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環境教育シンポジウム報告(II)

総合的な学習の時間における環境学習の進め方

鳩貝太郎**

 平成14年度から実施される新学習指導要領により総合的な学習の時間がスタートする。すでに多くの小学校・中学校で総合的な学習の時間が試行されているが、優れた実践を展開している学校と多くの課題を抱えている学校とがある。環境教育は総合的・横断的であるという特色を持っている。したがって環境教育は総合的な学習の時間で実施する課題として適している。また、これまでに試行された総合的な学習の時間の実戦事例では環境教育に関する課題が最も多い。各学校では、環境教育のための条件整備を進めるとともに、幅広い内容の環境教育を視野に入れて指導することが必要である。総合的な学習の時間における環境教育のカリキュラム評価は、計画、実践、評価という一連のサイクルで実施し、よりすぐれた実践へと発展させていくことが大切である。

キーワード:総合的な学習の時間、環境教育、体験学習、評価、

 

はじめに

 平成12年12月に国際教育到達度評価学会(IEA)は、第3回国際数学・理科教育調査―第2段階選抜―(TIMSS−R)の国際調査結果を発表した。この国際調査に参加したのは38か国・地域であった。わが国ではIEAに日本代表の立場で加入している国立教育研究所(現国立教育政策研究所)が国際的な取り決めにしたがって調査の実施に当たった。
 わが国での調査は平成11年2月に行われ、調査対象は全国から抽出された140校の中学校2年生5千名弱と指導担当の数学、理科教師及び学校長であった。わが国の中学2年生の数学・理科の学力は世界のトップクラスであったが、数学・理科ともに「大好き」「好き」と応えた生徒の割合は国際的に最も低い割合であった。わが国の子ども達は数学、理科だけでなく、国語、社会、英語などに対しても「嫌い」と考えている生徒の割合が高く、実習を伴わない「座学」といわれる教科に対するマイナスイメージが強い。いわゆる「知離れ」ともいえる状況が顕在化しつつあると考えられる。平成14年度から新学習指導要領の本格実施により導入される総合的な学習の時間は、わが国の子ども達の学びに対するマイナスイメージをプラスに転換させ、主体的に学ぶ方法や考え方を育成し、一人一人の生き方にも迫る学びが期待できる授業時間であると評価したい。
 本稿では、総合的な学習の時間とそれを有効に活用した環境教育・環境学習の進め方及び総合的な学習の時間のカリキュラム評価について考えてみたい。

 

1 総合的な学習の時間の展開

(1)総合的な学習の時間のねらい

 平成10年に告示された小学校及び中学校学習指導要領(文部省:1998、1999)では、総合的な学習の時間のねらいとして次の2点を示している。

1)自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
2)学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにすること。

 総合的な学習の時間は、教科・道徳・特別活動のような目標や内容が明示されていないため、学習プログラムの開発や指導計画の作成に当たっては常に学習指導要領に示された総合的な学習の時間のねらいに立ち返りながら検討し計画を作成すること、その計画に従って実践すること、そして幅広い視野から総合的に評価していくことが大切である。

(2)試行段階での課題を明確に

 新教育課程の移行期に入った現在、総合的な学習の時間の本格実施を目指して、その試行を実施する学校がかなりの割合を占めるようになった。学習指導要領のねらいにそって、学年ごとの総合的な学習の時間で育てたい力を明確化し、子ども達の興味・関心に基づく横断的・総合的な課題を設定し、それらについて体験的な学習や、課題解決的な学習を取り入れた優れた実践を展開している学校が多くなった。
 しかし、どのような課題について、どのような指導をしたらよいのか手探り状態であったり、研究指定校等の先行事例を参考にして実施したが計画通りには進まず様々な問題点が浮き彫りになったなど、課題が山積しているところも少なくないようである。また、子ども達の体験活動に終始している、課題追求の過程で子ども達一人一人やグループに対する指導・支援が不十分である、従来からの教師主導の特別活動の指導と同様に行われている等々の問題点を明確化できないまま展開しているところもある。

(3)学習課題を整理する

 上述したような問題点は、総合的な学習の時間のねらい、子ども達の実態、及び学習課題の理解・認識が不十分なままでの我流や物まね的な実践によって生じたと考えられる場合が多い。例えば、休耕田を活用して米作りをしている学校が多数ある。地域の方々の準備と指導により田植えと稲刈りと餅つきを楽しく体験ができたという段階で終わってしまったのでは総合的な学習の時間のねらいを達成したことにはならない。米作りを体験学習として位置づけるだけではなく、米作り体験を通して子ども達が抱いた課題をどのように解決するのか、教科等での学びをどのように総合的・横断的な学習として進めていくのかの視点が必要である。具体的な課題としては、水田の生物とその変遷、農薬と肥料、稲作と水田開発の歴史、水資源とダム、農事暦、食文化、祭り、健康と栄養、人口問題・食糧問題等々様々なものが考えられる。
 課題や学習内容の検討に当たっては、教師だけではなく指導に関わる学校外の方々と一緒になって、どのような学習内容が考えられるかを出し合い、それらを整理すると一層広がりがあり深まりのある課題が抽出できるだろう。その後、それぞれの課題に関する情報や資料を教職員全体で日常的に収集し整理しておけば、それらは実際に指導計画を検討するときや子ども達の相談・支援に対して役立つであろう。
 各学校では、子ども達の実態、地域の特色、保護者の要望などを客観的な捉え、子ども達にどのような学力及び生きる力を付けさせていくのかを十分に検討してそれらを明確化すること、総合的な学習の時間のねらいにそった学習課題を整理すること、そして具体的な指導計画を作成し、どのような内容をどのように実践していくのかを明らかにすることが求められているのである。

 

2 総合的な学習の時間における環境学習の展開

(1)総合的な学習の時間における環境学習

 国立教育研究所が実施した小・中学校の教師に対する環境教育に関する調査(国立教育研究所:1998)によると、「学校における環境教育と言われたときに思い浮かぶ指導内容」は、小・中学校教師のどちらも上位3つは「地球的規模の環境問題」「人間と自然とのかかわり」「ゴミの分別やリサイクル活動」であった。従来の環境教育は、社会や理科などの教科や特別活動で指導されてきたことから、教師がこれらの内容を思い浮かべるのは当然のことであろう。すなわち環境教育とは、環境問題やゴミ・リサイクル問題に関する内容を扱うものであるという認識が強かったのである。文部省が発行した「環境教育指導資料」(文部省:1991、1992)では環境教育について「環境や環境問題に関心・知識を持ち、人間活動と環境との関わりについての総合的な理解の上に立って、環境の保全に配慮した望ましい働きかけのできる技能や思考力、判断力を身に付け、より良い環境の創造活動に主体的に参加し環境への責任ある行動がとれる態度を育成する」と述べている。ここでは知識だけでなく参加、行動、態度の育成の重要性を述べているが、環境教育の内容としては環境や環境問題を中心においていることがわかる。
 しかし、環境教育の概念・内容は、まさに総合的・横断的であるという特徴を持っており、多岐にわたり多様なのである。それらを整理すると自然環境、社会環境、文化環境に区分することができ、それらの概念・内容としては次のようなものを挙げることができる。

 これまでの教科指導等の内容に含まれる「地球的規模の環境問題」「人間と自然とのかかわり」「ゴミの分別やリサイクル活動」などは、学習指導要領でそれぞれの目標、各学年(または各分野)の目標及び内容が定められている。したがって教科等で行う環境教育は教科や道徳という制約があり、限定されたものにならざるを得ないのである。
 総合的な学習の時間における環境教育は、教科等における学びを基礎にして様々な課題に取り組むことが可能である。しかも、時間をまとめ取りすることが可能であり、活動場所を校庭等の教室の外だけでなく、学校の外に設定することも可能なのである。
 各学校では、各教科、道徳、特別活動との連携・協力を図りながら、総合的な学習の時間において体験的な学習を重視した幅広く多様な環境教育に取り組んでいくことが求められているのである。

(2)環境教育の視点

 第15期中央教育審議会第一次答申(1998)は、第3部「社会の変化に対応する教育の在り方」で環境問題と教育を取り上げている。その中では環境教育の改善・充実を図ることの必要性を述べているが、環境教育を進めていく上で、子ども達が体験活動を通して自然に対する豊かな感受性や環境に対する関心等を培う「環境から学ぶ」ということ、環境や自然と人間との関わりなどの理解を深める「環境について学ぶ」ということ、環境保全や環境の創造を具体的に実践する態度を身に付けるなどの「環境のために学ぶ」ということの3つ視点が重要であると述べている。
 自然体験や社会体験が豊富な子どもほど道徳感・正義感が身に付いているという調査結果がある(文部省:1998)。子ども達は、自然の中での遊びや動植物・水・土などとの触れあいを通して驚きや感動を体験し、豊かな感性が育まれるとともに多くのことを学ぶことができるのである。特に幼児期及び小学校低・中学年では、様々な自然体験や社会体験を中心とした活動を重点的に展開し、「環境から学ぶ」または「環境の中で学ぶ」ことを重視することが大切である。現在の子ども達は以前に比べて自然体験や社会体験が乏しくなっていると言われている。「環境から学ぶ」ことは、子ども達に「生きる力」の育成を図るための基盤づくりとしても極めて重要であると言えよう。
 小学校高学年から中学校段階では、子ども達の体験や教科等での体系的な学習を基礎にして、自然環境だけではなく社会環境や文化環境についての知識・理解を深められるような「環境について学ぶ」活動を展開することが必要である。特に、気象や動植物などに関する継続的な観察・調査活動や水質・大気などの環境調査活動、文化やくらしなどの各種野外調査などは、子ども達の発達段階に応じて時間的・空間的な広がりを持った活動として計画的に指導を発展させていくことが大切である。また、清掃センター・汚水処理場・リサイクル工場などの環境関連施設、発電所などの見学を通して身近な環境問題を直接的・経験的に学び、理解を深めるような指導も必要である。
 「環境のために学ぶ」活動は小学校高学年から中学校段階で計画的・意図的に展開することが必要である。環境教育では環境問題を知識として知っているだけではなく、自ら責任ある行動がとれ、持続可能な社会の創造に主体的に参画できる人の育成が求められていることを忘れてはならない。具体的な活動としては、地域の環境美化活動やリサイクル活動への参加、地域の環境保全活動に関するディベートや調査活動を行い、まちづくりや環境保全に対する具体的な提案をすることなどが考えられる。

(3)総合的な学習の時間における環境学習の条件整備

 環境教育の目的は、上述したように教科等だけでは達成できない。環境教育は総合的・横断的な特色を持ったものであり、総合的な学習の時間のねらいに合致している。学習指導要領の移行期における総合的な学習の時間の試行事例としては環境学習が最も多く行われている。本格的な実施においても環境学習を推進していくためには一層の条件整備が必要である。具体的には次のようなことが考えられる。

 総合的な学習の時間の実施に当たっては、校内の施設や人材だけでそれを行うのではなく、地域の自然や社会・文化の教材化、及び各種施設、人材などの活用や連携を図り、教育の場を幅広く捉えて教育活動を展開していくことが大切である。また、1校だけで条件整備することには限界がある。各学校で活用できる資料や情報は、市町村段階での指導資料の作成や中学校区を単位とした小・中学校合同の研修会・情報交換会の実施などによりお互いに共有することも必要であろう。

 

3 総合的な学習の時間のカリキュラム評価

 学校教育活動は、意図的、計画的であり、しかも組織的に行われなければならない。したがって、すべての活動は、計画(Plan)、実践(Do)、評価(See)という一連のサイクルを踏まえながら、子ども達のよりよい成長を目指したより優れた指導へと発展することが求められている。特に、総合的な学習の時間及び環境教育は、体系的に指導されてきた歴史のある教科等とは異なり、カリキュラム評価はこれから実際に行われる段階であると言える。これまでに行われてきた各学校での指導は、総合的な学習の時間のねらいに合致しているのか、環境教育の目的にそっているのかについて全教職員で検討する必要がある。更には各単元プログラムの内容、指導方法と教材の選定、教師の指導と支援の在り方、学校外の施設や人材との連携の進め方などについて再度評価し直してみる必要がある。それらを基に新しい指導計画を作成し、よりすぐれた実践へとつなげていくことが大切である。
 計画(P)、実践(D)、評価(S)のサイクルとそれらにおける視点の例を以下に示す。

計画(P)

実践(D)

評価(S)

 総合的な学習の時間、及び環境教育のカリキュラム評価は、教師だけではなく指導に関わった学校外の関係者や保護者及び子ども達も関わりながら総合的に行えるよう工夫したいものである。

 

4 おわりに

 環境教育は総合的・横断的な特色を持ったものであり、総合的な学習の時間は環境教育のためにあると言っても過言ではない。その環境教育は、教科の学習内容だけを扱うような幅の狭いものではなく、自然環境、社会環境、文化環境に関する内容を含む総合的・横断的なものであり、しかも国際理解や健康・福祉等の現代的な課題にも発展することが可能な内容であることが求められていると言える。環境教育はこれまでの教科教育等のような体系化がまだ不十分であり、多くの実践的研究を一層積み重ねて体系化を図ることが必要である。
 各学校においては環境教育のための様々な条件整備を進めるとともに、実践したカリキュラムの評価は、P−D−Sという一連のサイクルとして捉えて、幅広い視野から総合的に行い、より優れた実践へと発展させていくことが大切である。そのためには管理職のリーダーシップと教師一人一人の不断の努力とともに、それらを基本にした学校内での研修の充実が大切であることは言うまでもない。

 

【参考文献】

国立教育研究所(1998)環境教育のカリキュラム開発に関する研究報告書(II)
中央教育審議会答申(1998)21世紀を展望して我が国の教育の在り方について
文部省(1991)環境教育指導資料(中学校・高等学校編)
文部省(1992)環境教育指導資料(小学校編)
文部省(1998)子どもの体験活動等に関するアンケート調査結果
文部省(1998)小学校学習指導要領
文部省(1998)中学校学習指導要領
文部省(1999)高等学校学習指導要領

 

* 環境教育シンポジウム報告(II)は「体験そして感動−総合的な学習の時間における環境学習」をテーマとした。環境教育シンポジウム報告(I)は、環境教育研究紀要第2巻2号サプリメント(2000)とする。
** 国立教育政策研究所 教育課程研究センター

 

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