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研究報告

ケナフ木質部の教材化の試み
−土壌改良剤としての評価−

岡 正明*・今泉宜亮**・坂本新太郎**

Abstract: Kenaf is a member of the Malvaceae family and is cultivated as an annual fiber crop. Recently, kenaf became to be used as teaching materials for environmental education. The stalk of kenaf consists of a bast and a core. Kenaf paper is usually made from stalk bast fiber, and a stalk core is hardly used because of the difficulty of making fiber. In this study, we evaluated the stalk core as soil conditioner and tried to use a kenaf stalk core as teaching materials for agricultural education and environmental education.

Key Words :Kenaf(ケナフ), Environmental education(環境教育), Teaching materials(教材), Stalk core(木質部), Soil conditioner(土壌改良剤), Agricultural education(栽培教育)

 

1.はじめに

 ケナフはアオイ科の一年生作物であり、古くから繊維作物として利用されてきた。作物学的には靭皮繊維作物に分類され、10a当たり100kg前後の繊維が収穫できる(佐藤他 1983)。近年になって、ケナフの繊維から紙を作る技術が確立し、アメリカ・オーストラリア・日本などで、パルプ生産が企業化されている。(小林 1998)。
 最近、このケナフが、環境教育の教材として注目されるようになった。茎から取り出した繊維で紙すきを行うことを中心に、ケナフの様々な特徴を生かした教材化が試みられている。前報(岡 2000)で紹介した報告以外にも、ケナフ繊維の卒業証書作りやケナフ染め(日野 2000a)、ケナフ料理(居川 2000a)、小物作り(長沢 2000、居川 2000b)、ケナフをテーマとした情報教育(荒木 2001)などが提案されている。また、日野(2000b)は、ケナフを通して生徒に地域とのつながりを考えさせる実践を紹介している。小学校の「総合的な学習の時間」でも、ケナフを用いた学習が試みられている(文部省 1999)。
 教材としてのケナフの価値は、生徒に以上のような体験をさせるだけではない。これらの体験を通して、パルプ原料として消費されている森林資源の重要性とその保護、さらに二酸化炭素濃度上昇にともなう地球温暖化について、生徒に考えさせることが目的である。脇谷(2000)も指摘しているように、教師自身が環境教育を正しく理解し、ケナフ栽培を通して子どもに何を学ばせるかを明確にした上で、ケナフを教材として用いることが重要である。
 ところで、前述のように、ケナフの紙すきはたくさんの小・中学校で実践されているが、多くの場合、靭皮部から繊維を取り、紙すきを行っている。ケナフの茎は、外側の靭皮部と内側の木質部からなっており、靭皮部は比較的長い繊維、木質部は短い繊維を含んでいる。木質部から繊維を取る場合は圧力釜で煮るなどの操作が必要(木崎 2000)であり、靭皮部からの繊維取りと比較し簡単ではない。ケナフの紙作りに関する文献でも、主として靭皮部からのパルプ作りが紹介されている(千葉 1999、非木材紙普及協会 1996)。ケナフから紙をつくる実践を行っている学校の中にも、木質部の処分に困り、ゴミとして出しているところもあるということである。
 本研究では、紙の原料として使いにくいケナフの木質部を、栽培学習の教材として使用する可能性について検討した。具体的には、ケナフ木質部を用いた炭焼きと、炭および木質部チップの土壌改良効果の検討を行った。
 炭焼きも、また、注目されている教材である。神谷(1999、2001)や佐藤(1999)は炭焼きの教育効果を述べており、簡便な炭焼き方法を紹介した文献もある(鶴見 1999、2000)。
 ケナフ木質部の炭焼きについても、室内で簡便に行える炭焼き方法(千葉 1999)や、ドラム缶窯を用いた大量炭焼き法(木崎 2000)などが提案されており、できた炭は土壌改良剤になるとの記載もある(非木材紙普及協会 1996)。また、乾燥した木質部そのものもゆっくりと分解される多孔質の有機物であるので、土壌改良効果があると推察される。
 本実験では、まず、ケナフ木質部を用いた室内での炭焼きを試み、教育現場で実施する際の注意点を検討した。次いで、炭を細かく砕いたものと木質部を細かくしたチップを作り、これらを混ぜた土でヒマワリ・ケナフを栽培して、炭・チップの土壌改良効果について調査した。
 なお、本研究では学校教材で用いることを前提に、プランターを用いた栽培実験を行った。また、これらの実験は2000年に行った。

 

2.材料および方法

【供試材料】

 1999年栽培し、乾燥状態で保存しておいたケナフの茎から靭皮部を取り除き、木質部のみを集めて実験に用いた。
 1999年のケナフ栽培には、「サカタのタネ」から購入した種子を用いた。この種子は、前報(岡 2000)で示したように、上位葉が切葉の”キューバケナフ(Hibiscus cannabinus L.)”と、上位葉が丸葉の”タイケナフ(Hibiscus sabdariffa L.)”の混合種子である。本実験では、これら2系統を区別せずに木質部を集め、実験に供した。また、実験2で栽培したケナフも同じ種子を用いており、ここでも2系統を区別せずに調査を行った。なお、前報の実験により、短期間の栽培であれば2系統の生育差は小さいことが確かめられている。
 実験2で用いたヒマワリの種子は、「アタリヤ」から購入したものを用いた。品種名はなかったが、大輪一重咲きの一般的なヒマワリであった。

【実験1:木質部の炭焼き】

 実験室内の炭焼きは、「ケナフの話」(非木材紙普及協会 1996)の方法に従った。適当な長さに切った木質部を1本ずつアルミホイルで筒状に包み、両端を少し上に折ってから、焼き網にのせてコンロで15分程度焼いた(弱火)後、流水でゆっくりさます、というのが、紹介されていた手順である。本実験では、アルミホイルに包む木質部の本数、木質部の長さ・太さ、焼く時間についての検討を行った。

【実験2:土壌改良効果】

 実験1で作った木質部の炭を袋に入れて木槌でたたき細かく砕いたものと、乾燥した木質部をガーデンシュレッダー(トップマンHG1500)で粉砕したチップとを用意した。畑土にこれらを混ぜた土壌でヒマワリとケナフを栽培し、木質部の土壌改良効果を調査した。比較として、土壌改良効果のある有機物である腐葉土を混ぜた試験区も設けた。
 肥沃でない畑から取った粘土質の土を乾燥・粉砕し、5mmの篩を通したものを基本土壌とした。プランター(長さ60cm×幅15cm×深さ14cm、排水穴あり)の底に、赤玉土(中粒)を1kg敷き、その上に木質部の炭・チップを加えた以下の5種類の土を入れた。木質部チップについては、加える量を変えた2試験区を設けた。加える炭と木質部の肥料効果を除き、土壌の物理的改良効果のみを調査するために、各プランターには十分量と考えられる8-8-8化成肥料(N,P2O5,K2Oがそれぞれ8%ずつ含まれる)30gを施用した。
 土壌1:畑土8kg+化成肥料30g
 土壌2:土壌1+木質部の炭500cc
 土壌3:土壌1+木質部チップ500cc
 土壌4:土壌1+木質部チップ1500cc
 土壌5:土壌1+腐葉土500cc
 7月12日、各プランターに播種後1週間のヒマワリ・ケナフの幼苗5個体をほぼ等間隔に移植し、温室で管理した。1試験区は、プランター1つ(5個体)である。なお、日照の影響が出ないよう、1週間毎にプランターの位置を変えた。栽培期間中は、継続して草丈の変化を調査した。
 移植38日後の8月19日に、植物体を根元から刈り取り、葉・茎に分けて通風乾燥機で乾燥後、それぞれの乾物重を測定した。なお、土壌2の実験は、ヒマワリについてのみ、行った。

 

3.結 果

【実験1】

 炭焼きの様子を、図1に示す。アルミホイルで木質部を包み(図1A)、焼き網にのせ家庭用コンロ(弱火)で焼くと(図1B)、内部まで完全に炭化した炭ができた(図1C)。いくつかの条件で試行し、室内で炭焼き実験を行う際に注意すべき、以下のような点を認めた。
(1)焼く時間:本実験の条件では、15分では完全な炭とはならず、焼く時間は18〜20分が適当であった。
(2)アルミホイルに包む本数:5本程度をまとめて包んでも、問題なく炭になる。ただし、木質部を束ねると内側のものが十分に炭化しない場合があるので、重ならないように木質部を並べて包む必要がある。
(3)木質部の長さ:供試する木質部が長すぎると、両端まで十分に炭化しない。長い場合は、全体が均一に炭化するよう、焼き網上で頻繁にアルミホイルを動かせばよいが、失敗も多い。家庭用コンロの場合は、木質部を20cm程度、あるいはそれ以下に切りそろえた方がよい。
(4)木質部の太さ:複数本の木質部をまとめてアルミホイルに包む場合、木質部の太さはそろえる必要がある。あまり細いものよりも、やや太い木質部(直径2cm程度)の方が失敗が少なかった。
(5)炭焼き中は、かなり強い臭気が発生する。本実験では、窓を開放した実験室内で炭焼きを行ったが、実験後2〜3日は、室内に臭気が残った。室内で炭焼きを行う際は、炭焼き中およびその後の換気に十分注意する必要がある。

図1 ケナフ木質部を用いた炭焼き
A:アルミホイルで木質部を包む
B:魚焼き網にのせ、コンロで焼く
C:木質部で作った炭
【実験2】

 図2・図3に、栽培期間中のヒマワリとケナフの草丈変化を示す。データは、いずれも1試験区5個体の平均である。ヒマワリでは、移植後20日までは試験区間の差はほとんどなかったが、刈り取り時には、木質部チップを加えた土壌3・土壌4で、他の区よりもやや大きな草丈を示した。しかし、その差は小さかった。ケナフでは、生育期間を通して、4つの試験区の間に草丈の差異は認められなかった。
 表1に、刈り取り時における茎・葉それぞれの乾物重を示す。データは、1試験区5個体の平均である。ヒマワリでは、茎については土壌2で、葉については土壌4で、他の試験区と比較しやや小さな値を示したものの、全体としては試験区間の差異は小さかった。ケナフについては、木質部チップを多量に加えた土壌4で、茎・葉とも他の試験区より小さな乾物重を示した。それ以外の3試験区は、ほとんど差がなかった。

図2 ヒマワリの草丈変化 図3 ケナフの草丈変化

 

4.考 察

 現在、ケナフは多くの小・中学校で教材として利用されている。今後も、環境学習や”総合的な学習の時間”の教材として、多用されるであろう。その際、靭皮部の繊維を用いた紙すき実践だけでなく、栽培学習などと絡めた多様な教材化が必要である。
 本研究では、教育現場で利用されることが少ないケナフ木質部の教材化を試みた。
 木質部を用いた炭焼きについては、室内でも簡単に行えることがわかった。その半面、コンロなどの使用器具により、焼く時間や木質部の準備(長さ・太さ)などの調整が必要なことが明らかとなった。教室で実践する場合は、それぞれの現場の状況に合わせ、炭焼きの条件を決める必要がある。また、換気にも注意を払わねばならない。
 木質部の土壌改良効果については、いくつかの文献で紹介されており、木質部の炭を土壌改良剤として(非木材紙普及協会 1996)、また粉砕した木質部を園芸用培養土として(千葉 1999)使用する方法が提案されている。
 ケナフ木質部の炭に限らず、土壌肥料学の分野では、以前から炭の土壌改良効果が注目されており、(1)多孔質で適度な空気・水を保つ、(2)有用な微生物のすみかとなる、(3)アルカリ性であり殺菌力・中和力がある、などの働きが認められている(農文協 1986)。ケナフの炭についても、学術的な研究が始められており、比表面積が大きく、吸湿性・消臭性に優れていることが報告されている(木崎 2000)。ケナフ木質部の炭の表面積が大きいことから、保水性向上などの土壌改良効果が高いと期待される。また、土壌の団粒間に細かな炭が入ることで、排水性や通気性の向上効果もあると考えられる。
 栽培実験中、炭・木質部チップを混ぜた畑土は、もとの土と比べ柔らかい土となり、根の伸長に有利な土壌であると思われた。しかしながら、表1に示す移植38日後の乾物重では、ヒマワリ・ケナフとも、ほとんどの試験区の間に差異は認められなかった。この結果は、ヒマワリ・ケナフとも地上部と根の生長が旺盛な植物であり、柔らかさ・保水性・通気性などの土壌特性の影響が出にくかったこと、および実験期間が短く有用微生物の効果が現れなかったこと、などによると考えられる。
 本実験と同様な栽培実験を、別の作物で、炭の中で増殖した土壌微生物が作物の生育に影響を与える程度の長期間で設定すれば、木質部炭・チップの土壌改良効果は観察できると予想される。
 なお、ケナフ栽培区で多量の木質部チップを加えた土壌4での茎・葉の乾物重が、他の試験区より小さかった。この原因が、土壌間隙が多くなったための化学肥料の流亡であるのか、ケナフ木質部の出す忌避物質によるものなのかは、今後の検討を要する。
 ところで、環境学習教材として注目されてきたケナフであるが、最近、教材としての価値や環境に対する影響を疑問視する意見が出されるようになった。峠田(2000)は、森林生態学の立場から、ケナフの大量栽培は自然環境を破壊する危険性があると指摘した。また、大河内(2000)は、ケナフという“マスコット”に頼る環境教育の問題点を述べている。真下(2000)も、ケナフ教育・栽培に否定的な文献を紹介している。
 これらの主張のうち、無計画なケナフの大量栽培が生態系に対して悪影響を及ぼす可能性や、環境教育を十分に理解せずにケナフの良い面のみを強調する授業の危険性は、当然考えなければならない問題である。環境教育でケナフを教材として用いる際は、教師自身が、ケナフ栽培が従来の生態系に与える影響や、紙すき実験の排水の問題、使わなかった木質部廃棄の問題、などを十分に理解していることが不可欠である。また、ケナフの問題に限らず、環境教育の本質を深く理解しておくことも重要である。この様なことをふまえた上であれば、紙すき・栽培・調理・工作の材料として、また地球環境を考える糸口として利用できるケナフは、今後も教材としての利用価値があると考える。
 本実験では、教育現場で利用されることの少ないケナフ木質部を炭やチップにし、土壌改良剤として用いることを試みた。今回の条件では、土壌改良の効果は認められなかったが、作物や栽培期間を変えることによって、教育現場でケナフ木質部の有用性を示すモデル実験が組めると思われる。環境教育の基本は、大河内(2000)も述べているように、「循環」である。栽培したケナフの一部は紙などに加工し、残りは土壌に戻して次の作物栽培に役立たせることを観察する学習を通して、生徒に物質の循環を認識させることができる。この様に、ケナフ学習を栽培教育と結びつけることにより、ケナフの教材としての価値をより高められると思う。
 今後も、ケナフは多くの小・中学校で教材として用いられるであろう。その際、ケナフの紙すきだけにとらわれず、多様な面での教材化を試みてほしい。その一つとして、本実験で試みたケナフ木質部の土壌改良実験は、「循環」を考えさせる教材として、有用であると考える。

表1 各土壌で生育させたヒマワリとケナフの乾物重

 

引用文献

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非木材紙普及協会編 1996 ケナフの話 非木材紙普及協会 pp.71
日野 秀 2000a それゆけケナフプロジェクト4−世界にひとつしかない修了証書ができた 食農教育 2000年夏号 p130-135
日野 秀 2000b それゆけケナフプロジェクト3−広がる社会とのつながり 食農教育 2000年春号 p118-121
居川幸三 2000a 【ケナフ】こんなにたくさんケナフ料理 食農教育 2000年秋号 p110-111
居川幸三 2000b 【ケナフ】芯と繊維で工芸に挑戦 食農教育 2000年秋号 p112-113
神谷輝幸 1999 自然農法・炭焼きから循環型社会を構想する総合的な学習 食農教育 1999年秋号 p54-58
神谷輝幸 2001 雨の中の炭焼きをやり遂げたパワーの秘密は? 食農教育 2001年1月号 p66-67
木崎秀樹編 2000 広島発ケナフ辞典 創森社 pp.144
小林良生 1998 環境保全に役立つ紙資源ケナフ(増補版) ユニ出版 pp.303
真下弘征 2000 生活環境づくりの力を育てる環境教育 技術教室581 p4-7
文部省編 1999 特色ある教育活動の展開のための実践事例集−「総合的な学習の時間」の学習活動の展開(小学校編) 教育出版 pp.262・神奈川県相模原市立淵野辺小学校(p101-103)・福岡県北九州市立祝町小学校(p225-230)
長沢郁夫 2000 【ケナフ】紙つくりに失敗!でもランプシェードが 食農教育 2000年秋号 p108-109
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大河内紅実 2000 環境教育教材としての「ケナフ」を検証する 技術教室581 p41-49
岡 正明 2000 栽培学習教材としてのケナフの評価 宮城教育大学環境教育研究紀要2 p1-6
佐藤 庚他 1983 工芸作物 文永堂 pp.294
佐藤裕一郎 1999 「炭焼きでお金を稼ぐ」という目標が中学生を本気にさせた 食農教育 1999年夏号 p74-79
峠田 宏 2000 ケナフの誤解−温暖化防止に役立たない むしろ自然環境を破壊する サイアス 2000年9月号 p87
鶴見武道 1999 楽しい炭やき教室1−伏せやき法で炭をやこう! 食農教育 1999年秋号 p10-11
鶴見武道 2000 楽しい炭やき教室2−ドラム缶窯で炭をやこう! 食農教育 2000年冬号 p10-11
脇谷貴成 2000 ケナフでどんな環境学習ができるか 技術教室581 p35-40

 

* 宮城教育大学教育学部生活系教育講座
** 宮城教育大学大学院教育学研究科生活系教育専修

 

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