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環境教育シンポジウム報告(II)

総合的な学習の時間における環境教育の実践

齊 隆**・鴇田睦子**・漢人真二**

 総合的な学習の時間において、生徒がゴミ・リサイクル問題、水質汚染問題、大気汚染問題の3つの分野でそれぞれ課題を設定し、個人またはグループで追究していったものである。校外における調査活動を設定し、生徒が課題を設定する段階での支援の在り方について研究を進めた。本実践を通して、生徒は環境への興味・関心を高め、理解を深めた。また、生徒は自分自身の興味・関心に基づく学習の必要性をさらに強く感じ、次の総合的な学習の時間への意欲も高まっていった。今後は、地域性としても学習環境の設備のしかた、追究の段階での支援の在り方を検討していくことが重要である。

キーワード:環境教育、総合的な学習の時間、地域総合学習、課題設定、課題追究、調査・研究活動

 

1.はじめに

(1)これまでの実践から

 本校では平成11年10月から、総合的な学習の時間を設け、学年ごとにテーマを設定して実施した。その結果、教師は総合的な学習の時間、生徒は自分自身の興味・関心に基づく学習に意欲的に取り組んだ。一方、生徒が課題設定する際の支援の在り方、総合的な学習の時間の時間と各教科の指導との関連の図り方が大きな課題として明らかになった。
 そこで、本年度は、実践を通して、総合的な学習の時間における学びの支援の在り方を探ることにした。

(2)総合的な学習の時間の構成

 本校では、生徒に主体性と社会性を育むことを大きなねらいとして、総合的な学習の時間を、1学年で35時間、2、3学年で70時間設けている。

図1 総合的な学習の時間の構成の関連
(3)地域総合学習

 この学習は、生徒の生活体験からの疑問や気づきを大切にし、生徒自らが課題を見つけ、学び方を身に付けることを重視したものである。地域のよさに触れながら、学習環境としての地域の理解を深め、さらには、自分自身の生き方を考えるきっかけになると考えた。そのために、地域の課題やそれから発展するものを追究し、課題解決の方向性を地域への提案とした。
 2、3年生は35時間の縦割り活動とし、校外での自主的な体験学習の機会を多く持つようにした。

表1 指導計画の概要

 

2 環境コースの設定

(1)ねらい

1) 自然環境に対する興味・関心をさらに高め、知識をより確実なものにする。
2) 自ら課題を設定し、自分なりの解決方法で取り組むことで、問題解決のしかたを学ぶ。
3) 身近な地域から環境を見つめ、地域への提案としてどのようなことができるかをまとめる。

(2)指導計画

1) 生徒の実態
 2年生男子24名女子4名、3年生男子12名女子2名、計42名である。全員が希望調査での第1希望で所属した。担当教師は2名である。全体オリエンテーションでは、ゴミ・リサイクル問題、水質汚染問題、大気汚染問題3つの分野での調査・研究活動を行うことを説明した。生徒は環境に関する興味・関心が高く、前年度の総合的な学習の時間での学習や理科での自由研究の内容を発展させたいという理由もあった。
 総時数は35時間で、毎週2時間連続の授業とし、必要に応じて時間割を変更し、場合によっては全日を調査・研究活動に充てることにした。

 

3 実践の概要

 主な学習活動と支援については表1に示した。ここでは、課題設定と課題追究における支援について述べる。

(1)課題設定における支援

1) 共通体験の実施
 生徒が、課題を見出す上で、自分自身での体験からわき出た疑問や気付きが必要である。特に、共通の体験を踏まえた課題追究では、多様な活動が期待できる。そこで生徒の希望をいかして、全校で講話を聞いた、東部大崎衛生事務組合業務課長の佐藤征二氏にさらに詳しい話を伺い、処理施設を見学した。また、その帰りに鳴瀬川でパックテストを用いて水質検査を行った。

2) 仮の課題の検討と研究母体の編成
 まず、仮の課題となるものを持ち、それを発表し合い、似ているものごとにグループを作るようにした。その際に、考えたことがらを付箋紙に記入させ、自由に並べ替えながら、時系列で整理し検討することにした。全員での話し合いによって、課題の内容や解決の方法が似ている生徒同士で検討を行い、調査・研究活動の母体を編成した。ここでは、個人で研究することも認め、課題の内容などが類似している場合でも必ずしも同じグループとはしなかった。その結果、個人研究が7つ、グループ研究(2〜6名)が9つ(異学年で構成しているものは1つ)になった。

写真1 大崎東部クリーンセンター見学 写真2 鳴瀬川での水質パックテスト

表2 生徒の課題一覧

(2)課題追究における支援

1) 活動時間の確保
 生徒が校外での調査・体験活動を実施する時間を確保することにつとめた。そこで、特に課題を追究し始めた2学期以降は、総合的な学習の時間(週1回、2時間連続)に校外の町役場、公民館、鳴瀬川など町内各地での野外調査を、繰り返して行うことができた。このとき、担当教師は、1名が校内での指導に当たり、もう1名が校外を巡回指導することにした。

2) 課題の修正・変更
 地域に関する資料が容易に収集できないために活動が滞る場合には、関係機関で作成した冊子やビデオを積極的活用させ、情報の整理が進められるようにした。また、資料不足や調査・研究活動の時間不足などから課題の修正や変更を希望する生徒が出てきたときには、その理由を明確にさせてから、追究ができる範囲まででよいことを伝えたうえで希望に添うようにした。

 
写真3 大気汚染問題に取り組む生徒。自動車の排気ガスを調べた。(本校駐車場)   写真4 水質問題について発表する生徒。1つの河川を200mおきに、4種類のパックテストを用いて調査し、最終発表会で発表した。

表3 主な学習活動と支援及び課題となったこと

図2 環境コースの学習の自己評価

 

4 成果と課題

(1)成果

1) 生徒は、自分の興味・関心に基づく学習の必要性をさらに強く感じるようになった。また、この後引き続いて行われる、学年ごとの総合的な学習の時間に意欲的に取り組もうとしている(図2)。

2) 課題を設定する段階での付箋紙の活用では、生徒が思いうかべた内容や活動を記入し、並べ替えることが容易であるため、具体的な活動を想定して時系列で整理、検討をすることができた。まとめの段階でも発表することがらを整理するために役立った。

3) 地域における環境問題に対して、具体的な活動を通して接し、改善のための提案をすることができた。

(2)課題

1) 環境の学習の対象を地域性に限定したために課題設定、追究が滞ってしまった生徒もいた。

2) 生徒が見出したことがらを課題とするために、時間の確保はある程度できたが、その価値を高めることの支援が十分でなかった。今後、追究における支援を強めていくことが重要と思われる。

3) 生徒が学習したことがらを、日常生活でどのように意識し、改善のための実践がどのように行われているかを把握しなかった。

 

5 課題を解決するために

(1)学習環境の整備

 教師が生徒の校外学習における準備等にかかわる問題(実施時期、実施時間、準備時間、実施方法、準備物、予算など)を解決することが不可欠である。

(2)追究段階における時間確保

 生徒は追究の段階での試行錯誤によって、自らの課題について修正や変更をしながら検討を加えていたことから、この段階での活動時間の確保を優先させたい。

 

6 謝辞

 所属校の秋山尚義校長をはじめ全教職員の皆様には、本実践を常に暖かく支えていただいた。大崎東部環境衛生事務組合業務課長佐藤征二氏には、講話や施設見学でご指導をいただいた。宮城県教育研修センター遠藤和秀指導主事には、貴重な発表の機会を与えていただいた。宮城教育大学青木守弘教授には、シンポジウムで大変有益なご意見をいただいた。ここに記して感謝する次第である。なお、本実践は、平成11〜14年度宮城県教育委員会指定研究での一部である。

 

参考文献

小松英紀 2000 自然に親しみ,環境を思いやる子供を育てる環境教育の試案−5年 大谷海岸の自然環境や漂着物を調べる総合的な学習の学習モデルの作成を通して− 「平成11年度長期研修員(A)報告書」pp121〜130 宮城県教育研修センター 
松山町立松山中学校 2000 平成12年度研究紀要
齊 隆 2000 自然を総合的に見るための理科指導の一考察−中学校第2分野における「地域の自然史」学習の授業モデルの作成を通して− 「平成11年度長期研修員(A)報告書」 pp41〜60 宮城県教育研修センター

 

* 環境教育シンポジウム報告(II)は「体験そして感動−総合的な学習の時間における環境学習」をテーマとした。環境教育シンポジウム報告(I)は、環境教育研究紀要第2巻2号サプリメント(2000)とする。
** 松山町立松山中学校教諭

 

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