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環境教育シンポジウム報告(II)

総合的な学習の時間「つばさ学習」の実践事例

高平拓実**

 

1.はじめに

 本校では「総合的な学習の時間」を先取りして実践してきた。これまでに私たちが取り組んできた総合的な学習の時間の概要と、この学習にどんな課題があり、それをどのように解決しようとしてきたのかを紹介する。また、この学習を通して、生徒が環境について深く考えるようになった事例をいくつか紹介する。

 

2.「総合学習」と「つばさ学習」

 本校では、総合的な学習の時間を「総合科」と呼んでいるが、大きく2つに分けて運用している。
 一つは「総合学習」で、これは昭和48年度に「総合野外学習」としてスタートした。各教科の系統的な学習内容や方法を具体的問題にぶつけて、応用的、発展的に扱う学習として開設された。教科で身につけた知識や技能を踏まえ、教科を越えた、自由で適切な、また各自の興味や関心を生かした学習になるように配慮した。
 「総合学習」は、調査研究や体験活動を通して、各教科、道徳、特別活動などで学んだ学習内容や学習の仕方を応用・発展させながら課題を追究しようとする能力や態度を養うことを目標としている。具体的には、地域の産業や文化などから課題に設定し、その課題を追究する学習を中心に行ってきた。
 1年生は地元の仙台市内を中心に活動し、2年生は松島・塩釜方面、あるいは白石、蔵王方面などに学習のテーマを求めて活動してきた。3年生では宮城を離れ、これまで佐渡、函館、松本、金沢、名古屋、岐阜といった地域で学んできた。事前に調査研究活動を行い、理解を深めた上で当日の調査研究と体験活動に臨むが、地域の人々の生活に触れ、生き方を学んで帰ってくる生徒もたくさんいる。
 もう一つの総合科は「つばさ学習」で、日常の授業でも、総合学習のような学習活動で、主体的な学びを身につけてほしいという強い願いがあって4年前(平成9年度)に開設された。このつばさ学習の内容については、後ほど詳しく述べる。

 

3.「総合学習」と「つばさ学習」の目標

 総合学習とつばさ学習に共通するねらいは、自分の感じ方や思い、願いなどを生かしながら設定した課題を、教科などで身に付けた学習内容や学習方法を応用させたり、発展させたりしながら課題を追究しようとする力や態度を養いたい、というところにある。そのねらいを達成するために、教師の支援が必要となるが、総合学習とつばさ学習の特徴を押さえておくと、次のようになる。

「総合学習」の特徴
(1)同学年集団・横割りの学習
(2)グループでの課題追究
(3)地域についての学習
(4)主に「人間としての生き方」についての学習
(5)調査研究(20時間)+現地調査

「つばさ学習」の特徴
(1)異学年集団・縦割りの学習
(2)個人による課題の設定と追究
(3)現代的課題の追究学習(32時間)
(4)自由課題の追究学習(28時間)

 課題設定の段階、課題追究の段階、学習の成果を発表する段階と、それぞれの段階によっても支援の仕方は異なるが、ねらいやこれらの特徴、時数を踏まえた上で、適切な支援ができるように学級担任や担当者は工夫をしている。

 

4.「総合学習」の実践例

(1)「白石和紙」

 図1は、白石和紙をテーマに調査研究した生徒たちが、現地で和紙の原料を水洗いしている様子である(図1)。原料の吟味に始まり、伝統の技を守って作り続ける講師の先生から、働くことの意味や人生の歩き方なども学んできた。この白石和紙工房でつくられた紙の衣は、奈良・東大寺のお水取りで用いられているとのことで、生徒は歴史や文化にも触れて帰ってきた。

図1
(2)「円空彫り」

 昨年度から、3年生の総合学習は、活動の場を金沢から愛知県北部と岐阜県南部に移った。図2は「円空彫り」という仏像づくりに挑戦している様子だが、総合学習で訪れた地域には、「名工」と呼ばれる人々がたくさんいた。地元の人でさえなかなかお目にかかれないような方であっても、30年近く続けてきた活動の内容を話すと快く講師を承諾していただけることがあり、人との出会いが総合学習の何よりの魅力である。

図2
(3)対話から学ぶこと

 人と人とのかかわりが大切だと感じて生徒は帰ってくる。講師の先生には、朝から夕方近くまで丸一日お世話になることもある。事前に調査したことを聞いて確かめることも大切で、くつろいで一緒に食事を取りながら様々なことを教えていただくことも多い(図3)。

図3

 

5.「つばさ学習」の経緯

(1)平成8年度

 「生徒に本当の学びを学ばせたい」「問いをもつことを大切にする生徒を育てたい」という願いを現実にするために教師が動き出し、新たな学習を開始する準備が整った。

(2)平成9年度

 「主体的な学びを日常的な学習を通して身につけさせたい」という願いから始まった「つばさ学習」であるが、試行錯誤の連続であった。他校の取り組みも参考にしながら、実践を重ねようとしたが、改善すべきところが次々と出てきた。自由課題を設定し、年間を通じて課題を追究することにしたが、課題意識を持続することの難しさに直面した。学習の見通しがもてないこと、生徒が考えた課題が学習課題になるとは限らないことが分かった。また、担当教師を生徒が指名する形をとったが、その結果80名もの生徒を抱えてしまった教師は多様な学習課題に応じ切れないといった状況も出てきた。このほか、生徒の興味・関心のみに流れてしまう傾向が強かったこと、生徒が学習の成果を共有する場面が作りにくいといった反省が出された。

(3)平成10年度

 前年の反省から、課題設定に十分な支援をすることにした。具体的には、課題設定の前に全体講話を取り入れたり、学級担任と担当者の2段階で課題設定を支援することで、改善を図ることができた。また、前期に現代的な課題として「環境」「国際理解」「健康」「情報」の4つを設定し、後期には自由課題に取り組むという、年間2テーマ制でつばさ学習を実施した。このほかの改善点としては、体験学習を取り入れたり、「人材バンク」への登録を呼び掛け、「学習計画書」や「学習のあゆみ」を活用するといった工夫をした。

(4)平成11年度

 基本的に前年度の実践を継承したが、現代的課題に「福祉」を追加した。新しい取り組みとしては、「総合科ガイドブック」を作成し、新入生向けに資料を配布したこと、全体講話に加えてテーマ別講話を導入したこと、見通しを立てやすいように年間活動予定表を生徒に配布したことなどが挙げられる。学習の成果を共有する場としての学習発表会には、保護者や附属小学校の児童も参加するようになった。また、「体験学習の日」を設定したり、「総合科掲示板」を設置するなどの工夫をした。

(5)平成12年度

 昨年度までの全体講話とテーマ別講話では、「私はこういう研究をしてきました」といったことを話していただいたが、今年度はその内容を少し変更した。講師の先生に、課題を解決したり困難を克服する上で苦労したことや失敗したことも講話の中に入れてほしいと依頼した。これは、生徒に「つばさ学習」で試行錯誤したり難問に直面することを恐れずに挑戦してみてほしい、様々な追究の方法があることを知ってほしい、という教師側の願いがあったからである。その他の主な改善点は、次の通りである。

また、今年度の取り組みの中で教師が意識してきたのは、各教科で担うことのできるスキルを明らかにしていこうということであった。つばさ学習において、教科の学習内容や学習方法がどのように生かされるのかを意識しながら授業づくりをしてきた。

 

6.本年度前期の「つばさ学習」の進め方

(1)全校のオリエンテーション(1時間)
(2)学級担任による「学習の手引き」を使ってのオリエンテーション
(3)全校講話
(4)学級担任による「課題設定」の支援(2時間)
(5)テーマ別講話(5テーマ)
(6)担当による「学習計画書」の支援(2時間)
(7)現代的課題の追究(校外学習日を含めて)
(8)追究した結果の発表

 つばさ学習の大まかな流れはこのようになるが、総合的な学習としてのつばさ学習は、まだまだ模索している段階にあるというのが正直なところである。課題を絞り込み、1つのテーマをじっくりと追究したほうが充実した学習になるのではないか、意味も分からないまま本を丸写しするだけの調べ学習になってはいないか、といった反省点を生かして、来年度の検討に入っている。来年度は自由課題のみを設定し、後期には体験学習の機会を増やすこと、といった計画を立てている。

 

7.「つばさ学習」と環境教育

 つばさ学習の中で、環境問題にかかわる課題を設定していた事例、環境教育に結びつきそうな事例をいくつか紹介する。

(1)「宮城県の松枯病被害について」

 宮城県の松枯病被害について、2年生の生徒2名が取り組んだ。この生徒たちは、1年生のときに、「マツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウの関係」を調べた。そのとき、資料だけで調査したことが悔やまれたことから、今回は実際に現地で観察することにした。現地での観察や松島町役場での取材などから深刻な被害の状況を把握し、大変なことになっていることを実感したようである(図4,図5)。足かけ2年に渡って継続的に追究したことで、新たな発見や気付きが生まれ、研究の幅が広がった。昆虫に興味があり、標本づくりも得意な彼らであったが、昆虫のことを調べていくうちに寄生虫や植物など周りのものにも目が向くようになったことは、大きな変化である。松枯病には線虫だけでなく、我々人間も深くかかわっていたことにも気付いたりした。
 「21世紀に向けてこの問題をどう解決するかを考えるのは、僕たちの世代であるという課題も出てきました。」こんな言葉が、彼らのレポートの中に書いてああった。この二人の例のように、机の上での勉強に終わらず、自分から行動を起こすことができるような力を育てていく教育が、総合的な学習の時間には求められているように思われる。

図4 図5
(2)「ケナフの有効利用」

 まず、この3年生の生徒は、ケナフがどれくらい知られていて、どの程度理解されているか、などを調べるためのアンケート調査を行うことにした。生徒100人に聞いた結果、ケナフは、思っていたほど知名度も理解度もあまり高くないことが分かった。インターネットや書籍で調べると、食用、ペットの敷きわらの代用など、様々に利用されていることが分かった。その後、どうしても自分でケナフを育ててみたいと思うようになったものの、すでに夏休み直前になっていた。文献から、種まきに適した時期も知っていたが、やってみなければわからないから、と実行に移したところがこの生徒の良さである。好天にも恵まれ、70日間で70cmを越える高さにまで育ったことには驚いたと書いている。そして、自分で育てたケナフを用いて、染色や紙すき、天ぷら、クッキーづくりなどに挑戦した。「二酸化炭素をたくさん吸収し、紙を作れる植物というだけで驚きだったのに、たくさんの利用方法があり、ケナフには本当に驚かされた。」と女子生徒はまとめている。「ケナフの天ぷら」には私も驚いたが、このように、つばさ学習では、生徒から教えられることがたくさんある。日本在来種ではないことや、焼却処分すると結局は二酸化炭素が生じてしまうことなど、ケナフの取り扱いについては、問題点も指摘されている。そこで、新たな問題点なども示しながら、「やってみたい」という生徒の興味や関心に応じて、取り組んでいくことができるような学習活動にしていきたいと考えている。

(3)「森林に関する環境問題と水の森」

 「環境問題と森林の減少に何か関係がある」と思ったところからこの3年生の研究は始まった。
 インターネットや書籍で調べる生徒が多い中で、この生徒は、人から直接多くのことを学んだ。仙台市の中心部にある「水の森」の森林で体験活動を指導していた仙台営林署の方に自分から連絡を取り、詳しく教えていただけないかと相談してみたり、森林の面積を調べるために総合支所や市役所に通うなど、歩いて情報を探す努力を惜しまなかったところが、他の生徒より学習が深まった理由になっている。
 研究レポートの最後に、彼女はこう書いている。
 「実際に行動を起こすことは面倒でもありましたが、インターネットでただ情報を見るだけというのとは全く違う、人と人との触れ合いから、その方の体験談、さらに、現実的なことなどを聞かせていただいたり、インターネットだけでは決して得られない人の温かさを感じることができました。」
 環境問題を考えている人たちと出会うことで、子どもたちの考え方やものの見方や感じ方が大きく変わっていく。学校の外に多くの優れた指導者や支援者がいることに私たち教師はもっと気付かなければならないと思う。

(4)「生ごみの堆肥化によっておこる問題」

 最後に紹介するのは、1年生の例である(図6)。
 研究のきっかけとなったのは、小学校でリサイクルの必要性について調べたことで、その中でも生ゴミの処理について、もっと調べてみたいと感じていたことが動機となった。そして、「生ゴミを処理して堆肥化した土で植物を育てると、その植物は通常よりも二酸化炭素を多く発生する」という記事を読んだような記憶があり、本当なのか調べて確かめてみようとして、堆肥づくりから課題追究が始まった。植物が放出する二酸化炭素を回収する方法を考えたり、生じた二酸化炭素の量を比較するにはどうしたらよいか悩んだり、試行錯誤の連続であった。しかし、実験方法を考え出したり、結果を考察したりする過程は、普段の授業に生かせる良い経験になる。こういう活動をより多くの生徒に経験させたいと願っている。

図6

 

8.成果と課題

(1)成果として挙げられること

 教科の枠に収まらない環境問題等を「つばさ学習」で取り上げることができたのは大きな成果であった。
 小学校で夏休みの自由研究としてドジョウについて詳しく調べた生徒は、この時間を活用してさらに研究を続けている。普通の授業の中で取り上げたくても取り上げることができない内容がたくさんある。しかし、このつばさ学習ならば自分のやりたいことが学校の中で思う存分にできる。また、総合的な学習の時間を、このような充実した時間にするために最も大切なことは、課題設定にあると思う。生徒の興味や関心を生かしながら、課題にまで高めていく過程を大切にしたいものである。
 環境問題を考えるとき、多くの場合、人間の活動と切り離して考えることはできないことに気付く。人々の環境に対する意識を高めるためにも、人と人との対話を大切にしていきたいとも思う。観察や実験、調査だけでなく、人から学ぶために校外で学習する生徒が増えたことは大きな成果だと感じている。
 つばさ学習のまとめとして、年に数回の発表会を設定している。その発表会では、環境について調べた生徒が情報を発信し、それを受け止める生徒がいて、少しずつ環境について考えようとする「輪」を広げてきた。

(2)課題として挙げられること

 来年度のつばさ学習では、自由課題の追究のみとする予定である。現代的な課題としての「環境」については特に設定されないため、環境問題を取り上げる生徒がかなり減るのではないかと思われる。環境そのものの課題追究でなくても、教師側から環境と結びつけて考えさせる視点を与えることが必要になると考えている。実験装置を自分で開発するような生徒がいる一方で、文献の丸写しで終わってしまう生徒もいる。ものの見方や考え方を広げたり深めたりするためにも、多くの指導者や支援者がほしいと感じている。また、生徒が驚いたり、感動したり、満足するような学習活動になるために、まだまだ工夫が必要である。個人的には、生徒にフィールドワークを勧めている。自分から自然や社会、あるいは人々に働き掛けてみることを大切にしてほしいと願っているが、なかなか浸透しないのが現状である。さらに、せっかく1年生も2年生も3年生も一緒の教室で学んでいるのに、課題設定や発表会の場面以外では、異年齢集団としてはほとんど機能していない。これも改善したい点である。

 

9.おわりに

 「つばさ学習」では、生徒は試行錯誤を重ねながら課題に取り組んでいる。私たち教師も、生徒と同じように試行錯誤の連続であった。これからも生徒の主体的な学びのために、実践を続けたいと思っている。

 

* 環境教育シンポジウム報告(II)は「体験そして感動−総合的な学習の時間における環境学習」をテーマとした。環境教育シンポジウム報告(I)は、環境教育研究紀要第2巻2号サプリメント(2000)とする。
** 宮城教育大学附属中学校教諭

 

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