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研究報告

都市河川を対象とした環境教育教材の開発(II)

伊沢紘生*・渡辺孝男**・安江正治*・見上一幸*・國井恵子***・村松 隆*
・川村寿郎****・西城 潔****・斉藤千映美*

1 Abstract: The first step of environmental education is to let children learn from their own field experience or facts about nature, so that they will be able to relate any matters in the surrounding nature and local community to their own lives. We conducted a basic study objecting Hirosegawa and Natorigawa rivers, which are urban rivers close to a large number of children. In addition to the field study of water quality, ion composition, river sand, microorganizm, riverside fauna and flora, human utilization of the river, and so on, we collected references related to those aspects. Using the result of the study, we selected some areas of the rivers available for practical environmental education and aimed to develop programs of environmental education, by developing teaching materials and examining the applicability of the education through the internet.

Key words: urban river, Hirosegawa and Natorigawa rivers, school education, environmental education, teaching material development

 

1.研究の目的

 今日、環境教育の必要性が強く叫ばれていながら、学校教育に必要な教育の場の確保や、教材開発の研究は非常に遅れているのが現状だろう。
 環境教育の基本は、各自の優れた自然体験や学習体験に立脚しながら、身近な自然や地域社会のことがらを自分自身の問題として認識し、行動することである。このような自己体験型環境教育に適したフィールドの維持と、そこでの教材開発は、学校教育現場の教師や児童・生徒が積極的に参加できる形で実施されることが望ましい。
 仙台市内には、規模を異にする小学校・中学校・高等学校が多数存在するが、そこでの環境教育は、現在もまだ専門家の作成した紋切り型の教科書や副読本に沿って行われている場合がほとんどである。ところで、仙台は大都市でありながら、広瀬川と名取川が市街地を流れ、かつ、両流域は自然の生態系の複雑さを今も保持している。すなわち、日本人の心や文化を歴史的に育んできた「水辺」と「里山」が保全されているのである。もう一方で、両河川が水質汚染やゴミや排水など現代的環境問題を少なからず抱えていることも切実な現実である。
 本研究は、両河川に関する過去の厖大な個別的調査研究の資料を収集・整理し、両流域の自然と文化を、「水辺」と「里山」に注目しながら、流域の小・中・高校の教師と児童・生徒参加型のフィールド及び環境教育教材として開発しようとするものである。そして、本年はその2年目であり、そのためのコンピュータを使ったリアルタイム学習ネットワークや環境教育プログラム作りも視野に入れている。
 ところで、環境教育実践研究センターでは、その発足当時から、地域を生かしたいくつかのプロジェクト研究をスタートさせているが、本研究はそのひとつ、「仙台市内・広瀬川および名取川流域でのSNC構想の実践」の一環として計画され、実施に移されたものである。この研究を進めるにあたっては、財団法人・河川情報センターから、平成11年度河川情報センター研究開発助成の助成金を受けた。本報告は上記財団へ提出した平成11年度研究成果報告書に依拠している。

 

2.研究の方法および対象地域

(1)研究の方法

 本研究は大きくわけて二つの方法で実施した。その一つは、両河川およびその流域について、学校教育における環境教育の教材ということを視野に入れた自然科学的、人文社会学的基礎研究を具体的事象に焦点を絞って実施することと、それらに関連する過去の厖大な調査資料の徹底した収集と整理である。このような地道な調査と収集努力を通してしか、優れた環境教育フィールドの確保や、意味ある教材の開発はとうてい望めないからである。そのために、水質、地質、植生、水生動物、哺乳動物、社会資源等、それぞれの専門分野からの詳細な研究と資料の収集を継続して実施した。
 もう一つは、コンピューターを使って研究成果を画像データを組み入れたホームページとして公開可能な段階までもっていき、流域にあるすべての学校とのネットワークを通して、環境教育教材のデータベース自動生成プログラム群を開発することである。

(2)調査対象地域の概要

 広瀬川と名取川は、宮城・山形県境の海抜千数百m以上の奥羽背梁山脈に源を発する。両河川は東に向かって流れ下だり、海抜300〜400m以下の丘陵地に河岸段丘を形成し、広大な沖積平野を横切り、仙台市街地を通過した先で合流して太平洋に注ぐ。広瀬川は流路長40km、流域面積約310km2、名取川は流路長約42km、流域面積約940km2をそれぞれ有する河川である(図1)。
 両河川を有する仙台市は、年間平均気温11.9度、平均降水量1204mm(仙台管区気象台資料)、冷温帯から暖温帯への移行地帯にあり、太平洋岸的気候を示す。流域の植生は、舟形山の山頂付近のハイマツ群落から、亜高山性落葉広葉低木林、上・中流域のブナ林を代表とする落葉広葉樹林、中・下流域の常緑広葉樹林と多様である。流れに沿っても多様な植物群が発達している。大都市の中心部を流れる下流部と比べ、両河川とも上流部はきわめて自然度が高い。
 以上のように、両河川は源流部の原生森林地帯、上流・中流域の変化に富んだ里山環境、および全流域にわたる水辺空間を形成している。同時に、水道原水、農業用水、工業用水、発電用水、水産業などに広く利用され、流域住民の生活と密接な関わりを持っている。したがって、両河川とそれらの流域の自然と文化を環境教育の教材として理解していくことの意味は、非常に大きいといえる。

図1 広瀬川および名取川流域の概略図

 

3.河川中の指標の探索と水質
―広瀬川水質の流域特性について―

(1)はじめに

 河川のもつ特性を環境教育へ積極的に利用することを目的に、昨年度は、宮城県内の主要河川である広瀬川、名取川、および七北田川について、イオン分析を中心とした水質調査を行い、河川における水質の特徴とその教材化について検討した。
 その結果、いずれの河川も、主要なイオンとしてNa+、Ca2+、Cl-、SO42-が検出されたが、上流域から下流域にかけて顕著な濃度変化を示すことが明らかにされた。これらのイオンは、河川とその周囲の自然環境を強く反映し、したがって有効な環境指標になると思われる。
 今年度は、広瀬川に焦点をあわせ、広瀬川の水質の流域特性を詳しく検討することを目的に、その源流から下流までの各流域について、イオン濃度およびそれ以外の水質指標項目についても詳しく調査した。

(2)広瀬川の水質分析

 採水は、関山トンネル付近の源流、上流域として作並温泉(作並宿)と熊ヶ根橋付近(白沢)、中流域として愛子付近(滝の瀬)と牛越橋付近、及び下流域として千代大橋付近の合計6地点で行った。採水日としては、6月26日、7月24日、8月5日、9月9日、11月19日の合計5回行い、広瀬川水質の時期的変化も調べた。
 測定項目は、水温、pH、導電率、溶存酸素量、陽イオン(Na+、NH4+、K+、Mg2+、Ca2+)、陰イオン(Cl-、NO2-、NO3-、Br-、SO42-、PO43-)、及び硬度である。図2に測定結果を示した。

(3)広瀬川水質の流域特性

 指標項目の中でpHと溶存酸素量は、水中生物の棲息に関わって重要な指標となるが、流域により多少の変動を示すものの、上流から下流にかけて緩やかに増加することが分かる。これは、河川床を構成する塩基性岩の風化溶解と水生生物の光合成に由来したものと考えられる。
 広瀬川水中に含まれる主要イオンは、流域のちがいにかかわらず、Na+、Ca2+、Cl-、SO42-の4種類のイオンである。 Mg2+は上流から下流にかけて緩やかに増加するが、他のイオン濃度に比べるとかなり低い。イオン分析から見た広瀬川の特徴としては、次の3つをあげることができる。
(1)作並宿では、Na+、Ca2+、Cl-、SO42-のイオンに急激な濃度増加が認められる。
(2)一方、白沢ではこれらのイオン濃度が急激に減少し、この傾向はおよそ滝瀬まで続く。
(3)滝瀬より下流では、含有イオン濃度が増加していく傾向が認められた。
 ところで、広瀬川上流域では、作並温泉水の流入によって、そこから河川水質が大きく変化するが(たとえば硬度が増加する)、その後、支流水の流入によって温泉水成分は急激に希釈されていく。一方、中流から下流に至る流域では、上流域とは逆に、多くの支流水の流入や河川床と周囲の土壌成分の溶解によって、含有イオン濃度が増加していく。この変化は、図2に示すように、導電率や硬度の簡単な測定でも確かめられる。このように、広瀬川の上流域と下流域では、河川に及ぼす周囲環境の作用が異なっており、顕著な流域特性を示すことが明らかになった。
 また、6月26日と7月24日の測定結果を比較すると、観測値に大きな違いが認められる。6月初旬から下旬にかけては晴天日が続き、7月は初旬から下旬にかけては雨天日が続いた。雨天後の水質は、晴天時の水質と明らかに異なること(たとえば導電率や硬度)など、河川水質への天候の影響も顕著に現れることもわかった。

(4)環境教育教材としての広瀬川水質

 今回測定した各種水質データに基づいて、広瀬川の流域特性を検討した。源流から下流に至る地形地質的な違いによって、また、本流への支流の流入によって、河川水の質が大きく変化すること、河川周囲の天候の違いが流域の水質変化に大きく寄与することなど、広瀬川の自然に感応した流域特性を確かめることができた。この流域特性は、簡単な水質分析によって調べることができ、今回の水質調査への取り組みが、広瀬川とその周囲の自然環境学習の実践に大いに役立つことがわかった。

図2 広瀬川の水質分析結果

 

4.環境教育のための河川利用
―有機汚濁指標に関する考察―

(1)はじめに

 昨年度は、広瀬川を環境教育教材として利用する目的で、広瀬川に棲息する魚類と水生昆虫及び河川水質と河川周囲の大気環境に関する現地調査を実施した。その結果、広瀬川に棲息する魚類と水生昆虫の種類は、上流から下流にかけて大きく変化することが明らかになった。また、水中生物にとって重要な指標となる生物化学的酸素要求量(BOD)が、上流から下流にかけてゆるやかに増加することも確かめられた。このことは、生きものと水の関係を理解する上で、広瀬川の汚濁指標調査が重要であることを示している。そこで今年度は、水質汚濁指標の中で、学校教育の中でも容易に行える化学的酸素要求量(COD)の測定法を取り上げ、学校教育における教材化を検討した。

(2)有機汚濁指標の測定

 広瀬川に棲息する生きものと水質との関係を理解するのに、BODは適した指標である。しかし、BODを測定するには分析操作に熟練を要すること、結果を得るまでに相当な時間がかかることなどから、学校での取り組みを考えた場合、必ずしも有効な方法とは言い難い。一方、COD測定は、操作も簡単で結果を得るまでに長い時間を要しない。広瀬川のCOD測定については、今までに系統的に調べられた例がないので、広瀬川のBODとCODの相関を調べながら、広瀬川の実態把握を目的としたCOD測定の有効性を検討した。採水地点は、広瀬川源流として関山トンネル付近、上流域として、作並宿と白沢、中流域として滝の瀬と牛越橋、及び下流域として千代大橋の、計6地点である。

(3)結果と考察

 測定は6月下旬より11月まで行った。表1に各流域におけるBODとCODの測定結果を示した。いずれの指標値も源流から下流まで小さな値となっている。表1のBOD値とCOD値(公定法)を比べると、いずれの流域においても大きな差異は認めらない。したがって、汚濁指標としてCODを用いても広瀬川の実態を正しく解釈できることが明らかになった。また、表1の結果は、広瀬川が有機汚濁の少ない生物の棲息に適したきれいな水になっていることを示している。
 広瀬川本流へ多くの支流水が入り込み、本流の水量が多く、また地形的な特徴から流速が大きいため、仮に途中の流域で汚濁物質が混入しても浄化能力が大きく、結果として汚濁指標が低値に観測されたものと思われる。河川周囲の地形地理的要因が影響した広瀬川の浄化能の大きさがうかがえる。
 ところで、学校教育の中で、河川水の汚濁状況を簡易なCOD測定(パックテスト)で調べることがよく行われている。本研究でも公定法との比較のためにパックテストによる測定も試みた。パックテストによる測定結果(表1)は、いずれの流域においても低値を示しており、汚濁の少ない河川になっていることを示している。しかし、河川の特徴である流域特性は全く認められない。公定法による測定結果では、表1から分かるように、CODの流域特性は、特に中流域と下流域に現れており、その違いは小さくパックテストでは観測できない。このことから、広瀬川を環境教材として利用する場合、広瀬川を汚染という観点で取り上げることは難しいといえる。
 水生生物の生育に適した広瀬川の豊かな水環境を知る手がかりとして、また、自然浄化の仕組みと生きものとの関係を推察する手がかりとして、公定法によるCOD測定は有効である。

(4)まとめ

 今回は、広瀬川を環境教材として利用する目的で、水生生物の棲息に関わった水質としてCODの教材化を検討した。有機汚濁指標の中でCODは、自然環境の現状を定量化し解釈する上で重要な指標である。分析を行い結果を得ることも簡単である。しかし、単に「きれいである」という事実を知るだけでなく、自然のもつ自浄作用や水生生物の豊かな生態系まで思考するような活用の仕方を考えなければならないだろう。以上の観点から、現在、有機汚濁指標データに各流域に関する地形地理的情報を加え、学校教育で利用する河川情報データベースへの組み込みを行っている。

表1 広瀬川の有機汚濁指標

 

5.自然環境教材としての川砂の検討

(1)はじめに

 川に関わる自然環境教育のテーマの一つとして、川の動態と物質の移動に関する正しい理解があげられる。これに関連した小学校理科の学習単元(「流水のはたらきと作用」)では、河床堆積物の観察や計測も行われており、"川原の小石"を調べる内容がよく取り上げられている。しかし、上流から下流の全流域にわたって分布する砂(川砂)については、観察や計測がむずかしいこともあって、これまでの実践例でも、あまり取り上げられることがなかった。そこで昨年度より、小中学校の自然環境教材としてこの川砂を利用することを目的として、検討してきた。今年度は、昨年度に調査した広瀬川に加えて、名取川と七北田川の各流域でも調査を行い、より広域的に川砂の鉱物組成を比較しながら特徴を把握して、その成因を考察するとともに、調査結果に基づいて川砂の簡便的な調べ方を含めた授業案を作成した。

(2)方法

 仙台市街を流れる七北田川と名取川の最上流・上流・中流・下流の各流域で、昨年度と同様に、現地で堆砂状況を確認しながら、川砂の試料採取を行った。採取試料数は七北田川が計34、名取川が計58であり、両河川の川砂の多くが1998年8-9月と1999年3月の洪水時に運搬・堆積したものである。あわせて、昨年度検討した広瀬川の各流域(計43地点)の川砂も再検討した。昨年度と同様に、中粒砂にそろえた川砂を樹脂で封入した後に薄片とし、それを顕微鏡下で鉱物種と岩片種を判別して計数した。そして、各川または各流域の川砂の鉱物組成を比較するとともに、それぞれの川の各流域に分布する地質との対応を地質図などの既存資料を用いて調べた。

(3)結果

 検討した3つの川の川砂は、各川でそれぞれ特徴ある鉱物組成を示す。七北田川では石英と酸性(珪長質)火山岩類の岩石片や軽石片、広瀬川では酸性および中性火山岩類の岩石片と石英、名取川では酸性および塩基性(苦鉄質)火山岩類の岩石片が、それぞれ卓越する。一方、流域ごとに比較した場合、最上流・上流〜中流・下流のそれぞれで、類似した鉱物組成の傾向が認められた。最上流では岩石片が、上流〜中流では岩石片と石英が、下流では変質した岩石片と石英が、それぞれ卓越する。これらの特徴と各流域に分布する地質とを比較した結果、川砂の鉱物組成は、流域の地質構成を強く反映することが明らかとなった。そのため、川砂の多くは供給源から長距離の運搬移動を経ていないとみられる。特に、各川の流路に沿って分布する地層や岩石とよく対応することから、河床〜河岸の基盤地質の侵食によって川砂の多くが生産されていると推定される。また、下流域では、流域に分布する沖積層からの供給ばかりではなく、河床での風化作用による淘汰も、川砂の鉱物組成や砂粒の特徴となって現れている。

(4)考察

 今回の検討結果から、川砂の鉱物組成を調べることによって、川砂の生産にかかわる侵食、流路での運搬移動、および堆積とその後の風化という、自然の中での各作用がかなり推察できることがわかった。鉱物組成の中で、石英の量比は、各河川の流域で比較的差が大きく、侵食される基盤地質と風化作用の程度によって規制されるものと考えられ、川砂の特徴を表す重要な指標となる。堆積岩石学的にみた場合、石英は最も安定な鉱物であるため残存しやすいのに対して、長石類や岩石片などの粒子は、一般に水中での風化に伴って変質して粘土化し、その量比を減ずることが一般的に知られている。粘土化した物質は、より細粒なシルト〜粘土として浮遊懸濁して長距離を移動し、沈積した泥には、水中のイオンがより多く吸着されて濃集するとともに、微生物による分解が進み、河川での物質移動や水質浄化が行われている。こうしたことから、石英粒子の量比は、風化作用を示す指標として有効なものと言える。

(5)教材の開発

 上のような考察をふまえて、小学校理科での授業展開の一つとして、「川が水とともにさまざまな物質の移動する場所であることを理解する」ことをねらいとして、現地で川砂を調べて結果をまとめるような授業案を作成した。特に、現地で川砂の沈積による粒子のふるい分けと石英粒子の多さ(量比)を調べる方法として、ペットボトルなどを利用した器具を試作した。こうした授業案は、実際には、川の水質や微生物の調査と組み合わせることによって、川のもつさまざまな役割(機能)を総合的に学習する上で有効であろう。限られた授業時間の中で、どのような時間配分と展開をすればよいかについて、今後、実践を通じて検討する予定である。また、昨年度から引き続き、関連した授業での学習支援のために、砂粒の薄片の顕微鏡写真画像を収録しており、今回実際に分析した結果とともに、これらをインターネットで提供する準備をすでに開始している。

 

6.広瀬川中上流域の水系・土地利用と水質との関係についての検討

(1)昨年度の研究との関係

 河川流域内の地表面の状態すなわち土地利用(植生も含む)は、さまざまな水文学的プロセスを通じて河川への流出や土砂供給を規定し、さらに河川周辺での生物活動や人間生活に対しても影響を与えていると考えられる。したがって河川を中心に地域の自然環境や人間生活の特徴を理解しようとする場合、流域内の土地利用に関するデータを把握しておくことは基本的な作業の一つといえる。こうした観点から、昨年度は5万分の1地形図に記された情報をもとに、広瀬川中上流域における土地利用の現状及びその歴史的変遷に関するデータ収集を行った。その結果、戦後急速に進んだ各種土地利用形態の変化が、いずれも河川への流出や土砂供給を増大させる方向に作用したであろうことが推定された。
 しかしながら、以上の考察は、土地利用変遷に関するデータから演繹的に導かれた作業仮説であり、河川水や地形変化に関する具体的データにもとづいて、土地利用の影響が検討されているわけではない。そこで今年度は、流域内の水系及び現在の土地利用に関するデータを広瀬川本流の水質調査結果と比較することで、土地利用が河川水に及ぼす影響の一端を考察しようと試みた。河川の水質は、土地利用以外にも地形・地質・気象その他の諸自然的要因によっても規定されると考えられるため、土地利用の影響のみを他の要因と分離して論じることは困難であり、考察はまだ予察的な段階にとどまらざるを得ないが、今後さらなる検討を加えるに値するいくつかの知見を得ることが出来た。その内容について報告するとともに、それらの知見にもとづく環境教育教材開発の可能性についても考察する。

(2)広瀬川の水質と流域の水系及び土地利用

 水質調査のための採水を行ったのは、広瀬川本流沿いの6個所、上流側から順に関山・作並宿・白沢・滝瀬・牛越橋・千代大橋の各地点であるが、以下の検討においては牛越橋より上流側の範囲(図1を参照のこと)を対象とした。対象地域を中上流域に限定した理由は、郷六付近(滝瀬〜牛越橋間)より下流側では流域界の確定が困難となり、水系と水質との関係を検討することが不可能なためである。なお、水質調査地点は広瀬川の流路に沿ってほぼ7kmの間隔で設定されている。各地点で得られた水質調査結果を項目別に示したのが3章の図2である。その結果、以下のような特徴が認められた。
 作並宿では温泉水の流入によると思われる導電率・硬度・主要イオン濃度の上昇が認められる。これらの各項目は全体的に下流側の白沢・滝瀬へと減少の傾向を示すが、より詳細に検討すると以下のような特徴が読み取れる。まずNa+とCl-は作並宿〜白沢間において急減し、白沢〜滝瀬間で横這いないし微増の傾向を示す。またCa2+とSO42-についてみると、作並宿〜白沢〜滝瀬とほぼ一定した減少傾向を示す。また調査日による若干のバラつきはあるものの、導電率と硬度も作並宿〜白沢〜滝瀬間で減少傾向を示す。一方、滝瀬より下流側では、導電率・硬度・主要イオン濃度の増加傾向が顕著である。
 対象とした広瀬川中上流域には、主要な支流として上流側から順に新川川・青下川・大倉川・芋沢川の4河川がある。2章の図1に明らかな通り、新川川は作並宿〜白沢間で、青下川・大倉川は白沢〜滝瀬間で、芋沢川は滝瀬〜牛越橋間にて、それぞれ本流に合流する。この点を考慮すると、作並宿から滝瀬へかけての各項目の減少傾向は新川川・青下川・大倉川などの支流による希釈の効果を、また滝瀬より下流側での増加傾向は芋沢川による各種成分の付加の効果を、それぞれ示していると解釈できよう。すなわちこれら各支流は、広瀬川の水質形成においてたがいに異なる働きをしていると考えられる。
 なお白沢〜滝瀬間において、Na+・Cl- とCa2+・SO42-とで減少傾向にやや違いがみられることは、新川・青下・大倉の3支流による希釈の効果が一様ではないことを示唆している。新川川がいずれのイオン成分をも減少させているのに対し、青下川・大倉川についてはNa+とCl-の濃度を減少させる役割を果たしているとはいえない。またこれら3支流それぞれの流域面積を考慮すると、新川川からの流入量は、青下・大倉両河川からのそれの数分の一程度でしかないと考えられる。以上の特徴をもとに考察すると、新川川は少ない流量で本流の水を効果的に希釈しているのに対し、青下川・大倉川は流量の相対的多さにも関わらず、希釈に対する寄与の度合いが小さいと考えられる。
 以上のことから、広瀬川の水質に対して各支流はそれぞれ異なる影響を与えていることが予想される。水質という観点からみたこのような各支流の個性は、各支流域の地形・地質条件や土地利用形態の相違を反映している可能性が高い。それらのうちどの要因が特に重要であるかは現段階では明らかでないが、流域内の大部分が森林で覆われる新川川が顕著な希釈の効果を持つこと、流域内に比較的広い宅地・農地などの人為的土地利用空間を抱える大倉川や芋沢川があまり大きな希釈効果を持たない、または成分付加の効果を持つことなどは、土地利用と水質との密接な関係を示唆していると思われる。

(3)本調査結果をふまえた環境教育教材開発の可能性

 広瀬川の水質を決定する上で各支流がどのような役割をはたしているのか、各支流の性格の違いを規定する要因は何かといった点を解明するには、今後さらに詳細な検討を加える必要がある。しかしいずれにせよ、河川の水質が空間的に大きく変動すること、その変動には自然環境から人間活動までを含む流域内の諸条件が密接に関係していることは間違いない。簡略化した水系図により水循環の仕組みを理解させると同時に、流域内土地利用図や、水系と対応づけられた水質データをわかりやすく提示することにより、河川流域における自然・人文諸要素の関わり合いを理解させるための、すぐれた環境教育教材が開発可能だろう。

 

7.微小生物を観察するための補助教材開発

(1)はじめに

 川の浄化作用を考えるには、一般的に行われているプランクトンネットによる調査だけでは不十分で、ネットを通過してしまうようなより小さな微小生物の観察が重要である。しかし、そのために学校で使える水中微小生物検索のための適当な資料がない。そこで、すでに広瀬川流域を含む水田の微小生物を記録し、データベース化して作成されたCD-ROM「微小生物図鑑」を、川の微小生物にも活用できるようにするため、広瀬川で採集された微小生物の画像および映像を加えて、新たなものを作成した。

(2)方法

 本調査では、(1)河川を中心とした「水の中の小型生物」の画像および映像のファイルを作成し、開発ソフト「グリーン」Green1.042を用いて、データベース化した。(2)広瀬川および名取川流域の中から、水中の小型生物に関心を持つ学校の協力を得て、観察された小型生物のサイバー図鑑への登録を行うなど、学校間の連携が図れるシステムの開発を試みた。微小生物の採集は、冬季も含めて一年を通して行い、場所としては主に広瀬川中流域である、澱橋付近、三居沢地内及び愛子地内で行った。

(3)結果と考察
a)CD−ROM「微小生物図鑑」設計の基本的な考え方と構成
   このCD−ROMには、河川および水田の50種を超える水中の微小生物種について、動画を含むマルチメディア型画像ファイルを収め、データベース化した(図3)。第1画面(メイン)には、「水中微小生物図鑑」、「代表的な微小生物」、「微小生物の飼育」、「簡単な観察・実験」、「顕微鏡の使い方」、の5項目の選択画面を入れた(図4)。
 「水中微小生物図鑑」は、マウスでパソコンの画面上の絵を選択すると、生徒たちが野外から採った水を検鏡したときに見つけるだろう代表的な50種の生物の画像が現われる。これらから、形や色など自分の観察しているものに最も近いと思う種の写真をマウスで選択する。すると、その仲間の写真が数枚載った次の画面が表示される。ここには、図鑑画面の50種の生物の内、同じグル−プに属する生物種がまとめられている。例えば、ツリガネムシの項目をマウスで選択すると、「ゾウリムシとその仲間」ということで、図鑑画面の生物の中の繊毛虫だけが集められたグル−プ画面が現われる。ここで生徒は図鑑画面の中のどれがゾウリムシの仲間であるかを知る。このグル−プ画面の中からさらに近いと思われる種の画像をマウスで選択すると、はじめてどういう生きものかの説明が現われる。説明画面での生物の動きは検索上で重要であるとともに、遊泳行動や捕食行動などは、水中の生命の姿を知る上で生徒の学習意欲を高める動機づけにもなる。これは従来型の書籍教材にはない利点である。本調査研究によって、水田の微小生物を中心とした過去のデータベースに広瀬川で採集された微小生物を加えたことで、淡水系の微小生物データベースとしてより完成度の高いものにできたと考えている。
b)教材の不足を補完するための教材としての有効性
   今回、水中微小生物のCDを作る上では、特に動画が重要であった。動画情報を入手することによって、水中の生命の姿を知ることができるはずである。微小生物の動きは検索上で重要であるとともに、遊泳行動や捕食行動などは、生徒の、とくに自然に関わる学習意欲を高める動機づけになる。従来の書籍教材では、生物の動きを示すことは不可能であり、ビデオでは頭出しが難しく操作性が悪い。この点、CD−ROMを使ったマルッチメディア型教材は両者の欠点をカバーしてくれる。
 現在、生きた生物を通して教えることの大切さが、いろいろな意味で増している。ビデオなど視覚教材が発達した時代に「生きた生物を使って教える」ことがますます重要になってきている。コンピュータ画面での疑似体験をもって実体験に替えるのではなく、このCDを補助教材としての図鑑とし、そのあと実際に広瀬川に行って「生きている場での生物の観察」をすれば、環境教育上の効果も著しいと考えられる。今後はさらに情報量を増やし、学校からインターネットで検索できる時代に備えて一層のデータファイルの充実を図るとともに、教師が教材作成に必要なデータベースの構築も視野にいれている。
c)広瀬川の微小生物調査の意味と今後の発展
   広瀬川で見られた微小生物には子ども達にとっても興味深いものが多かったが、例えば渦べん毛虫であるツノオビムシなどがある。また、珪藻などは川底の石の表面にたくさん付着して、これらが原生動物や水生昆虫の餌にもなっていることを理解させるのに有効である。
 我々は、有機汚濁水に広瀬川の川底の濡れた小石を入れた場合には、有機汚濁水をそのまま静置した場合と比べて、浄化作用が著しく働くという実験結果を得ている。この浄化過程に見られる微小生物の消長を、今回作成したCD−ROMを用いて検索する環境教材開発を目指している。幸い広瀬川は強富水域の生物相を示すところはなかった。今後は、活性汚泥等に含まれる強富水性の微小生物を加えることによってより完成度の高いものにしたいと考えている。
図3 構成フロー 図4 CD−ROMメイン画面

 

8.広瀬川流域における生物観察を題材とする野外環境教育の実践と分析

(1) はじめに

 広瀬川流域内の学校を対象とする昨年度のアンケート調査で、川を利用した環境教育の実施を希望する小中高等学校が全体の8割以上を占めること、しかし基礎資料の不足などから実施にいたっている学校が1割に満たないことがあきらかになった。今年度は広瀬川に焦点を絞り、生物教材を利用した自然観察の方法と可能性を整理した。

(2) 広瀬川の水質分析

 広瀬川流域の生物の分布状況と生活史上の特徴を踏まえて、日帰りの自然観察会で可能な観察項目を整理し、実践した指導の方法を検討した。

(3)結果
a)広瀬川流域における生物の分布
   広瀬川の生物相に関して、上・中・下流部に分けると、以下のような違いが認められる。まず哺乳類相、林内の鳥類相、また昆虫相、植物相は圧倒的に種数・個体数ともに、上流のほうが豊かである。しかし、水中の魚類、干潟の鳥などは、下流の方が種数が豊かである。両生類、爬虫類は上流の方が種数が豊かであるが、中・下流域でも田畑があればよく見られる。
b)生物観察のための自然観察会
   河川の生物相は、上記のように上・中・下流部で異なり、また自然観察に適する場所は地形的に限られている。今回は、豊かな生物相が見られること、また安全面の配慮から、広瀬川上流部の青下川、奥新川を選んだ。
 実施した自然観察会の概要は表2の通りである。第一回、第三回では、下見を十分に行い行程を大まかに決めたが、当日は出現する生物や参加者の興味などに指導員が柔軟に対処した。第1回の観察会では、参加者は川辺の生物を捕え、観察した。川の深さはひざ上ほどだったが、参加者の多くが頭まで水につけて楽しんだ。第3回の観察会も同じ地域で行った。同地域では冬の間、生物観察のための教材は夏に比べてはるかに多様性に乏しい。しかし、ニホンザルの観察やかんじき作りなどが珍しく、好評だった。第2回の観察会は、コウモリの足輪調査に参加するという目的に沿って行った。コウモリを見たことがある参加者はほぼ皆無で、好評だった。すべての観察会で、その時期の生物教材について観察ガイドをまとめ、あらかじめ配布した。
(4)考察

 川辺は水を求めて生物が集まる場所であり、豊かな生物相を観察するためには望ましい場所である。観察会で出現する生物は、文献調査で季節ごと、地点ごとに事前にリストアップすることが可能であった。また事前に現地を訪れたため、その場所の持つ潜在的な教材を探り出すことができた。さらに、生物が観察しにくい冬期でも、雪を楽しむかんじき作りが好評であったように、アイディアがあれば生物の少ない季節でも自然を楽しむことが可能であることがわかった。
 観察会終了時に、参加者に感想を書いてもらったが、好評だったのは体を動かした体験(雪山でサルを追跡観察した、カエルを捕まえたなど)と、目にした生物から直接得る印象のようであった。それにひきかえ伝授した知識そのものや作成した観察ガイドはあまり印象に残らなかったようである。生物の生息する場でしかできないこと、すなわち「発見する」「自分の手で捕まえる」「直接見て、触れて、先入観のない見方を形成する」などは、自然観察の基本であるが、子どもにとっても最も楽しいことだったのである。これらのことを、子どもたちが誤った方向にそれず楽しめるよう補助するのは指導員の役割である。そのためには、対象となる生物の分布や生態についてよく知っていることより、むしろ自分で見つけ、捕まえて観察する楽しさを知っていることが求められる。
 こうした「体験」型の自然観察会の意義は、他の経験では補いがたいものである。

図3 構成フロー 図4 CD−ROMメイン画面

 

9.広瀬川・名取川流域の哺乳類相と教材化への検討

(1)はじめに

 背梁山脈の東斜面に端を発する広瀬川と名取川の両河川の源流域は、落葉広葉樹林が広域をおおい、そこには多くの野生動物が生息している。だが、それらを子供たちが、学校教育の学外授業として観察する機会は全くといっていいほどない。アプローチが遠いこと、地形が急峻なこと、しかも出会える保証がないからである。家庭教育の中でそれを望むことはさらに困難だろう。
 しかし、環境教育の中で、多様性に富んだ自然の中での体験学習(自然学習)は、年齢が低ければ低いほど重要であることは言を待たない。真の野生に接した時の心のうち震える感動の積み重ねこそ、彼らが将来、さまざまな環境問題へ立ち向かう最大の動機たりうるからである。その意味で哺乳類は最もすぐれた教材といえる。本調査の目的は、相矛盾するこれら二点を融合させ、学校教育に生かす方策をさぐることにある。

(2)結果と考察
a)両水系の源流域と上・中流域の動物相の比較
   両水系の源流域について、動物相の調査がこれまでに数多くなされている。筆者も哺乳類や鳥類について約20年間、フィールド調査を継続してきた。しかし、子供たちへの自然観察会を春から秋に、宮城のサル調査会(NPO)と共同して何回も実施したが、木々が茂り野生動物を直接観察できたことはけっして多くない。本調査では、積雪期(晩秋から早春)に源流部の足跡調査を繰り返し実施したが、その期間はすべての動物について個体数が上・中流域に比べ少ないことが判明した。
 上流域の調査では、川辺と尾根との比較を試みた。その結果、カモシカとウサギは両方で大差なかったが、キツネ、テン、サル、イタチ、リス、ネズミ類、タヌキ、ハクビシンの足跡は、上流域の川辺でしか観察されなかった。また、それらすべての動物の足跡は、中流域でも確認された。このことから、多くの動物が春から秋にかけては源流部の「奥山」で生活し、積雪期になるとより下流部の「里山」や「里」に下りることが明らかになった。その結果をもとに、宮城教育大学附属小学生を対象に本年2月に自然観察会を実施し、予想以上の成果を上げることができた。雪上の足跡の観察を開始するにあたっては、まずカンジキを全員に木の枝で作らせたことも大きな効果を上げた。
b)動物種ごとの調査結果
   上記哺乳類のうち、「昼行性」かつ「群れ」で生活する種はサルのみである。この二つの特性が自然教育にきわめて有利なことは金華山での自然学習で実証済みである。そこで、サルの群れの数、頭数、積雪期の遊動域を調査した。その結果、9群の生息と群れごとの頭数、利用地域、人への馴れ具合等の詳細が明らかになり、子供たちをサルの群れに簡単に出会わせる目途も立った。しかも、もっとも下流に生息する群れには宮城のサル調査会によってテレメーターが装てんされているので、電波を受信することで簡単にその所在を突き止めることができる。昨年2月に小学4年生を対象に実践したが、やはり雪深い中での野生のサルの直接観察は、子供たちを引きつけて止まなかった。
 サル以外の哺乳類は基本的に単独行動者である。本研究では、日中に活動するカモシカの追跡調査やリスの観察地点の選定を行った。また夜行性の動物は、足跡調査のほか、夜間に林道を車で走り、直接観察の可能性をさぐった。この手法による2年間の夜間調査(計20回)で、ハクビシン8頭、キツネ5頭、タヌキ12頭、テン4頭、ウサギ14頭、イタチ7頭を目撃できた。そこで強力なライトを使用した観察方法を検討中だが、少人数でないと困難な点の克服が今後の課題である。
(3)まとめ

 生態系としての「水辺」とその背後の「里親」の持つ重要さが、とくに都市河川で指摘されはじめているが、以上の調査結果や考察から、インターネットを使った事前学習と、野生動物の直接観察を通して、子供たちが川の持つ意味を深く考える道が確実に開けていくと確信できる。

表2 自然観察会の概要

 

10.利用者参加型の環境情報データベース管理ソフトウェアの開発と改善

 昨年度は、本研究の成果を環境教育教材の形でネットワークを介して活用できるデーターベースを管理運用するためのソフトウェアを開発し、「環境情報データベース管理ソフトウェア」として公開した。今年度は、本学の教育学部の学生、大学院生たちが参画する形でこのソフトウェアを利用し、評価を行った。その評価を参考に、使いやすさと、ソフトウェアとしての汎用性の点から改善を行った。
 環境情報は、一部の地域に閉じた事柄に限るものではなく、各地域の状況の比較と、その地域固有の特性の理解の上に構築される性質のものである。そのためには、環境情報データベースは、単に閲覧されるだけでなく、利用者が自分たちの観察し体験した内容を構築できる機能を備えているべきである。この意味で、利用者参加型の環境情報データベースは、教育分野から強く求められてきている。その期待に応えるべく、開発したソフトウェアは、環境教育教材として有用なホームページのリンク集を投稿形式で自動生成する機能をより使いやすくするため、以下のように改良した。
 投稿者の寄与と責任を明示できるように、投稿欄に投稿者の氏名とメールアドレスを入力できるようにした。単にデータを投稿するだけでなく、データベースの運用に関わる意見を管理担当者に伝えることができるように「メッセージ送信欄」も設けた。
 これらの点で改良された画面のサンプルを図5に示す。また、生成されたリンク集の主画面と、項目別の副画面の例を図6、7に示す。これらの図から分かるように、画面構成はホームページ形式の標準的なものであり、子どもたちにも使いやすい構成になっている。図1で入力する投稿者の氏名とメールアドレスは、個人情報の性格を有するので、この部分は管理者が閲覧する管理ファイルにのみ格納するようにし、公開を目的とする図3の画面には表示しない配慮を施した。
 また、このソフトウェアは、本学の情報処理センターのファイルサーバ上で運用している。使用した言語はシェルスクリプトであったが、他のサイトへの移植に適した、より汎用性の高いPerl言語による記述に変更した。この改良により、各地域の教育機関が管理するコンピュータシステムにも導入しやすくなったといえる。
 最近、教材データベースは、ビデオ画像を取り入れ、よりリアルな事例をホームページを介して伝えることができるようになってきている。本データベースは、そのようなビデオ画像のデータも参照することが可能であり、ネットワーク上に公開される教育教材データベースとして、教育分野への活用が期待されている。

図5 リンク集生成のための投稿欄の例 図6 図5の画面から生成されたリンク集の主画面
 
図7 図6の主画面から呼び出される項目別リンク集の画面の例

 

11.全体のまとめ

 環境教育が「総合的な学習」の一つとして積極的に取り組まれ始めている学校教育現場では、他のすべての教科と同様、いまだ従来型の一方的な知識(ないし情報)の詰め込み教育という枠から抜け出せないでいるのが現状である。環境教育に必要な、好適なフィールドの確保と生きた教材開発の研究が非常に立ち遅れているからである。
 ところで、環境教育の出発点は子供たちがそれぞれの自然体験や体験学習に立脚しながら、身近な自然や地域社会のことがらを自分自身の問題として認識し行動することである。その意味で、大都市に生活する多くの子供たちのごく「身近に存在する」都市河川ほど、環境教育の生きた教材として優れたものはないだろう。水および水辺こそ地域の自然と歴史と文化を育んできた源だからである。
 そしてもし、都市河川がそこに住むすべての子供たちにとって真に「身近な存在」になったとき、はじめて我々は、環境教育の未来を確かに展望することが可能になるはずである。
 本研究では、政令指定都市仙台市の中央部を流れる広瀬川と名取川およびその流域を、環境教育のための教材開発の研究対象とした。そして、環境水という視点から両河川の水質やイオン等について経年変化の調査を行った。同時に、それらに関するいくつもの研究機関の個別の調査結果も収集し整理した。水中にすむ微小生物や水生動物についても調査し、一方でその調査結果のCD化を試みた。また、両河川の水辺の生態系の調査を実施し、これまでの厖大な資料を収集し・整理することを併せ、水辺という多様性に富んだ自然を学校教育の中の学外授業の教材およびフィールドとしていかに活用したら良いかの検討も行った。その際、環境教育のうち、とくに対象とする学年が低学年であればあるほど、実物教育の効果は絶大であり、かつ昆虫類や鳥類より哺乳類をじかに観察させることの効果は大きいので、その実現の可能性を探った。調査結果から、これまで学外授業は春と秋に重点的に行われてきたが、広瀬川や名取川の水辺を、教育フィールドにするには、積雪期に焦点を絞ることで新たな展開ができることの確証を得、実践を試みた。また、水辺はこれまで日本人の文化を育み支えてきた最重要な自然であり、人が水辺と関わってきた諸々の歴史の中で、何を環境教育の教材として選んだら良いかについて、古地形図を使用することの有効性を明らかにすることができた。
 以上のような、諸種の調査結果にもとづいた実物教育という視点とは別に、都市河川を対象とした環境教育を学校教育の中で実施する場合、もう一方で、現在学校現場で普及しつつあるコンピューターをいかに効果的に使用するのも重要な視点である。
インターネットを通じて、それぞれの学校で子供たちが好きな時間に好きなだけ河川に関する情報を入手できるデータベースを整備することが必要だし、個々の学外授業の事前指導として十分な情報を的確に提供できる、各研究分野ごとにテーマを絞った環境教育教材化やプログラム化も必要になってくる。本研究では、単にフィールドに子供たちを案内しての直接的な環境教育にとどまらず、それをいかに教室の中の授業と密接に連結させることができるかという点にも鋭意取り組んだ。そして試作した。
 ところで、都市河川を対象にした環境教育を考えるとき、とくに学校教育のための教材化という視点に立ったとき、自然と文化とを問わず、多くの学問分野において現在強い注目を集めている「水辺」と、その延長線上にある「里山」という二つの生態学的概念を、環境教育の主要概念として常に念頭に置きながら取り組んでいく必要があるだろう。本研究は、時間的制約もあってまだ個別的すぎるきらいはあるし、学校現場への教材としての還元もまだ不十分である。ただ、本研究を通して確実に言えることは、子供たちのごく身近にある「水辺」と「里山」を、子供たちのごく身近な存在へと転換させる確かな一歩を踏み出せたということである。

 

謝辞

 本研究は財団法人・河川情報センターからの研究助成金を得て実施された。深く感謝する。
 また、本研究のような、多くの学問分野に関わる基礎的な調査研究を実施し、かつ、とくに小学校・中学校の学校教育における総合的な学習としての環境教育に資する教材開発を試作したり実践するとき、じつに多くの関係研究機関の研究者や関係教育機関の教育者からの御支援や御協力を必要とする。本研究でも、あまりにも多くの方々にお世話になった。ここで御芳名をあげるのは省かせていただくが、それらすべての方々に深甚なる感謝の意を表する次第である。
 さらに、本研究では、宮城教育大学の多くの学生諸氏からの多方面にわたる御協力も受けた。あわせて心からの謝意を表したい。

 

参考文献

仙台市史編さん委員会;仙台市史 特別編1 自然,仙台市,1994.
仙台市衛生局環境公害部:昭和46年版 仙台市の公害,仙台市衛生局,1985.
仙台市衛生局環境公害部:昭和63年版 公害関係資料集,仙台市衛生局,1988.
仙台市環境局環境部:平成5年度 仙台市の環境,仙台市環境局,1993.
仙台市環境局環境部:平成9年度 仙台市の環境,仙台市環境局,1998.
平成10年度 仙台市の環境,1999.
平成11年度 仙台市の環境,2000.
仙台市下水道局建設部計画課:仙台市公共下水道基本計画,仙台市下水道局建設部計画課,1994.
仙台市環境局環境部環境対策課:仙台市水環境保全計画策定のための調査報告書,仙台市環境局,1997.
宮城県環境生活部環境政策課:宮城県環境基本計画,宮城県環境生活部環境政策課,1997.
宮城県環境生活部環境政策課:平成9年度 宮城県環境白書資料編,宮城県環境生活部,1998.
日本動物大百科 1〜10巻 平凡社,1998.
原色昆虫大図鑑 1〜3巻 北隆館,1973.
日本の野生動物 1〜6巻 平凡社,1981.
フィールドガイド日本の野鳥 高野伸二 日本野鳥の会,1995.

 

* 宮城教育大学 環境教育実践研究センター
** 宮城教育大学 生活系教育講座
*** 宮城県仙台市科学館
**** 宮城教育大学 理科教育講座
***** 宮城教育大学 社会科教育講座

 

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