あぶくま」での活動(9/9)
 学校からサイクリングロードを通って自転車で行く予定であったが小雨だったので車での移動となった。阿武隈川でのカヌー体験、学水館あぶくまでの学習、ストーンアートなどの活動を行った。

(5)自然観察と水生生物調査(10/10)
 阿武隈川の支流白石川が合流する地点での活動である。観る視点を与えてもらって木や草、花、動物、虫などを調べて歩いたウォーキング。(写真3)
 川から捕った魚が10数種類以上でびっくりした水生生物調査であった。川がせき止められた池のようなところで、小さな虫や魚などを網で捕まえて分かりやすく説明してもらった。しかし、捕まえた中にはブラックバスとたくさんのブルーギルの外来種が混じっていて、それらが日本の種をどんどん食べていることも教わった子どもたちであった。

写真3 自然観察

(6)野鳥観察会(11/28)
 阿武隈川で行われる予定でしたが狩猟解禁による影響で水鳥たちが鳥の海に移動していたので鳥の海での観察会となった。事前にいただいた資料(この時期に見られる野鳥)で野鳥の生態などを図書室の図鑑などで調べてからの観察会で、子どもたちは多くの野鳥を観察でき感動していた。(写真4)

写真4 野鳥観察

(7)エコせっけん作り(1/30)
 第4回目の活動は川原の流木を拾ってきての工作を予定していたが、寒さと強風のため子どもたちがのびのびと活動できないということでせっけん作りに挑戦した。川(海)を汚してしまう油を使い、環境にやさしいせっけん(エコせっけん)を作った。エコせっけんと合成洗剤が植物の成長にどのように影響するか「かいわれ大根の発芽」の実物を見せてもらいびっくりしていた。川を汚している生活排水についても考える機会となった。
 4回の活動では、それぞれ専門の方々の指導を受けることができ、子どもたちの発見する力、感じる力を十分に引き出してくれた。
 子どもたちはこれまでの活動をもとに体験をまとめたり、課題を設定して調べたりしたものを「あぶくま図鑑」としてまとめているところである。

3)第5学年 荒浜を見つめる―海―

 5年生は昨年阿武隈川について中流域福島市内の2つの学校との交流学習を行った。また、全校では8年前から交流をしている阿武隈川源流にある福島県西郷村の川谷小学校の児童の訪問を受け、1本の川を通して他の学校との交流ができたことに喜びを感じていた。持ってきてくれた源流の水のきれいさに感動し「飲みたい。おいしいだろうね!」との言葉が出た。また、河口調査にきて「やっぱり思ったとおり水はきれいじゃないね。」と言われた時の子どもたちの表情は複雑であった。

(1)阿武隈川源流西郷村
 5年生の活動は、4月29、30日福島県西郷村に行って川谷小学校の人たちと源流までのハイキングや森での植樹などの体験から始まった。森と海のつながり、ブナの木、湧き出る水、源流の自然や動植物など考えたりかかわっていったりするテーマに出会った。源流での活動をもとに一人一人課題を設定して調べ学習に入り、第1回目の発表会を行った(写真5)。

写真5 5年生 発表会

(2)マリンスポーツ:カヌー・カッター体験
 亘理町では、1学期に町内6つの小学校の5年生を対象にカヌー・カッター体験学習が鳥の海で実施されている。今年から本校では地元で体験できるということで、秋にも実施することにしている。2回目となると子どもたちにも余裕がありマリンスポーツを十分に楽しむこともでき、また海の様子や周りの様子にも目がいき、海苔の養殖しているところなど、陸上からはなかなか気づかないところも発見できたようであった。

(3)「浪切地蔵」について劇にして教えよう!
 劇「浪切地蔵」の取り組みについて述べる。これは4月から始まった総合的な学習の時間の活動の流れから生まれたものである。阿武隈川源流の西郷村に伝わる「剣桂」の伝説を調べ紙芝居にして発表し、その後に荒浜にも阿武隈川に関した伝説があるのではないかと子どもたちは考えている。荒浜に3つの地蔵尊がありその一つの浪切地蔵尊が、福島県岩代町小浜から阿武隈川を流れて荒浜にきた「万人子守地蔵尊」に関わりがあることを調べ、「浪切地蔵」についてみんなで調べることにした。そしてそれを劇という形で学習発表会で発表することにした。劇の練習に入ってからは、子どもたちの考えをみんなで話し合い、劇に取り上げていった。教師側からの励ましと次のめざすところのアドバイスは「浪切便り」として毎日掲示し、子どもたちの励みになるようにしていった。

(4)荒浜伝統料理「はらこ飯作り」に挑戦!
 5年生の総合的な学習の時間の体験活動で昨年から取り入れているのが、荒浜に受け継がれてきている伝統料理「はらこ飯」作りである。どの家庭でもこの時期になると作って食べたり親類に配ったりしている。また、たくさんの人が秋の味覚「はらこ飯」を食べにやってくるなど有名であることに子どもたちは誇りをもっている。各家庭の味があり、家では子供たちが作ることになかなか手が出せないことがあるので、学校で挑戦することになった。ゲストティーチャーの見事な包丁さばきに感嘆の声を挙げながら最初はおそるおそる、次第に大胆に包丁を使い見事においしいはらこ飯を作り上げることができた。食に恵まれた荒浜だからこそできる活動であると思っている(写真6)。
 阿武隈川という素材に目を向け、そこに関わる動植物や自然、歴史について調べていくことでふるさと荒浜に対して興味・関心が高まっていった。子どもたちはマリンスポーツやはらこ飯作りに挑戦し、さらにふるさと荒浜に対する意識を高めていった。今、一人一人荒浜と海との関わりを調べ、まとめていく活動を行っている。まとめていく活動を通して、ふるさと荒浜を知り、荒浜のよさを再確認することができると考えられる。

写真6 5年生 はらこ飯作り
4)第6学年 荒浜を伝える

 6年生は1学期に「荒浜の昔を語るもの」を探す目的で荒浜探険をし、一人一人が自分の課題を設定し、調査活動を行った。資料室の資料、荒浜データベース、家族に聞いたり地域の方に直接話を聞いたりなどして調べ上げた。
 2学期に入り、それまで調べたことを分かりやすく発表するためにコンピュータを使ってまとめた。はじめは思うように進まなかった作業も何回か繰り返す間に操作の仕方を覚えスムーズに作り上げていくことができ、一人4〜5枚のカードにまとめ上げていった。その後、同じ課題で調べた子供同士でミニ発表会を行い、そこで新たに生じた疑問をグループの中で出し合ってさらに追求をしていった。12月20日、調べる活動の中でお世話になった地域の方々を招いて最終の発表会を行った。5年生も発表を聞き内容に興味・関心を深め、いろいろなまとめ方に接したりと参考になったようである。また、地域の方により詳しいことを教えてもらったり、「よくここまで調べたね。」と誉めてもらったり、調べ直して確かめるところを教えてもらったりとたいへん充実した発表会となった(写真7)。
 3学期は、伝えよう荒浜のよさをということで、ホームページ作りに取り組んでいる。自分たちで調べてまとめたこと、学校の特徴、行事、荒浜の紹介など4つのグループに分かれて作業を行っている。完成が楽しみである。

写真7 6年生 発表会

 

6.おわりに

 地域をステージにしたふるさと活動を展開していく中で、ふるさとに目が向きふるさと荒浜の再発見につながった。また、阿武隈川の源流にも接することができ、239kmという流れにかかわっている自然や人、歴史、産業、文化というものにこれからも関心をもち続けていってほしいと願っている。活動してみて「川は教材の宝庫」であり、主体的・創造的な学び方・考え方を育てるのに川を学習素材に取り上げることは大変有効であることを再認識した。

 

* 環境教育シンポジウム報告(II)は「体験そして感動−総合的な学習の時間における環境学習」をテーマとした。環境教育シンポジウム報告(I)は、環境教育研究紀要第2巻2号サプリメント(2000)とする。
** 亘理町立荒浜小学校教諭

 

前頁へ 先頭へ 目次へ 次頁へ